映画ナタリー Power Push - 「傷物語〈III冷血篇〉」神谷浩史インタビュー

声優としての目標と西尾維新という才能

軽い気持ちで読んでいたら、魅力に取り憑かれた

──「化物語」の出演オファーが届いたときの心境を覚えていらっしゃいますか?

「化物語(上)」表紙 Illustration/VOFAN ©西尾維新/講談社

最初はどうだったんですかね……「シャフトさんが新しいテレビアニメを作ります、もしかしたら神谷さんにお願いするかもしれません」というニュアンスでお話があったんです。それで、すごく失礼なんですけど、西尾維新先生の作品を存じ上げていなかったんですよ。だから西尾維新という存在がとんでもない才能を持っていることを全然知らなかったんです。今でこそ嫌というぐらい才能を見せつけられていますけど。

──では大きな感動というものはなかった?

その人の映像化不可能と言われている原作を、シャフトという独特な表現をする制作会社がアニメ化するということが、世間的にどういうふうに受け取られているのか全然わからなかったんです。だから「知ってる知ってる! これ、ものすごい才能のある作家さんの原作だよね。しかもそれを素晴らしい制作会社であるシャフトが映像化する! この組み合わせの作品の一部を僕に任せていただけるなんて……ありがとうございます!!」って感じではなかったんですよ当時は(笑)。

──読み始めたときは、もう暦を演じることは決まっていたんですか?

いえ、まだ候補の1人という感じでした。だから、初めはすごい軽い気持ちで読んでいったんです。決まらなかったときのことを考え、自己暗示として軽い気持ちでいようとしていたんだと思うんですけど。でも、読み始めてだんだんその魅力に取り憑かれたんでしょうね、これやらせてもらえなかったらすごいショックだなという気持ちが膨らんでいきました。

西尾維新は文字に愛されている

──原作を読んでいるとき、暦に対してどのような印象をお持ちになりましたか。

僕、基本的にどんな原作を読んでいても、どんなキャラクターでも自分の声が聞こえてくることってないんです。でも暦だけは初めて、僕と似たような声帯で言葉を発するし、どういうリズムで、どういうテンポでしゃべるのか想像がついた。それは僕にとって初めての体験で、その後もまだないことなんです。同じ時期にシャフトさんとやらせていただいていた「さよなら絶望先生」とかは、久米田(康治)先生のマンガがもともと好きだったので、お話が来る前から原作を読んでいたんですが、まったく自分の声で聞こえてこなかったので。でも「化物語」だけは、原作を読んだときから暦の最後のセリフがずっと頭の中で鳴り響いていて、それを声に出したいと思っていました。

──西尾維新作品の魅力はなんだと思いますか。

「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」表紙 Illustration/竹 ©西尾維新/講談社

なんでしょうね……今は現役の作家なのでいろんな意見があると思うんですが、後世になったときにすごい才能であると揺るぎない評価を受けるんじゃないかなと思います。今でももちろんすごく評価されていますが、渦中なのでいろいろな意見が上がると思うんです。でも後年にはプラスの意見だけで埋め尽くされるんじゃないかと思います。

──確かに、新しいことにどんどんチャレンジされていますし、今の段階で評価を下すのは難しいかもしれませんね。

でも、本当に文字に愛されている人だと思います。よくこんなこと思いついて、それを言葉で表現できるなって。しかもすごいわずかな時間で。それこそ入場者特典の冊子(「混物語」)でも2000文字ぐらいってオーダーを出したら2万文字になって戻ってきて……もう凡人には本当に意味がわからないですよね(笑)。

暦の一番の理解者でありたい

──神谷さんにとって〈物語〉シリーズはとても大切なものですか?

声優という職業に就いてしんどいこともあるし、なんで僕この仕事を続けてるんだろうと思うときもあるんですが、この作品に巡り合えて声優やっていてよかったって思いますね。それは間違いないです。

──では阿良々木暦はどのような存在?

「傷物語〈III冷血篇〉」より。

なんですかね……ちょっとわからないです(笑)。でも、僕がどうありたいかは明確です。彼の一番の理解者でありたいと思ってるんです。西尾維新先生がどんなアプローチで暦のセリフを文字にしてきたとしても、最終的に彼の言葉は僕の声帯から発せられるものであってほしいという願望がある。だからどんな状況にあっても彼の一番の理解者でありたいと思っています。

ブックパス

2017年2月17日(金)まで上記3冊が読み放題! また最大2000円分のコインがもらえるキャンペーン「春読むフェス」が開催中なので、〈物語〉シリーズ、戯言シリーズ、忘却探偵シリーズをお得に購入できるチャンスだ。

ブックパスとは?
スマートフォンやパソコンで利用できるauの電子書籍ストア。月額562円(税別)で西尾維新の人気シリーズ冒頭巻も読み放題! 初回入会なら30日間無料でお試しもできる!
劇場アニメ「傷物語〈III冷血篇〉」全国で公開中
劇場アニメ「傷物語〈III冷血篇〉」
ストーリー

“怪異の王”キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを助けたことにより自身も吸血鬼となってしまった高校生・阿良々木暦。3人の吸血鬼ハンターとの戦いに勝利し、キスショットの四肢を取り戻した暦は、吸血鬼の恐るべき本質を知る。人間に戻るためキスショットを完全復活させた自分の行為を悔やむ暦の前に同級生の羽川翼が現れ……。

スタッフ

原作:西尾維新「傷物語」(講談社BOX)
総監督:新房昭之
監督:尾石達也
キャラクターデザイン:渡辺明夫、守岡英行
音響監督:鶴岡陽太
音楽:神前暁
アニメーション制作:シャフト

キャスト

阿良々木暦:神谷浩史
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード:坂本真綾
羽川翼:堀江由衣
忍野メメ:櫻井孝宏

神谷浩史(カミヤヒロシ)

1月28日、千葉県生まれ。声優、ナレーター、アーティストとして幅広く活躍。「ハチミツとクローバー」「機動戦士ガンダム00」「さよなら絶望先生」「夏目友人帳」などでメインキャラクターを演じる。2010年には、「化物語」の阿良々木暦役で第9回東京アニメアワード個人賞・声優賞を受賞。その後も「黒子のバスケ」「進撃の巨人」「おそ松さん」などの話題作に出演する。公開待機作に「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」「夜は短し歩けよ乙女」などがあり、2月12日放送開始の特撮ドラマ「宇宙戦隊キュウレンジャー」で声優を務める。