コミックナタリー Power Push - ヤマザキマリ「テルマエ・ロマエ」
実録!動画で味わう名物編集長とのインターナショナル生打ち合わせ
次に俎上に載せられたのは、昔ながらの銭湯シーン。この銭湯はアイデア経営で倒産をまぬがれているという設定なのだが、ネームではそれが「若者でにぎわう場内」として表現されていた。
しかし奥村編集長は、若者でにぎわう銭湯への違和感が拭えない。廃業が続出している銭湯の現状から考えると、「若者が多いのは嘘になる」と指摘する。
「ルシウスが『なぜボロいのに流行ってるのだろう?』と疑問を感じないと話が進まないのでは」と言うヤマザキに、奥村編集長は「流行ってる」ではなくて「潰れずに済んでる」ではどうかと進言。最終的にリアリティのない若者はやめて、常連らしき年寄り客を数人配置、という線で合意に至った。
なおこのあと話題は、若者の銭湯離れ、高すぎる日本人の衛生観念へとドリフトし、イタリア、中東、ポルトガルと移り住んできたヤマザキが見た世界の衛生事情、そして奥村編集長の中国トイレ体験と、30分以上にわたり脱線してしまった。ものすごく面白いトークだったけれど、この記事では心を鬼にして割愛したい。
ルシウスが気絶して古代ローマに戻る、お約束のシーン。今回ヤマザキがネームに起こしたのは、指にハマってしまったラムネの瓶が抜けたことで緊張が解け、安心したせいか急にのぼせてしまいローマに戻る、という筋書きだった。
ここにも奥村編集長の容赦ないツッコミが。ローマに戻ったあとの話が比較的描き込まれているのに対し、戻るシーンの描写が大ざっぱで、アンバランスに感じられるようだ。
提案されたのは、ラムネの瓶から指を抜こうとするルシウスが滑ってコケてしまい、頭を打って気絶するというアイデア。これをさらにヤマザキが持ち帰って料理した結果、なんともインパクトのある、しかも合点のいく戻り方になった。
しかもこれだと、ラムネ瓶もハマったままでローマ時代にタイムスリップするため、このあとのストーリーに無理なく瓶を使えるという副作用までもたらされた。これぞ奥村マジックと言っても過言ではないだろう。
時はローマ時代。公衆浴場の設計技師ルシウスは、浴場のアイデアについて悩んでいた。彼は公衆浴場で友人にグチをこぼしながら湯に入り、思索にふけろうとする。その途端、ゴボゴボと沈みいきなり現代の日本の銭湯にタイムスリップ。こうして何度もタイムスリップを繰り返し、ルシウスは新しい技師としての名声を得ていくのだが……。古代ローマと現代日本のお風呂を行き来するルシウスの活躍を描く、空前絶後&抱腹絶倒のタイムスリップ風呂マンガ。
ヤマザキマリ
1967年東京都出身。17歳の頃、絵の勉強のためイタリア・フィレンツェで海外生活を送り、貧困生活ゆえに入賞金目当てでマンガを描き始める。その後、中東、ポルトガルで生活し、現在はアメリカ・シカゴで古代ローマを研究している夫と子供の3人暮らし。「テルマエ・ロマエ」でマンガ大賞2010、および第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。