コミックナタリー Power Push - 永野のりこ「電波オデッセイ」
少年少女の心を繊細に描く衝撃作、ついに復刊 孤高の “マンガ者” ナガノが明かす胸の内
笑えるものは偉い!
──印象的な言葉と言えば、1巻には若山牧水の短歌がモチーフとして登場します。「白鳥は かなしからずや 空のあお 海のあおにも 染まずただよう」。いじめられて傷ついたトモ子がこの句を「かなしいかんじだよ」と説明するのに対して、原は「かなしーなと思ったからさあ、つづきを考えたわけよ!」といって独自にその歌の前向きな続きを提唱する。この新たな解釈は、永野さんがご自身で考えたんですか?
そうですね。この世に紛れられない心……とそのときの自分に重ねてすごく悲しい歌だと受け取っているトモ子が哀しくて、デタラメでも苦し紛れでもいいから何かハッピーエンドを、と原がでっちあげたんでしょうかね。私も救いのない話を見たときに、どうしたらこの話をハッピーエンドにできるかっていつまでもモヤモヤ考えたりします。
──常に明るい続きを想像する。それが創作に活きることも?
小さいとき「コレクター」という映画を観て本当に救いようのない話だったものだから、これをどうにかしてハッピーエンドにできないものか? と抱え続けていたモヤモヤが、初期のアレなラブコメの元のひとつになってたりしますね。こんなナニがアレな感じでマンガ描いちゃいけないのかもしれないですけど……。
──なるほど。暗いテーマを描きつつも根底のところでポジティブというのが、「電波オデッセイ」の特徴だと思っていたんです。それはナガノ節ともいうべきギャグタッチが、しっかり健在だからではないかと。シリアスなものを笑いも交えつつ描くのは、なにか意図があるんでしょうか。
暗い気持ちをストレートに言葉にすると自分でも引いちゃいますけど、ギャグってことで笑っちゃって客観視してしまうことは、精神的にも非常に有効だと思います。
──「笑い」は永野さんにとって大事なファクターなんですね。
スキあらば笑いを取りたいというか……笑えるものは偉い! という気持ちがありますね。お笑いなるものはいつの日も憧れと尊敬の対象です。今でも家の者には内緒で、ルミネtheよしもとにこっそり足を運んでます(笑)。
──そんな、秘密にされなくても(笑)。マンガももともとギャグがお好きだったんですか?
赤塚不二夫先生の「もーれつア太郎」とかみなもと太郎先生の「ホモホモ7」、吾妻ひでお先生のファンタジーギャグも大好きでしたね。とにかく諸々マンガLOVE! な子供でした。水木しげる先生も大好きで、忘れもしない、初めて自分で書店さんに取り寄せ注文をしたのは「ゲゲゲの鬼太郎」虫コミックス版第1巻でした。少女マンガにもずっと憧れていて、初投稿は花とゆめ(白泉社)さんだったんですよ。
──それは意外でした。結果はいかがだったんですか。
もう、ぜんぜんダメでしたね。最初選外のBクラスで、次に投稿したらCクラスに落ちて(笑)。SFのような少女マンガのような、やおいみたいなアレとかナニも入ってる、とてもじゃないけど今や他人様にお見せできない内容で。ああ、さっきからアレとかナニとかわちゃわちゃとすみません……。
──いえ、単行本のおまけページそのままの口調なんで感動していました(笑)。では、すごくごちゃ混ぜなものを描かれてたんですね。
少女マンガに憧れてたくせに花輪和一先生とかガロ(青林堂)さんにもハマってたもんだから、変にリアルな点描が入りこんでたり、アレなマンガを投稿してましたね(笑)。
自分が描かなくなると、キャラが消えてしまう
──でも確かに永野さんの作品ってカテゴライズ不可能というか、いろんな要素が入ってる気がします。青年誌的でもありオタクっぽくも、少女マンガっぽくもあり。
描きたいことをドカドカ盛り込みすぎなんですよね。ただ「電波オデッセイ」は「すげこまくん」と並行して連載していた時期があって、違うベクトルのものを同時期に描けたのがすごくバランスがよかったんです。「すげこまくん」だけ描いていればキワドいアレ作家としてひとしきり成立できたかもしれないのに(笑)。「すげこまくん」も最後ギャグ枠をはみだしていってしまうんですが「電波オデッセイ」と並行していたことでか、読者の方のシリアスな感想をいただけて感動した記憶があります。
──そういえば永野さんの作品では同じキャラクターが、数作品にまたがって登場しますよね。「電波オデッセイ」のトモ子とか、甲野先生も名前は違えど「すげこまくん」に出てましたし。あれは同一のキャラと捉えていいんでしょうか?
同じと思っていただいてご愛顧いただけましたら、といった思いでしょうか。とにかく、自分が描かなくなっちゃうとこのキャラは消えちゃうんだなっていう思いがあって、つい連れてってほかの作品で出してしまうんでしょうかね。そんなですけど、ご随意に同じや別と思っていただけましたら。
──どれにも共通して言えることですが、ヒロインは鉄板で可愛いですよね。
あ、ありがとうございます。そう言っていただけるととてもうれしいです。……もうアナタ様は心の友だよっ!
──あはは(笑)。「電波オデッセイ」の主人公・原はスタイルも抜群で美人で、とても中学2年生には見えないです。これは男性読者を意識して?
うーん……。原がスタイル抜群でかわいくて女の子として魅力がある、と見ていただけるとしたら、もしかするとそれは「だから哀しいんだよ」みたいな念をこめて、わざと一生懸命そう描いていたからかも、と思うと申し訳ないです、暗くて……。っていやいやそうじゃない、ただかわいい女の子をどーんと描いたりするのが好きなんでがんばったんですよ、きっと。なんかすみませんもう、うまく言葉で説明できなくて。だからマンガで描くしかない、という仕組みなのかも。
あらすじ
崩壊した家庭にひとり取り残され、引きこもる少女・原純子。 「死んでしまいたい」と嘆く彼女の心に、受信された電波のようにオデッセイと名乗る者からの声が届いた。 「君は地球へ来た旅行者だから、この世界を楽しんで帰ればいい」という彼の言葉に支えられ、原は再び学校へ通いはじめる。だが旅行者として何事も楽しもうとする彼女の破天荒な行動は、周囲に波紋を起こして……。
永野のりこ(ながののりこ)
7月5日生まれ、東京都出身。1985年に月刊少年キャプテン(徳間書店)掲載の「Sci-Fi もーしょん!」でデビュー。代表作に「みすて♡ないでデイジー」「GOD SAVE THE すげこまくん!」「ちいさなのんちゃん すくすくマーチ」「電波オデッセイ」ほか。