コミックナタリー PowerPush - 奥瀬サキ「低俗霊狩り 完全版」
完全版刊行&「自動人形」編、再開!四半世紀を経て作者が原点を振り返る
1990年前後に発表された、奥瀬サキ「低俗霊狩り」が再開される。世代によっては、スピンオフ「低俗霊DAYDREAM」「低俗霊MONOPHOBIA」の原典と聞いて反応する読者もいるだろう。連載中最大の盛り上がりを見せながら、掲載誌の休刊に伴い未完のままとなっていた「自動人形」編の続きが描かれるとあり、ファンの歓びもひとしおだ。
さらに「低俗霊狩り」の完全版が、ワニブックスより全4巻予定で刊行される。コミックナタリーではこれを記念し、奥瀬にインタビューを実施。当時の生原稿を見せてもらいながら、奥瀬に再開への思いを聞いた。また特集では「自動人形」編の序章にあたる「流香魔魅の私生活」を全ページ無料公開する。
取材・文・撮影/井上潤哉
もう続きを描く機会はないと思っていた
──「低俗霊狩り」再開、おめでとうございます。約20年ぶりということで、まさに待望の出来事だと思います。
今回再開するのは、「自動人形」編という未完のエピソードの続きになるのですが、この「自動人形」編の中断から現在までの時間経過で言えば、約25年、四半世紀ぶりということになりますね。
──四半世紀と表現すると重みが増しますね(笑)。コミックナタリーでも再開決定の際に報じさせていただいた(参照:「低俗霊狩り」復活!自動人形編は完結へ、完全版の刊行も)のですが、ものすごい反響がありました。
エゴサーチしているので、ほとんど見ていると思います(笑)。
──特にうめさんや井上純弌さんなど、マンガ家さんの歓喜の声が多く挙がっていたことも印象的でした。
ありがたいことです。続けていて良かった。
──ご本人としてはこの期間、長かったですか、短かったですか。
短かった、ですかねえ。ずっと仕事はしていましたので、思い返す余裕はなかったですね。
──確かに「低俗霊」シリーズ自体は、その後奥瀬さんが原作者としてスピンオフの「低俗霊DAYDREAM」と「低俗霊MONOPHOBIA」を始められましたし、完全に途絶えていたわけではないんですよね。ただ「低俗霊DAYDREAM」や「低俗霊MONOPHOBIA」が始まったことで、「低俗霊狩り」の続きが描かれることはもうないんだろうな、と思った人も多くいたと思います。
実際自分も「低俗霊DAYDREAM」を始めるときに、もう「自動人形」の続きを描く機会はないだろうという気持ちにはなりました。あれは「低俗霊狩り」のリメイクをしてほしいという注文から始まったものなので、そこで「低俗霊狩り」への未練は吹っ切れたというか、吹っ切らないと前に進めなかった。
コミックガムは17年前から声をかけてくれている
──これまでに「自動人形」の続きを描かないか、というオファーはほかにもあったのでしょうか。
単行本の描き下ろしでどうだろうとか、そういう提案はいただきましたけど、具体的な話に進んだのはワニブックスさんだけでした。
──なぜ単行本描き下ろしでの発表には至らなかったのでしょう。
生々しい話ですが、描き下ろし単行本では基本原稿料は出ません。じゃあ作画期間の運転資金をどうするのかという話になりますが、そこまで踏み込んだ具体的な提案はなかったということです。
──では今回、月刊コミックガムで再開が決定した経緯は?
ガムではすでに「火閻魔人~鬼払い~」という「低俗霊狩り」と同時期に描かれた「火閻魔人」の新作を発表しています。その企画を起した担当編集には、当初から「低俗霊狩り」の再開も視野にあったようです。エピソードの途中で中断されていた「低俗霊狩り」は、より企画を通す難易度が高かった。それで、こういう順序になったということのようです。
──昔からお付き合いのある編集さんだったんですか。
遡ると、最初に声をかけてくれたのはガムの創刊時でした。
──創刊時というと、17年前も前になります。
ガムの創刊に合わせて新連載をという電話をいただいて、それが出会いになります。ただ当時はほかの連載もありタイミングが合わず、実現はしませんでした。それに「自動人形」もそうですが、何度も掲載誌の休刊を経験していたので、新雑誌に夢が持てなかったという(笑)。当時はできれば老舗で描きたいという思いが強かった。
──休刊はある種のトラウマになっていたんですね。四半世紀を経て、続きを描くモチベーションが消滅してなかったことはファンにとっては感動的だったと思います。
諦めてはいましたが、いつでも真っ当なオファーがあれば断らなかっただろうとは思いますね。
奥瀬サキ「低俗霊狩り 完全版」2巻 / 2013年10月25日発売 / 590円 / スクウェア・エニックス
奥瀬サキの原点であり、後のスピンオフ作品「低俗霊DAYDREAM」「低俗霊MONOPHOBIA」へと繋がる「低俗霊」シリーズの原典を全4巻予定で完全復刻!
1巻には「低俗霊狩り」「乳鬼」「神勾し」「幽霊階段」「降霊」に加え、単行本未掲載原稿を収録。2巻には「残像」「流香魔魅の私生活」、単行本未掲載原稿、そして「低俗霊狩り」最大の長編(となるはずだった)「自動人形」編の前編が収められている。幻のエピソードとされていた作品も網羅したまさに完全版!
奥瀬サキ(おくせ さき)
1966年9月18日、神奈川県生まれ。1985年デビュー。主なマンガ作品に「低俗霊狩り」「火閻魔人」「こっくりさんが通る」「Flowers」「ドロねこ9」、原作作品に「低俗霊DAYDREAM」「低俗霊MONOPHOBIA」「夜刀の神つかい」がある。