稽古の初期に「そろそろ敬語はやめませんか?」
──稽古の冒頭部分を見学させていただきましたが、「大ちゃん(鷹之資の本名)」「たっちゃん」とお互いを呼び合いながら、稽古開始の直前まで向かい合ってセリフの確認をしたり、稽古がスタートしてからは、相手の出番のときもしっかりチェックし合い、「ここのセリフが抜けてたよ」「タイミングはバッチリ!」と励まし合っていたのが印象的でした。このインタビュー前の撮影でも、楽しそうにじゃれ合っていたかと思えば、息ぴったりにポーズを決め、付き合いの長い友達のようでしたが……お二人は、今回の公演が初対面なんですよね?
濱田 そうです。撮影やプレ稽古はあったけど、10月頭に始まった本稽古の時点で、実際に会ったのはまだ4回目だったよね。
鷹之資 僕たち、本稽古の1日目か2日目ぐらいに「そろそろ敬語はやめませんか?」って話し合ったんです(笑)。そこからだよね、よく話すようになったのは。
──鷹之資さんは1999年生まれ、濱田さんは2000年生まれと、年齢も近いからこその距離の縮まり方でしょうか。
濱田 年の近さも関係してるとは思いますが、これだけ仲良くなったのは、お互いに小さい頃からお仕事をしているという共通点があったからだとも思います。それぞれ、小さい頃から“良いもの”をたくさん観てきたし、すごい人たちとも仕事をしてきたから、そうやって各々が培ってきたものを舞台上で出せれば、面白いWキャストになると確信しています。
──ちなみに、Wキャストの相手が鷹之資さん / 濱田さんだと最初にわかったときの印象は覚えていますか?
鷹之資 もちろん子役時代から知ってはいましたが、映像作品でしか濱田さんの演技を観たことがなかったので、舞台ではどんなお芝居をするんだろう、と思いましたね。きっと、僕とは芝居の仕方だったり、いろんなことが違うんだろうなって。
濱田 僕は、お名前を見たとき、「歌舞伎の人だ!」って。
一同 (笑)
濱田 Wキャスト自体は、ミュージカル「東京ラブストーリー」(2022年~2023年)以来2回目なのですが、前回は少し年齢の離れた柿澤勇人さんがお相手でしたし、またWキャストではあっても、作品自体のテイストをあえてガラッと変えるという形での上演でした。今回は、年が近い鷹之資さんとのWキャスト、しかも歌舞伎俳優さんということで、最初は正直、「どうしたらいいんだろう」と戸惑いがありました。ただ稽古が始まると、先程言ったような共通点も多く感じましたし、「僕たちは何がどこまで違って、何がどこまで同じなんだろう」と、むしろワクワクが増えていきましたね。Wキャストだからこそ、稽古中も相手の芝居を見て影響を受けたり、「ここはもっとこうしたらいいんじゃない?」って言い合えたりするのも刺激的で。(じっと鷹之資を見つめ)こうやって、稽古場ではずっと一緒なのに、本番に入ったらあんまり会えなくなるのかと思うと、今からさみしい。
鷹之資 ふふふ(笑)。歌舞伎は基本的には型から入る世界なので、濱田さんが役を内面から作り上げている姿には、同じ役を演じているからこそ、すごく刺激を受けています。歌舞伎の古典においても、片岡仁左衛門のおじさまが「型だけではなく、そこに込められた“気持ち”が大事」とよくおっしゃっていますが、今回の現場で「“気持ち”とはこういうことなのかもしれない」と感じることができています。当たり前ですが、濱田さんのほうが現代劇の現場に慣れているので、その背中を見て勉強しつつ、盗めるところは、たくさん盗ませていただいています。
ただ最近は、互いに影響を受けつつも、お互いに「自分はこうしたい」という部分も生まれてきていて、G2さんも「2人は、大きく分類分けをすれば同じ分類にはいるけど、でも“違う”矢三郎になってきているね」とおっしゃってくださいました。そこが僕たちの目指す部分でもあると思いますし、お客様にとってのWキャストの醍醐味でもあると思うので、ここからさらに稽古を重ねて、“同じ役だけど色の違う”矢三郎にしていければと思います。
G2は「面白きことは、良きことなり!」を体現している演出家
──G2さんと一緒に作品を作られるのは、お二人とも今回が初めてです。演出家としての印象はいかがですか?
鷹之資 僕はそもそも、演出家さんがいらっしゃる現場自体がすごく新鮮で。歌舞伎だと、特に古典作品であれば型があるので、合同での稽古期間は2・3日しかありません。時間をかけてゼロから作品を作っていくこともほぼ初めてなので、稽古が始まる前から内心ドキドキしていました。初めてお会いしたとき、G2さんが「何か不安なことはある?」と聞いてくださったんですけど、僕が「全部不安です」と告白すると、「もうなんでも聞いて!」と笑顔でおっしゃってくださったのがすごく心強かったですね。実際に稽古場ではなんでも丁寧に教えてくださりますし、そのうえで「歌舞伎だったら、いつもどうしてる?」と寄り添ってくださる。G2さんは歌舞伎の演出もされているので、歌舞伎俳優の扱いにすごく慣れていらっしゃるんだと思います。G2さんのお力で、稽古初日から、不安なく楽しく参加しています。
濱田 僕は、“すごく愉快で楽しい演出家さん”という印象です。それこそ「面白きことは、良きことなり!」という言葉が当てはまるような方で、作品と本人のお人柄が非常にマッチしている。とにかく楽しいことが大好きで、作品をより面白くするにはどうするべきなんだろう、ということを常に考えていらっしゃる。だからこそ僕たちもG2さんの思いに応えたくなって、ふざけられるシーンでは全力でふざけて、盛りだくさんにしちゃう。
鷹之資 「やりすぎかな?」ってときほど、「それ良いね!」って採用されるよね(笑)。
濱田 そうそう(笑)。何でもトライしやすい雰囲気を作ってくださる。
鷹之資 昨日も、夷川家との合戦、面白かった!
濱田 (下鴨家の父・総一郎と、その弟で夷川家の父・早雲の2役を演じる)池田成志さんを中心に、金閣役の盛隆二さん、銀閣役の谷山知宏さんも出てくる場面なんですけど、大人が本気でふざけるとこんなに面白いことになるんだ……と圧倒されました(笑)。楽しみにしていてください!
小説1冊を、3時間の作品にギュッと凝縮
──G2さんは脚本も手がけられています。台本を読んだ感想はいかがでしょうか。
鷹之資 小説1冊が、3時間の舞台作品としてギュッと凝縮されている、いう感想に尽きます(笑)。あと、森見先生ならではの言い回しや、絶対に外せないニュアンスなど、原作の言葉をG2さんがすごく大事にされていらっしゃることが、読んでいてひしひしと伝わってきました。
濱田 僕も、初めて読んだときには「詰まってるなあ!」と思いましたね。ト書きを読んでいると「ここってどうなるんだろう……」と想像力が追いつかなくなることが結構あって。読みながら、これからどうなっていくんだろうとワクワクしました。
──演出面では、人間から狸になってしまうシーンも気になりますし、ワインを燃料に空を飛ぶ“奥座敷”、また嵐を作れる“風神雷神の扇”がどのように表現されるのか、楽しみにしている原作ファンも多いのではないでしょうか。
鷹之資 稽古を重ねるごとに演出もどんどん変わっているので、僕たちも最終的にどうなるかはわからないのですが(笑)、1つ言えるのは、すごくアナログに表現されるということです。最新のテクノロジーで表現することもできたと思うのですが、あえてのアナログな感じが、この作品にはぴったりだなと。
濱田 僕たちも稽古をしながら「ここって、本番ではどうなるんだろう」と思っている部分で、それこそ“奥座敷”のようにふわふわと空を飛んでいる心地です(笑)。作中のように、燃料切れで落っこちてしまわないよう、ちゃんと着地を成功させたいですね。
鷹之資、京都で雷に遭遇し「母上!」
──京都を舞台にした作品が多い森見作品ですが、「有頂天家族」では狸が主人公ということもあり、彼らが棲む下鴨神社の豊かな自然や川など、美しい自然の部分にもフォーカスされます。劇中には、今回の上演地の1つである南座も登場しますね。
鷹之資 僕自身、京都には馴染みがありますし、南座は大好きな劇場です。お客様との距離も近く、ロビーの装飾も素敵ですし、また劇場を出るとすぐに四条通りが広がっている、というのも京都の街並みを感じられて良いですよね。京都は歌舞伎発祥の地でもあるので、歌舞伎俳優にとっての聖地である南座で「有頂天家族」を上演できるのが楽しみです! また、原作を読んだあとに京都に行く機会があったんですけど、「このあたりで天狗が飛んでいたんだな」「この小川のところで、下鴨家がちょろちょろしていそうだな」とついつい作品世界とリンクさせてしまいました。そんなことを考えながら、下鴨神社を散歩していたら、突然雷が鳴って。“風神雷神の扇”が起こした嵐みたいに、ぶわーっと豪雨になったんですけど、そのとき「母上を探さないと!」って思っちゃいました(笑)。
一同 (笑)
──母・桃仙の唯一苦手なものが雷。雷が鳴ると、四兄弟は母を探し出し、全員で彼女をギュッと抱きしめます。濱田さんは、南座への出演経験はありますか?
濱田 南座の舞台に立つのは、僕は今回が初めてです。京都には、映像の仕事で行くことはありましたが、撮影所が太秦の近辺だったので、南座近辺には明るくありませんでした。ちょうど先日、南座周辺と下鴨神社のあたりで取材を受けたんですけど、作品から想像していた世界を実際に目の当たりにしたときに、「ここでこんなことが起こっていたんだ!」「ここはこういう景色だったんだ!」と、どんどん自分の中で腑に落ちていく感覚がありました。南座公演を観に来られる際は、ぜひその前後で、作品の舞台となる場所に足を運んでいただいて、より作品を味わっていただきたいですね。あと、南座公演では京都という場所の力も借りられると思うんですけど、新橋演舞場公演と御園座公演では、僕たちの演技でお客様に“京都”を感じていただかないといけないので、そこはがんばらないといけないなと思っています(笑)。
──東京と愛知でも、作品を通して“京都”を感じられるのを楽しみにしています。
鷹之資 お客様にはぜひ、濱田さんが出る回と僕が出る回、それぞれ1回ずつ観に来ていただいて、Wキャストの醍醐味も味わっていただきたいですね。
濱田 でも、僕たち影響を受け合って、きっと初日と千穐楽では演技も変わっていくよ。
鷹之資 そうしたら、「合計4回観に来てください」にする?
濱田 上演地が変わることでも、進化していく気がする!
鷹之資 じゃあ東京と京都で濱田さんバージョン、僕バージョンを1回ずつ、御園座公演は濱田さんのシングルキャストだから1回で、「合計5回観に来てください」にしようか。
濱田 そうしよう。よろしくお願いします!(笑)
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プロフィール
中村鷹之資(ナカムラタカノスケ)
1999年生まれ。五世中村富十郎の長男。2001年、中村大の名で初舞台。2005年、初代中村鷹之資を襲名。古典歌舞伎に数多く出演するほか、近年は「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」「流白浪燦星(ルパン三世)」といった話題の新作歌舞伎にも登場した。自主公演「翔之會」は、2024年に9回目を迎える。また映画「家族はつらいよ」「家族はつらいよ2」(いずれも監督:山田洋次)に平田謙一役で出演した。来年1月の「新春浅草歌舞伎」では、「『絵本太功記』尼ヶ崎閑居の場」で武智十次郎と佐藤正清を部替わりで演じ、第2部「棒しばり」では次郎冠者を勤める。
プロフィール - 中村鷹之資 【天王寺屋 友の會】公式サイト
中村鷹之資 (@tennoujiya_official) | Instagram
濱田龍臣(ハマダタツオミ)
2000年、千葉県生まれ。子役として大河ドラマ「龍馬伝」で坂本龍馬の幼少期、実写版「怪物くん」で市川ヒロシ役で注目を集める。映像作品での活躍が主だったが、2020年に「大地(Social Distancing Version)」(三谷幸喜作・演出)に出演。以降「オレステスとピュラデス」「更地」(共に杉原邦生演出)、ミュージカル「東京ラブストーリー」(豊田めぐみ演出)、「ようこそ、ミナト先生」(宮田慶子演出)、「ビロクシー・ブルース」(小山ゆうな演出)などの舞台作品に出演している。
濱田龍臣(本人) (@hamatatsu_0827) | X