映画ナタリー Power Push - 「傷物語〈III冷血篇〉」神谷浩史インタビュー

声優としての目標と西尾維新という才能

完成形は理屈を超えたところに存在している

──先ほど「原作に書かれているニュアンス」というお話がありましたが、台本をチェックするときに原作も読まれるんですか?

「傷物語」表紙 Illustration/VOFAN ©西尾維新/講談社

はい。チェックをするときは、台本、原作、辞書、PCを机に並べます。まず台本を読んで自分のセリフにチェックを入れ、そのシーンに該当する部分を原作から拾い上げて、それを一言一句チェックしていきます。シリーズを通して「てにをは」1つとっても原作のままやるという不文律のようなものが生まれているので、間違いがないか見ていきます。そのとき、キャラクターの気持ちなどが書かれていたら台本に写していきます。

──では台本はメモでぎっちり?

そこまでではないです。長く演じているので、書かずとも理解している部分もありますし。でも、気持ちの流れの中でこれは外してはいけないという箇所であったり、表面に出ている部分と内面とが大きく異なるシーンなどはしっかりと書き込みます。書き込みすぎると本当に重要なことがわからなくなりますし、相手役の人との掛け合いから生まれてくる部分こそが何よりも重要だと思っているので、メモを取りすぎて自分の芝居を限定してしまうのはもったいないなと。

──やっぱり一緒に録音することが大事なんですね。

そうですね、理屈を超えたところに完成形が存在していると考えているので。だから原作をチェックするときは、絶対に押さえるべきところを押さえていく感じです。本番になったとき、自分が考えれば考えるほど理屈を超えた何かが生まれてくるのかもしれないし、逆に理屈に縛られてつまんない自分になってしまうかもしれない、それは現場で共演者の方たちといっせーのせで声を出してみないとわからない。でも本シリーズは、原作にちりばめられている答えやヒントを吸収して、それを持っていったほうが成功する作品だという印象があります。

人間では演じられないキャラクター

──基本的にセリフは原作通りというお話ですが、西尾維新作品の言葉遣いは声優さんにとって違和感があるものなのでしょうか。

違和感はありましたよ。音にするのに難解な言葉の並びというのが数多くあって。それこそ西尾維新作品だとよりいっそう多いです。アニメ化された作品でもメチャクチャな役がいっぱいありますよね? 「刀語」で全部のセリフを逆から発音させられたりしている人とかいましたし、あと「めだかボックス」で全部数字でしゃべらされる人もいましたよね。やらされるこっちの身にもなれと!(笑) もうめちゃくちゃですよ、本当は人間では演じられないキャラクターですから。

──「化物語」で初めて暦のアフレコに挑んだときは大変でした?

大変でしたね。第1話の収録のとき、音響監督が台本に直しを入れたんですが、それがすごく多くて。原作に合わせていったんですけど、有名なところでは「~だけど」を「~だけれど」に直したりとか。でも原作においてもその言葉に法則性があるわけではなく西尾維新先生に「どっちなの?」って聞いても「いや、法則はないです」とおっしゃられて……僕は原作準拠だなと考えているから、理由はどうあれ、原作にそう書いてあるならその通りにします。

──本当に原作通りなんですね!?

そうですね、でもあくまでも基本的にはですね。斎藤千和さんとかはすごいなと思うんですけど、台本と原作に「~だけど」と書いてあっても「~だけれど」に変えるんですよ。原作で「~だけど」になっていると指摘されても、「(戦場ヶ原)ひたぎは『~だけれど』のほうがいい」と言い、逆に重版がかかったときに原作のほうが修正されていたこともあって。「そのほうが、ひたぎらしい」ということなんですけど、僕はそこをすごく尊敬していて、ひたぎという人物の声を任されるにあたっての彼女のこだわりだと思う。ひたぎは1人の作家から生み出されたさまざまなキャラクターの中の1人ですが、彼女はその声を自分だけで担っていて、それに対しての自信なんですよね。僕はそういう自信があまりないので、勉強していかないとみんなに追いつけないと思ってるんです。

──なるほど。

いろんな人がいて、いろんな思いやアプローチがあって、それぞれのこだわりが存在しているから、作品を作ったときに化学反応が起こるんだと思うんです。

ヒロインがいて、暦がいる

──暦を演じるうえで心がけていることはありますか。

エピソードによって変わってくるものだと思うんですが……暦自身が自分のために存在してないってことは意識しているかもしれませんね。主人公主人公していないというか。

──主人公主人公?

「傷物語〈III冷血篇〉」より。

暦はいつも、目の前で起きてる事象に関して、それに巻き込まれている人のために動いていると思うんです。それは突き詰めていくと自分のためなんだとは思うんですが、目の前で起きていることを見過ごせない。考えるよりも先に体が動き、結果的にヒロインたちを引き立たせることになる。暦は自分1人でポジションを確定しないんです。僕も自分で主役として確立できる人間ではなくて、周りを引き立てることで存在できる場所を探すタイプなので、似てる部分もあるのかなと思います。

──ヒロインたちがいなければ主人公にはなれないと。

ポジションとしては主人公なんですけど、1つひとつの物語の中では各話のヒロインがメインなんです。だからあくまでヒロインがいて、暦がいる。その逆ではない。そういう感覚で臨んでいます。

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劇場アニメ「傷物語〈III冷血篇〉」
ストーリー

“怪異の王”キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを助けたことにより自身も吸血鬼となってしまった高校生・阿良々木暦。3人の吸血鬼ハンターとの戦いに勝利し、キスショットの四肢を取り戻した暦は、吸血鬼の恐るべき本質を知る。人間に戻るためキスショットを完全復活させた自分の行為を悔やむ暦の前に同級生の羽川翼が現れ……。

スタッフ

原作:西尾維新「傷物語」(講談社BOX)
総監督:新房昭之
監督:尾石達也
キャラクターデザイン:渡辺明夫、守岡英行
音響監督:鶴岡陽太
音楽:神前暁
アニメーション制作:シャフト

キャスト

阿良々木暦:神谷浩史
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード:坂本真綾
羽川翼:堀江由衣
忍野メメ:櫻井孝宏

神谷浩史(カミヤヒロシ)

1月28日、千葉県生まれ。声優、ナレーター、アーティストとして幅広く活躍。「ハチミツとクローバー」「機動戦士ガンダム00」「さよなら絶望先生」「夏目友人帳」などでメインキャラクターを演じる。2010年には、「化物語」の阿良々木暦役で第9回東京アニメアワード個人賞・声優賞を受賞。その後も「黒子のバスケ」「進撃の巨人」「おそ松さん」などの話題作に出演する。公開待機作に「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」「夜は短し歩けよ乙女」などがあり、2月12日放送開始の特撮ドラマ「宇宙戦隊キュウレンジャー」で声優を務める。