コミックナタリー PowerPush - 映画「TOKYO TRIBE」

映画化記念!園子温×井上三太「TOKYO TRIBE」大放談

園子温のオリジナリティ

──「TOKYO TRIBE」ではラップミュージカルをはじめ、“発明”ともいうべき斬新な試みがたくさんありました。いとうせいこうさんが以前「ヒップホップとは発明することである」と言ってましたが、僕はその意味でもこの映画はすごくヒップホップ的だと思ったんです。

園子温と井上三太。

井上 それはすごくわかるな。この前、「ロンドンハーツ」っていう番組の企画で狩野英孝さんが映画監督になっちゃうってドッキリをやってたんですよ。

──映画監督を引き受けた狩野さんが、変なことばっかりするスタッフに慌てるっていう。実は裏でロンドンブーツ1号2号の淳さんがスタッフに指示してるんですよね。

井上 そうそう。その中でロンブーの淳さんがカメラマンにわざと変なズームをするように指示する場面があったんです。ビヨヨーンみたいな。番組的には「ここが笑うポイント!」みたいな感じだったんだけど、僕はそれを観て普通に「ありだな」と思っちゃったんです。むしろタランティーノなら、アントニオ・バンデラスをビヨヨーンってズームで撮りそうって(笑)。で、タランティーノがやったら「斬新な手法」になるわけじゃないですか。

──なるほど。そう考えるとラップミュージカルも同じですね。

井上 まさに。なんでビヨヨーンってズームしちゃいけないの? なんでラップでミュージカルしちゃいけないの?っていうことなんです。園さんってはちゃめちゃな部分が目立つけど、映画に対する深い愛情を持っていると同時に、ものすごい勉強家だとも思うんです。かといってメソッドだけに頼るわけでもなくて。監督の前作「地獄でなぜ悪い」を観たとき、園さんが抱いている日本映画への不満のようなものを感じたんです。「ぬるい映画ばっか作りやがって」「なんでもっと冒険しないんだ」という。僕は今回の「TOKYO TRIBE」を観て、なんか顔射されたような気分になりました。

園子温

 どういうこと?

井上 最初はびっくりしちゃうような感覚というか。タンパク質のパック効果で肌が綺麗になっちゃうような感覚というか。「監督、濃かったわ~」みたいな。

 わかったような、わかんないような(笑)。そういえば三太さん、しょこたん(中川翔子)がぶどう舐めるシーンがエロかったって言ってたじゃないですか。あのシーンにどんな意味があるかわかります?

井上 わかんなかったです。

──中川翔子さんはブッバの娘・KESHA役ですね。

 あのシーンの前にブッバの妻・エレンディア役の叶美香が、メラとブッバのチンポを両手でギュッって握るじゃないですか。それを観たしょこたんがぶどうをほおばるんですよ。「あたしにはまだキンタマがあるわ」って(笑)。彼女にも実際「まるでキンタマを愛おしく舐めるようにぶどうをほおばって」って演技指導したんです。つまりは乱交ですよ。あのシーンは、ブッバ一家が近親相姦や乱交をしてるっていう象徴で。サオは母さん、キンタマは娘っていう。

──叶美香さんの存在感はすごかったです。

 彼女には注目してもらいたいね。特におっぱいに。

この映画は壁ドンムービー

鈴木亮平演じるメラ。

──身体といえば、メラ役の鈴木亮平さんの肉体も見事でした。

 僕ね、夢だったんですよ。ムキムキマンがゴリゴリの汗かいて肉弾戦やるような映画を撮るのが。最近の日本映画って華奢で、のれんみたいな前髪の男が、恋だの愛だのいってるようなのばっかりでしょ。もうムキムキ、ムキムキしてて気持ち悪いくらいのやつを撮って、女の子に見せたかったんですよ(笑)。そしたら今回、黒人のムキムキと日本人のムキムキが汗みどろになって戦う画が撮れて。早くも夢が叶って本当にうれしかったな。

井上 今回、アクションシーンが全体的にすごい迫力ですよね。

 原作には「これを映像化したら絶対に金がかかる」ってアクションシーンがいくつもあって(笑)。それをいかに違うものに置き換えるかを考えた結果、俳優がスタントなしで実際にアクションしてたら、マンガとは違うベクトルでカッコいいだろうと思って。今回ワンカットにこだわったのは、俳優が実際にやってるんだってことをわかってもらいたかったからなんですよ。

──映画では、メラが原作の主人公・海(かい)を異常なまでに敵対視する人物に改変されてました。

 この映画を「クローズ」とか「ROOKIES」みたいな感じにはしたくなかったんですよ。ああいうのって、ファッションが違うだけで中身は同じじゃないですか。結局友情っていう。だから映画では友情の要素を大々的に取りあげないことにしました。

井上 僕はこの映画を壁ドンムービーだと思っていて。

園子温と井上三太。

 何それ?

井上 壁ドンっていうのは、少女マンガで男の子が壁にドンって手を付いて、女の子との距離を一気に縮めてキスを迫るシーンのことです。

 壁ドンは知ってるよ(笑)。

井上 僕、この映画のメラはまさに壁ドンする男の子だと思ったんです。結局、男は女にキスしなきゃいけないし、拒否られるというリスクを負ってでも壁ドンしなきゃいけないっていう。

 たしかに男はやるときはやんないとね。それはこの前、壁ドンされて痛感した。

井上 えっ、監督、壁ドンされたの!?

 「ニノさん」っていう番組に出てさ。そこで「壁ドンされた女の子の気持ちをみんなでわかろう」っていう企画があったんですよ。大学生のベストボーイみたいな男の子に、僕が壁ドンされて「今夜は帰さないよ」って言われるの。もう「レリゴー!」でしたよ。

──目的に向かって邪魔者を排除していく映画版メラの姿は、まさに壁ドンしている男の子のようだと。

井上 そういうこと(笑)。

映画「TOKYO TRIBE」8月30日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー!

映画「TOKYO TRIBE」

近い未来の“トーキョー”には様々なトライブ(族)が存在し、そこに住む若者たちは、街を暴力で支配しながらお互いの縄張りを守っていた。トライブ間の暴動・乱闘は日々繰り広げられるも、互いの力関係は拮抗し絶妙なバランスで保たれていた。しかし、ある事件をきっかけに、その均衡はもろくも崩れ去る。
ブクロは、ブッバとその息子ンコイ、さらにブクロWU-RONZのボスであるメラが、政治家をも丸めこんで街を牛耳り、勢力を拡大しつつあった。そんなある日、メラはトライブの中でも異常なまでの敵対心を向けるムサシノSARUのメンバーであるキムをおびき寄せ、罠を仕掛けた。キムを助けるため、ムサシノSARUのリーダーであるテラ、ハシーム、そして海は、最危険区であるブクロに乗り込みWU-RONZを率いるメラと対峙する。そしてそこには、キムともうひとり、謎の女・スンミが囚われていた。
メラが海を敵視するワケとは?謎の女・スンミとはいったい何者?さらに、ブッバ一家が崇める大司祭とは……?
メラが、ムサシノSARUに仕掛けた戦争はトーキョー中に派生する。トーキョー全土を巻き込んだ想像を絶する一大バトルが、今夜はじまろうとしていた。

累計250万部超、90年代のストリートカルチャーを牽引した井上三太による伝説的コミック「TOKYO TRIBE2」が遂に実写映画化!鬼才・園子温のエッセンスが加わり、新たなる”TT”伝説がこの夏、幕を開ける!

井上三太(イノウエサンタ)
井上三太

1989年、「まぁだぁ」でヤングサンデー新人賞を受賞しデビュー。1993年にJICC出版局より出版された「TOKYO TRIBE」から始まるTTシリーズは自身のライフワークになっており、代表作「TOKYO TRIBE2」は香港・台湾・アメリカ・フランス・スペイン・イタリアでも出版されている。1994年からコミックスコラ(スコラ)にて連載されたサイコホラー「隣人13号」は同誌の休刊により連載が中断されるが、その後も自身のWEBサイトで続きを発表し1999年には幻冬舎から単行本化。2005年には小栗旬・中村獅童のW主演による実写映画が製作され、劇場公開された。また2002年に、自身のフラッグシップストアSANTASTIC!を渋谷にオープンするなど幅広く活躍している。

園子温(ソノシオン)
園子温

愛知県出身。1987年「男の花道」でPFFグランプリを受賞。PFFスカラシップ作品「自転車吐息」はベルリン国際映画祭正式招待のほか、30を超える映画祭で上映された。北米最大のトロント映画祭にて、2012年に「希望の国」がNETPAC審査委員賞、2013年に「地獄でなぜ悪い」がミッドナイト・マッドネス部門で観客賞を獲得。「TOKYO TRIBE」も同映画祭のミッドナイト・マッドネス部門に出品中で、3年連続の受賞が期待されている。そのほか代表作に「愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」「恋の罪」「ヒミズ」などがあり、いま最も新作が期待されている日本を代表する鬼才監督。