コミックナタリー Power Push - 原泰久「キングダム」

祝10周年!春秋戦国大河ロマン これまでの軌跡を1万4000字で振り返る

悪を倒すには、理由が必要になってくる

──成蟜もそうですが、「キングダム」では最初は悪役として出てきたキャラも、最終的には悪役ではなくなることが多いです。

成蟜の最期。

なかなか生粋の悪は出てこないですね。悪役が出てきても、僕はついついそのキャラが悪に染まった理由を求めてしまうんです。完全なる悪人を倒すと単純に気持ちいいっていうのはわかるんですけど、そこに至る原因とかが見えてくるとどうしても、「誰しも原因があってそうなってしまったんだ」って思ってしまうので。40巻の政の演説じゃないですけど。

──あの政の言葉はそこまでの集大成というか。「キングダム」のテーマが込められているのかなと思いました。

そうですね。その前に呂不韋があまりにいいことを言ったんで、ちょっと焦りましたけど、僕も。

──原さんが言わせてるんじゃなくて、呂不韋が「言う」んですか。

はい。呂不韋との戦いが最終段階に入って、ラスボス的にしっかり何を考えてきてるのかを言わないといけないターンが来て。この人はもうお金の象徴っていうか、ある意味一番現実的に社会を見る人物だったので、結果的に今の世界が、呂不韋の言うような世界になってるところがあると思うんですね。彼がまずその考えを口にして、それに対して政が根本的に違う話をすることで、お互いに活きるなと。呂不韋も政の言葉に涙が出そうになるシーンがあって、呂不韋を描いてよかったな、と思いました。

──政のあの「人の持つ本質は── 光だ」という演説は、ずっと温めていたんですか。それとも自然に出てきたんでしょうか。

政の演説シーン。

そんなに昔から温めてはないですけど、あるときからなんとなくイメージはしていましたね。政はこういうことを言うだろうな、って。

──それは原さん自身の思いでもあるんですか。

そうですね、現代にもつながる願望です、完全に。物語の中で中華統一っていうゴールはもう変えようがないので、それをやる理由が僕の中ですごく必要で。動機として「平和な世を実現する」っていう、ものすごく難しいテーマを持って政は向かっていかないといけないんです。それがないと、本当にただの暴君、武力統一した王様になっちゃうんで。

──パブリックイメージだと始皇帝ってまさに暴君という感じですけど、史実は守りつつ、その逆に見せられるようにここまでドラマを作れているのは素晴らしいことだと思います。

いろいろ調べたり詳しい方に聞くと、今の研究だと逆で、始皇帝はすごい先を見ていて、新しすぎて失敗したっていうことになってきているらしいですよ。そこはおいおい描けると思うんで、今温めてるところです。

中華統一した後も、物語は続きます

──「キングダム」に沿うような歴史の解釈が生まれてきているんですね。政の話はひと段落して、現在の連載分は信のパートになっています。以前インタビューで「将軍とかのキャラが強いので、どうしても主人公が信だっていう意識がちょっと薄いのかも」とおっしゃっていましたが、今後は信が中心となり活躍していくんでしょうか。

「キングダム」より。

そうですね。ここからは信を含めて、秦国の武将たちが戦争する話です、ずっと。滅ぼす側、滅ぼされる側がどんどんきっぱり分かれてくるドラマになっていきます。

──信は王騎から矛を受け継ぎ、麃公に盾を託され、これまでは先人に学んでばかりの少年でしたが、五千人将になり夢の将軍も目前。これからは自分が下に教えるような存在になっていくんでしょうか。

はい。先人から教わってきたことを現場で経験して知っていくと思います。負ける側と向き合わなくちゃいけなくなるタイミングになって、葛藤が出てきて考え方がいろいろ変わるんだろうなと。これまではまだ少年っぽい感じだったんで、あえてそこにスポットライトを当ててなかったんですけど。下に教えるっていうのは、もっと後かもしれないですね。勝手に背中を見て下が学ぶっていうことはあっても。

──ああ。信が突っ走ってたら勝手に付いてくるパターン。あんまり細かく教えるタイプには見えないですもんね(笑)。

そう、どんどん突っ走っていくんじゃないですかね(笑)。これから六将の席を争っていくような感じなんで、まだまだずっと、信は上を目指します。

──第1話の扉絵には李信将軍となった信が描かれていますが、物語はあそこに繋がっていくんですよね。

第1話の見開き扉ページ。

そうですね、そこに繋げないといけない。でもあそこで終わるわけじゃないです。信が大将軍になって、秦の統一までちゃんと描いて、政は始皇帝っていう名を作って。中華統一して、結果的に秦の国はすぐ滅んじゃうんですよね。それを継いだ漢は400年も続いたのに。ただ単に歴史の授業でキーワード的に暗記するものじゃなくて、こういう流れでこれがこうなって、次にこうなったんだよっていう、誰かが血を流して得た恩恵みたいなものと、失敗して得たもの、そこを最後に描ければいいかなと思ってますね。

──では秦の中華統一がゴールというわけでもなく、その後も少し。

そうですね。エピローグ的に描くと思います。

──ちなみに信の恋愛の行方も気になるところですが……。

信に「お前の子を産む」と宣言する羌瘣。

そこはちゃんと描きますよ。貂と羌瘣、どっちと結婚させるか、最近僕の中で固まってきました。信には歴史的に有名な子孫がいるので、そこは登場させないと。実は飛信隊の「飛」の字も、子孫とリンクさせてたりします。

──ラストシーンは具体的に、頭にあるんですか。

だいたいありますね。成功も失敗も含めて、皆さんが納得してくれるすごくいいエンディングになると思います。ただ、このままだと全80~100巻くらいになるかもしれませんけど……。

──その想定もまた、数年後には延びているかもしれないですね(笑)。

はい(笑)。描こうと思えばいくらでも描けちゃうから……。僕が倒れない限りは、ちゃんと描き切れると思います。心配はそこだけですね。

原泰久
原泰久「キングダム(41)」発売中 / 555円 / 集英社
原泰久「キングダム(41)」

中華制覇への大いなる一歩、秦国内の統一を果たし、互いの夢に向けて更なる決意を固める嬴政と信。そんな中、大国・楚では、国を揺るがす大事件が……。そして、趙への進軍を命ぜられた飛信隊の目の前に現れた驚愕の友軍とは……!?

原泰久「キングダム 公式ガイドブック 覇道列紀」発売中 / 977円 / 集英社
原泰久「キングダム 公式ガイドブック 覇道列紀」

「キングダム」公式ガイドブック第2弾!これまでに登場した全キャラクターや各エピソードを解説するほか、原による裏話、週刊少年ジャンプ2013年24号に出張掲載された「キングダム」の読み切りも収録。原とケンドーコバヤシ、いきものがかりの水野良樹による対談2本も収められた盛りだくさんの内容だ。

「週刊ヤングジャンプ」9号 発売中 / 330円 / 集英社
「週刊ヤングジャンプ」9号
掲載ラインナップ

空えぐみ「天野家四つ子は血液型が全員違う。」/ 迫稔雄「嘘喰い」/ 二ノ宮知子「87CLOCKERS」/ 吉村拓也「神様のハナリ」/ 原泰久「キングダム」/ 佐藤カケル「グラビアトリ」/ 笠原真樹「群青戦記 グンジョーセンキ」/ 岡本倫「極黒のブリュンヒルデ」/ 野田サトル「ゴールデンカムイ」/ 本宮ひろ志「サラリーマン金太郎 五十歳」/ 稲葉そーへー「しらたまくん」/ 作:貴家悠、画:橘賢一「テラフォーマーズ」/ 原案:貴家悠&橘賢一、漫画:フォビドゥン澁川「てらほくん」/ 小野祐平「TELECASTIC GIRL」/ 石田スイ「東京喰種トーキョーグール:re」/ サンカクヘッド「干物妹!うまるちゃん」/ 二宮裕次「BUNGO-ブンゴ-」/ 原作:柴田ヨクサル、作画:蒼木雅彦「プリマックス」/ 杉戸アキラ「ボクガール」/ 稲葉みのり「源君物語」/ 山本隆一郎「元ヤン」/ 松原利光「リクドウ」

原泰久(ハラヤスヒサ)

6月9日生まれ、佐賀県出身。2003年に週刊ヤングジャンプ(集英社)の新人賞・第23回MANGAグランプリにて、「覇と仙」が奨励賞を受賞。同年ヤングジャンプ増刊・漫革Vol.36に掲載の「金剛」で、デビューする。週刊ヤングジャンプ2006年9号から「キングダム」の連載をスタート。同作はアニメ化やゲーム化も果たしており、2013年には第17回手塚治虫文化賞の大賞に輝いた。