コミックナタリー Power Push - ヤマザキマリ「テルマエ・ロマエ」
実録!動画で味わう名物編集長とのインターナショナル生打ち合わせ
ひと通り事前に気づいた違和感を指摘し終わり、言い残しはないかと何度もネームの束を見返す奥村編集長。そしてあるページで、紙をめくる手が止まった。「むむむー?」
ラムネ瓶を初めて見て感動しているルシウスに、老人のひとりが栓のビー玉を開けてあげるシーンだ。何がおかしいか、お気づきになっただろうか。答えは動画にてどうぞ。
こういった細かいディテールの整合性にまで気づくのも、編集の大事な仕事のひとつ。ヤマザキもケアレスミスが防げて、心なしか安心した表情を浮かべていた。そうして完成した原稿がこちら。
そして打ち合わせは、ラムネ瓶のギミックや形状がいかに実用性からかけ離れ、世界でも類を見ないものであるか、またそれを生み出した日本人の国民性といった比較文化論へと逸脱していく。これも笑いが絶えない中で深い知見が繰り出される素晴らしいトークだったが、またもや心を鬼にして割愛したい。
開始から1時間半が過ぎ、雑談がひと段落したところで、タイミングを図ったようにヤマザキ側のスカイプが落ちた。おもむろに回線をつなぎ直した2人は今後の進行スケジュールを確認しあい、2時間近くに及んだ東京=リスボンのスカイプ打ち合わせは終了したのだった。
終了後、奥村編集長に「これが奥村流打ち合わせなんですね」と話しかけると、驚きの返答が。「これはヤマザキさん向けの打ち合わせスタイル。いましろ(たかし)さん相手ならぜんっぜん違うし、打ち合わせしないマンガ家もおりますわ」。
すなわち編集者×マンガ家の組み合わせだけスタイルがあって、これはただの1例に過ぎないということ。それでもヤラセじゃない打ち合わせを映像で公開できたのは、とてもラッキーだったと思う。この貴重な打ち合わせが実を結んだ「テルマエ・ロマエ」第10話は、9月25日に発売される単行本2巻に収録されているので、ぜひ実物を手に取って仕上がりを確かめてみてほしい。
時はローマ時代。公衆浴場の設計技師ルシウスは、浴場のアイデアについて悩んでいた。彼は公衆浴場で友人にグチをこぼしながら湯に入り、思索にふけろうとする。その途端、ゴボゴボと沈みいきなり現代の日本の銭湯にタイムスリップ。こうして何度もタイムスリップを繰り返し、ルシウスは新しい技師としての名声を得ていくのだが……。古代ローマと現代日本のお風呂を行き来するルシウスの活躍を描く、空前絶後&抱腹絶倒のタイムスリップ風呂マンガ。
ヤマザキマリ
1967年東京都出身。17歳の頃、絵の勉強のためイタリア・フィレンツェで海外生活を送り、貧困生活ゆえに入賞金目当てでマンガを描き始める。その後、中東、ポルトガルで生活し、現在はアメリカ・シカゴで古代ローマを研究している夫と子供の3人暮らし。「テルマエ・ロマエ」でマンガ大賞2010、および第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。