コミックナタリー Power Push - 柳沼行「群緑の時雨」

「ふたつのスピカ」完結から1年半 新たな柳沼ワールドは時代劇

子供が延々と戯れてるシーンをずっと描いていたい

──では頭の中で「群緑の時雨」のお話を考えていて、一番描きたかったシーンというのはどのシーンでしょう?

「スピカ」のときもそうでしたけど、いつも一番描きたいシーンって最終回なんです。なので1巻ではとにかくそこに向けて、霖太郎、府介、伊都さん3人の仲が良い雰囲気が出せればいいなと思ってます。

──子供3人が戯れてる描写を読んでいて、やっぱり子供を描くのが好きなのかなと思っていました。もしかして柳沼さんはずっとこの感じを描いていたいんじゃ……と思ったほどです。

「群緑の時雨」場面

実際そうなんです(笑)。基本的にそういう話が一番好きなので。僕はアニメだと「アルプスの少女ハイジ」が一番好きなんです。子供たち3人がピッチーっていう青い小鳥を探して走りまわってるだけで、もしくはヤギのユキちゃんをかわいがるだけで30分経っちゃうような。事件も何も起こらず終わるっていうのがすごく好きなんですよ。

──じゃあクララが立ったシーンなんかは……。

僕としてはそんなに重要じゃない。むしろその前の過程の、みんながただ仲良くやってる時間が好きで。本当は「スピカ」も、連載前にやってた読み切りシリーズのように、アスミが小学生のまま続いていく話を考えてたくらい。でも当時の担当さんに、読者層を考えてもう少し大人にしないかって言われたので、高校生になったんです。

──子供を描きたいっていう欲求って、どこから来るんでしょう。

うーん、単純に趣味の問題なんですけど……。そうですね、あんまり邪な雑念が入らないというか、子供って純粋なセリフを吐いても違和感がないんですよね。シンプルなセリフを大人がしゃべると、下手するとクサい感じになってしまう。僕はキャラクターにはできるだけ簡単な言葉でしゃべらせたいって思っていて。そのほうがストレートに心に入っていくんじゃないかと思うんです。まあいろんな話のジャンルの中でも、僕が描いているのはそんなに難しい話ではないですし。

最後まで付いていけば何かある

──「群緑の時雨」は、正直、割と取っ付きにくいところもあると思うんです。「スピカ」には誰もが想像できる「主人公のアスミが宇宙飛行士になって宇宙に行く」というゴールがある。でも「群緑」はまだ何が起こるか、どこへ行くのかも読んでる人にはわからないので……。

そうなんです。そこが問題なんです(笑)。僕が子供を描きたい欲求にかられてしまって描きたいように描いちゃったので、話の展開が遅いんですよね……。でもこの子供時代を描かないとラストに効いてこない懸念もあったので、どうしてもということで描きました。

──「群緑の時雨」というタイトルは、「しぐれ」という一般的な読み方ではなく「じう」と読ませていますね?

「群緑の時雨」場面

「しぐれ」は秋から初冬に降る雨のことなんです。今作のイメージって5月とか、群緑、初夏のイメージなので、その場合は通り雨というただの事象、という意味で「じう」と読ませてます。ザーっと通り雨が降ったあとに晴れ間がのぞく、という絵がイメージにあってつけたんですけど。

──その晴れ間がのぞくシーンも、今後どこかで出てくるんですか?

作中に出てくるかはわからないですが、話全体のイメージはそんな雰囲気というか。どこかで雨がザーっと降って、その終わりに晴れ間がのぞくような終わり方になればいいなと思ってます。まあタイトル自体がラストシーンの現象にもかかわってくるんですけど。

──すべてがラストへと続く道になってるんですね。これはもう、最後まで付いていきます!

よろしくお願いします。最後まで読んでもらえないと、ちょっと意味がわからないような構成になってるので。「スピカ」ファンの方にも喜んでもらえるような仕掛けを用意してますので、それもお楽しみに。

柳沼行「群力の時雨」1巻 / 2011年3月24日発売 / 620円(税込) / メディアファクトリー / MFコミックス フラッパーシリーズ

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あらすじ

江戸時代初期、まだ地方では小さな国同士の争いが起こっていた。その中のひとつ、士々国の武家で育てられている中谷霖太郎は、父親が戦で背中を斬られて死んだという不名誉な噂で他の武士から蔑まされていた。それでも霖太郎は親友の府介と共に、その幼い胸に武士の誇りを刻み、まっすぐ生きようとする。

柳沼行(やぎぬまこう)

柳沼行

1973年生まれ。「2015年の打ち上げ花火」でデビュー。以後、“アスミ”シリーズの読み切り連作を掲載後、「ふたつのスピカ」(全16巻)を連載。現在は月刊コミックフラッパー(メディアファクトリー)にて「群緑の時雨」を連載中。