コミックナタリー Power Push - 永野のりこ「電波オデッセイ」
少年少女の心を繊細に描く衝撃作、ついに復刊 孤高の “マンガ者” ナガノが明かす胸の内
読者の声が、この作品の存在理由
──今回の復刊では各巻に描き下ろしで後日談のエピソードも収録されますが、どのような思いで描かれましたか?
現実にいらっしゃるだろう辛い思いをしている方のことを今なりに想像して、その方が幸せになるにはどうしたらいいんだろう、ということを真剣に考えて描きました。
──辛い孤独な思いをしているであろう人に届けたいという気持ちは、連載当時から変わっていないんですね。1巻の描き下ろしは、ネットの掲示板を眺める若者が「全員死ね!!」と頭を抱える場面からスタートします。これまたインパクトが強烈な導入部で。
ネットにはにぎやかな街を寄る辺なくひとり徘徊しているような、孤独な魂の存在を感じてならないんですが、皆さんはどうなんでしょうか。カサコソのぞきまわってるだけの自分が思うことで、素人がなに言ってんだって感じかもしれませんが「ネットが原因とされる事件は、ネットの力で防げたはずなんじゃないのかな」とか思ったりします。そんなこととか昨今いろいろ考えたことを踏まえて、それとはぜんぜん関係ないかもしれない好き勝手なマンガを描きました。なんだかすいません。どうかご一読くださいませ。
──この描き下ろしは全3巻で続きものになるんですよね? 1巻には本編のキャラクターがあまり出てこないなと思ったんです。
そうですね、それは次巻以降の描き下ろしをぜひお楽しみに。それと3巻では読者の方にお寄せいただいた声に、なんらかのレスポンスをするページを設けられたらと考えてるんです。とにかく読者の方がお寄せくださった声が、この作品の存在理由だと思っていますので。
いつまで経っても胸を張ってマンガ家と言えない“マンガ者”
──永野先生はご自身のTwitterアカウントはまだお持ちではないけどブログも書かれてますし、ネットには普段から親しまれてるんですか?
いえいえ……ウヒャウヒャと手出ししたがゆえに社会的引きこもり者っぷりがかえって丸出しになってしまっているような有り様で、本当に申し訳ありません。でも「電波オデッセイ」の頃は、ネットに上がってる感想その他にとても励まされてました。
──感想掲示板を見られてたんですか。
ちょうど連載当時は一般にインターネットが普及しだした頃だったんですかね。ニフティサーブの中に会議室を作ってくださってる方がいて、毎回最新話が掲載されると、感想をその日のうちに上げてくださるんですよ。読んでいただけてるんだ、という確かな感触があってとてもうれしかったです。自分はコミュニケーション下手だしヤラカシたらどうしようと不安で、あまりかかわっていけなかったのは心苦しかったですけど……。そうしたところで寄せていただいた声を、常に意識して支えにして描かせていただいてましたね。
──読者からの意見で作品の方向性が変わることも?
はい。当時、今からは信じがたいくらい、オタク的なキャラクターが笑われる傾向にあったんです。オタクと呼びあって集まれる方々はいいけれど、ひとり存在する方の辛さを多々伺ってましたので、そういったことを真面目で真摯なるがゆえに挙動が不審になってしまう少年、キタモリくんに託して描かせていただいたり。
──途中でキタモリがクローズアップされたのは、そういう背景があったんですね。「電波オデッセイ」は話を追うにつれて原、トモ子、野川さん、キタモリ……と主要キャラが移り変わっていくので群像劇を意図して描かれていたのかと思っていましたが、そういうわけではなかったんでしょうか。
そのときそのとき描きたいものを、描きやすいキャラクターにのせていたらこうなりました。でも、そういうのはプロの作品としてなってなかったのかもとも。Michao!(講談社)さんで連載させていただいた「アレ!アレ!!」という作品で初めて少女マンガの担当さんに付いていただいたんですが、「終始主人公の視点で描いていきましょうね」っていうことを教えてもらって、目からウロコが落ちたんですよ(笑)。ほんとうにいつまで経ってもマンガ家って胸を張って言えない有り様と申しますか「おいらはマンガ者だからさ」ってことで平にご容赦を、とかいってもう、こんなで本当にすみません。
──今後はどのように執筆活動をしていきたいか、胸に抱いている理想像はありますか。
生活をちゃんとしながら、マンガを描いていけたらいいなあと。健康や身内などほかのすべてを差し置いて、部屋の中をメチャクチャにしながら描くんじゃなくて(笑)。家族や周りの人たちと共に交わりながら、生きながら描いていけるマンガをこれから目指したいです。って人生ここまできちゃっといて「これから」かい! ってなもんですが。年相応の課題を背負っていく中、マンガがより純粋に心の拠りどころになったり、楽しみになったりしてゆけばと思います。
あらすじ
崩壊した家庭にひとり取り残され、引きこもる少女・原純子。 「死んでしまいたい」と嘆く彼女の心に、受信された電波のようにオデッセイと名乗る者からの声が届いた。 「君は地球へ来た旅行者だから、この世界を楽しんで帰ればいい」という彼の言葉に支えられ、原は再び学校へ通いはじめる。だが旅行者として何事も楽しもうとする彼女の破天荒な行動は、周囲に波紋を起こして……。
永野のりこ(ながののりこ)
7月5日生まれ、東京都出身。1985年に月刊少年キャプテン(徳間書店)掲載の「Sci-Fi もーしょん!」でデビュー。代表作に「みすて♡ないでデイジー」「GOD SAVE THE すげこまくん!」「ちいさなのんちゃん すくすくマーチ」「電波オデッセイ」ほか。