なるべくフラットに描きたい

──「逃げ恥」で読者層も広がったとは思うのですが、ご自身も現代ものは描きやすいですか？

最初は描きやすかったんですけど、最近はね、「作者がどう契約結婚や現代の男女関係を描くのか見届けたい」みたいなことを言われるたびに「うわー、私、それ描かなきゃいけませんか？」って考えちゃいますね（笑）。別に私、専門家でもないので、そんなに背負うこともなく、もっと気楽でいいと思うんですけど。まあやっぱりそれなりに納得がいく、ここまで読んでてよかったなって思ってもらえるのが一番いいと思うので、そこはきちんと描かないといけないし。「自分とは違うけどこういうのもあり」でもいいんです。萎縮はしないで自由に描きたいって思うし、私が何かマズいことを描いたら担当さんとか校閲さんが止めてくれるとは思ってるけど、全方位に気を配りつつ描かないといけないなとは思いますね。

──正解はないですし、難しいところですよね。

例えばみくりちゃんと平匡さんは両思いになったのに、みくりちゃんは仕事として結婚を続けたいからお金は欲しい。でも普通の夫婦だったらお金をもらうのは……ってモヤモヤする。そのモヤモヤがわかるっていう人もいれば、みくりのことをなんかがめついって感じる人もいるし。人それぞれなので。でもみんなに納得いってもらうっていうのは無理だし。「私は納得しないけどわかるよ」くらいには届くように、なるべくフラットに描きたいっていうのは思ってますね。

──話題にされやすいテーマだとも思います。

そうですね。「毎回旦那と一緒にあーだこーだ言いながら読んでます」って言ってくださるのとかもすごくうれしくて。別に全部肯定してもらわなくても「自分はこう思う」「いや、私はこう思う」って、会話のきっかけになるってすごくうれしいなって思います。

いつまでも階段って上がれるんだなって

──「逃げ恥」は今6巻まできて、海野先生の最長連載となりましたね。

終わりが見えずに始めてもちゃんと終われるっていう自信が、自分の中でつきましたね。今までずっとオムニバスとかショートを描いてきて、「海野さんは短編作家」って言われてきて、ちゃんと長編を描いてみたいというのがあったので。「後宮」や「小煌女」とかも描いたけど、あれはベースがあったものですし。こういう現代もので、かっちりプロットを決めなくてもちゃんと終われるかというのが、自分の中でひとつ挑戦だったんですよ。まあ、みんなこんなのは最初の連載とかでやってるんでしょうけど（笑）。

──26年目にして、階段をひとつ上がった感じといいますか。

そうそう。なんかいつまでも階段って上がれるんだなって。やっぱり同い歳で今も描かれている作家さんって、20代の頃にバーンと売れて雑誌の顔を担って、結婚して子供ができて、ちょっと仕事をセーブして年齢層が上の雑誌に移って……っていうのが多かったりするので、びっくりされますね。40歳過ぎてモーニング（講談社）で初めて巻頭やるとか。講談社漫画賞も、この歳で初めていただいたり。20代の頃なんて全然仕事もなかったし、その時に結婚とかして子供もできてたら、辞めちゃってただろうなって思うし、ここまで続けてこれたからこういう展開になったんだなと思いますね。

──26年間、コンスタントに作品を発表され続けていたことも、とてもすごいことだと思います。

なんか地道にやってたら花開いたって感じでしょうか。今年は自分の病気とかもあったし、めまぐるしかったですね。まさかこんな激動の時代が40過ぎてやってくるなんて思わなかったです。

──ほかの作家さんの励みにもなるのではないでしょうか。

40過ぎてもいろんなことがあるんだって思ってもらえたらうれしいですね。まだまだ、何か起きるかわかりませんよね。