ナタリー PowerPush - 1966 QUARTET×NIGO

マニア納得のTHE BEATLESカバー集を紐解く

THE BEATLESには今のポップスにないものがあふれてる

──昨年からメンバーになった江頭さん以外、THE BEATLES作品に携わるのは2回目ですが、前回と何か変化はありましたか?

松浦 たぶん180度ぐらい違いますね。デビューのときはTHE BEATLESの初歩から始めたので、THE BEATLESを勉強してなんとか形にしようぐらいのことしかできなかったんです。でも今や毎日聴くほどのTHE BEATLES好きなので、この4年間を経て、次は知ってるTHE BEATLESを自分たちでどうアレンジしていくかという作業ができるようになった。より深い部分まで表現できるようになりましたね。メロディの歌い回しも、前回はがんばってコピーしてみようっていう感じだったんですけど、今は体になじんでるメロディに対して、自分たちなりのオリジナリティを出して遊べるようになってきたというか。

花井 1枚目はみんなバラバラでがんばった感があったよね。

林はるか(Cello)

林はるか(Cello) 結成して間もない頃だったので、とりあえず合わせるのに必死だったんですけど、4年間やってお互いのことがわかって、自然に合わせられるようになりましたね。

──カルテットは合わせれば合わせるほど味が出ますからね。そんな皆さんにとってTHE BEATLESとは?

松浦 もともと「Yesterday」ぐらいしか知らなかったので、すごい新鮮なんですよ。50年も前の曲なのに、こんなメロディ聴いたことないっていう新鮮味を持って聴けていて。メロディラインを勉強できるというか。コード進行にしても、今のポップスにないものがあふれてる。しかも曲によって全然違って、THE BEATLESにはパターンがないんですよね。

──そこが愛される所以ですよね。皆さんの事務所の社長である高嶋(弘之)さんは日本におけるTHE BEATLESの仕掛人ですが、その高嶋さんからTHE BEATLES論は叩き込まれてます?

松浦 毎日THE BEATLESのことをしゃべってますよ(笑)。

花井 移動中とかもよく、ね。

松浦 選曲会議のときも、うちらが提案すると「いい選択だね、君わかってるよ」って言われたり、逆に落とすと「何考えてるんだ、この曲落とすなんて」って(笑) 。

ただのカバーじゃなくて「わかってる」カバーを

──ではNIGOさんからは何か?

 今回作っていただいた「HELP!」のPVでピアノの江頭さんが赤い指輪をしてるんですけど、あれにはコンセプトがあって……。

NIGO 映画「HELP!」(「ヘルプ!4人はアイドル」)は、指輪を巡ってひと騒動あるんですよ。リンゴ・スターがしてる指輪のストーリーなんですけど、それは絶対入れたいなと思っていて。映画の頭の演奏シーンもかなり参考にしました。光の当て方とかもそこから取り入れてますね。

松浦 こういう話、NIGOさんはちょっとずつしか教えてくれないんですよ。実はあのPVにはもっといろいろ散りばめられてるんですけど、いまだにそれしか教えてもらえなくて、いつも小出しなんです。インタビューのたびにチラっとNIGOさんが話されることを聞いて、ああそうなんだってちょっとずつネタがたまっていくという……。

──お会いするのは今日が何度目ぐらいですか?

NIGO もうけっこう。

松浦 10回ぐらい? でもいくら会ってもあんまり教えてくれないですよね(笑)。

NIGO ホントにどうでもいいところなんで(笑)。料理で言ったらコショウとか。

NIGO

松浦 そこが大事なんですよ。

一同 (笑)。

NIGO 今回やらせてもらえるんだったら、ただのカバーじゃなくて、マニア目線で見ても「わかってるな」っていう感じを出したくて。だからフィギュアにしても、マニアが見ればあれをサンプルにしてるんだってわかるとか。

──そのマニア目線が加えられることによって、サウンド的にも質が上がりますよね。今回NIGOさんは、アートディレクションだけでなく、選曲に関してもアドバイスしたそうですが。

NIGO 軽く、ホントに軽くですよ。マニア目線としてこれはいいかなっていう曲を挙げてね。でもメンバーの出していた候補曲とほぼかぶってました。ただ、どうしてもやったほうがいいなって曲があったんですけど……。

──それは入ってないんですね。ちなみになんの曲ですか?

NIGO 言えないんですけど、それは次回。

松浦 次回のトップでいこう(笑)。

再現は1つのこだわりポイント

──そうやっていろいろな意見を踏まえて15曲の収録曲を選んだわけですが、1人ずつお気に入りの曲を教えてもらえますか?

江頭美保(Piano)

江頭 ピアノのソロ曲を1曲入れたのでもちろんそれは聴いていただきたいんですけど、4人として聴いてほしいのが「Ob-La-Di, Ob-La-Da」です。シューベルトの「ます」という曲のパロディになっていて、クラシカルな要素が強い曲なのでここぞとばかりにがんばりましたね。これだけ4人同じブースで録ったので、息遣いが生演奏と同じような感じになっています。

──なんで一緒に録ることになったんですか?

松浦 クラシックっぽく、四重奏っぽく仕上げたかったので、逆にブースに入ると息遣いが感じられなくてうまくできなかったんですよ。なので舞台の上のようにやったほうができるんじゃないかと。ただ1人が間違えると連帯責任になるので、この曲は何度録り直したことか……。でもやっぱり普通のカルテットみたいに聞こえてよかったですね。

──花井さんはどの曲が気に入ってます?

花井 私はあえて「Yesterday」にしようかと。

──これ、デビューアルバムに収録したものとまったく同じアレンジですよね。

花井 そうなんですよ。それゆえ、ここに入れる意味をこの1曲に凝縮させなきゃいけないなという気負いがありましたね。でも逆に、4年間ずっとコンサートで弾いてきたぶん、デビューアルバムのときよりも成長した「Yesterday」を聴かせられるんじゃないかという自負もあって。ただ、もう一度冷静になって掘り下げて作ろうと突き詰めたら、結局一番苦労しました。

──でも、この「どうだ!」って感じの歌い上げる「Yesterday」が最後にあることでアルバム全体が締まりましたよね。

花井 ホントですか? ありがとうございます。苦労したぶん、思い入れが強いですね。

松浦 私はですね、個人的に「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」がもともと大好きなんですよ。だからこれは絶対入れるって言い張って、いざアレンジが上がってきたらむっちゃカッコよかったんです。で、さらにみんなで初めて合わせたときのぴったり感が尋常じゃなくすごくて。なんだろうあれ、気持ち悪いくらい合ったよね?

花井 普通テンポ感とかがずれたりするんですけど、みんなこのアレンジに対しての迷いが全然なくて、ピタッと合いましたね。

松浦 すっごい気持ちよくてそこから虜なんです。

 私は花井さんのバイオリンがフィーチャーされた「Girl」をお勧めしたいと思います。バイオリン2人の音を比べると、梨沙ちゃんはパキっとした音なのに対して、花井さんのほうがゆったり流れるような柔らかい感じなんですよ。それが「Girl」の寂しげで哀愁を帯びた雰囲気にピッタリで。

──原曲よりもだいぶ哀愁が漂ってますよね。上がってきたアレンジよりも感情を込めてる?

花井 そうかもしれないですね。

 弾いてるときの表情も悲しさそのもので、表情からも音からも哀愁があふれ出てる(笑)。あと、途中に息継ぎの音があるんですけど……。

──ジョン・レノンの息継ぎですよね。あれどうやって再現したんですか?

 私が出したんですけど、チェロの駒の部分を指ですーっとこすると、人が息をしているような大きい音が出るんです。原曲のあの音をどうやって出そうかって4人で相談していて、最初はバイオリンでいろいろ試していたんですけど。

──1966 QUARTETのアルバムにはいつもSE的な音が入ってますよね。極力原曲をすべて再現したいと?

花井 そうですね。そこは1つのこだわりポイントとしてやっていこうかなと。

ニューアルバム「HELP! ~Beatles Classics」2013年6月5日発売 / 2940円 / 日本コロムビア / COCQ-85012
ニューアルバム「HELP! ~Beatles Classics」
収録曲
  1. Help!
  2. Can't Buy Me Love
  3. And I Love Her
  4. I Feel Fine
  5. Hey Jude
  6. Back In The U.S.S.R.
  7. Hello Goodbye
  8. Nowhere Man
  9. Ob-La-Di, Ob-La-Da
  10. Girl
  11. Something
  12. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
  13. Don't Let Me Down
  14. Here There And Everywhere
  15. Yesterday
1966 QUARTET
(いちきゅうろくろくかるてっと)
1966 QUARTET

THE BEATLESの初代担当ディレクター・高嶋弘之が送り出す、クラシックのテクニックをベースに洋楽をカバーする女性カルテット。現メンバーは松浦梨沙(Violin)、花井悠希(Violin)、江頭美保(Piano)、林はるか(Cello)。THE BEATLES来日の年である「1966」をユニット名に冠し、2010年11月「ノルウェーの森 ~ザ・ビートルズ・クラシックス」で日本コロムビアよりCDデビュー。2011年11月にQUEENをカバーした2ndアルバム「ウィ・ウィル・ロック・ユー ~クイーン・クラシックス」を発売したのち、メンバー交代を経て2012年11月にマイケル・ジャクソンをフィーチャーした「スリラー ~マイケル・ジャクソン・クラシックス」を完成させる。2013年6月、再びTHE BEATLESに回帰した4thアルバム「HELP! ~Beatles Classics」をリリース。

NIGO(にごー)
NIGO

クリエイティブディレクター、DJ。ファッションブランド「A BATHING APE」の創設者。現在はフリーのデザイナーとして活動。2004年にRIP SLYMEのILMARIとRYO-Z、m-floのVERBAL、WISEと結成したヒップホップユニット・TERIYAKI BOYZのメンバーでもあり、DAFT PUNK、カニエ・ウェスト、Corneliusといった国内外のそうそうたるアーティストとのコラボレーション作をリリースして注目を集めた。