お笑いナタリー Power Push - SICKS-シックス- みんながみんな、何かの病気
テレビ東京「SICKS」が視聴者を魅了したわけ
キャストが1人2役を演じているのではなく、2つのキャラクターが同一人物なのだと確信すると、「SICKS」が普通のオムニバスコント番組ではなかったことに気がつく。その最初のきっかけとなったのが、岸井ゆきの演じる清純派AV女優・つばめが断固として「処女」を言い張る一方で、前掛け姿で父の営む中華料理店を手伝っていることだった。
お笑いナタリーでは、「SICKS」で最初の鍵を託された岸井ゆきの、そして彼女をキャスティングした佐久間宣行プロデューサー(テレビ東京)と、岸井の“お父さん”的存在であり、シリーズ構成・脚本を務めた福原充則による鼎談の場をセッティング。「SICKS」の企画意図やキャスティング、役者と芸人がコントを介して起こす化学反応について語ってもらった。
佐久間宣行(プロデューサー) ×福原充則(脚本)×岸井ゆきの(AV女優つばめ役)
「SICKS」立ち上げのきっかけはアニメ
──コント番組と思いきや、サスペンス要素の混じったドラマテイストになっていくという変わった作りの番組でした。そもそもどういう経緯でこの企画を立ち上げたのでしょうか。
佐久間宣行プロデューサー きっかけはアニメです。「まどか☆マギカ」とか「進撃の巨人」とか、最初と中盤でジャンルが違う、みたいなものがけっこう好きで。それをドラマでできないかなと考えたときに、コントから始めればいいんじゃないかと閃いて。角度が変われば人物も変わる、というような意味で、はじめは「アングルズ」っていうタイトルで企画書を書いて、福原さんにご相談したんです。
福原充則 終わってみればめちゃめちゃ面白い番組でしたね。面白かったし、みんながんばったんじゃないかって思います。役者さんもそうですし、スタッフチームも。美術も、画作りも、編集も音とCGも。みんなが楽しんで作ってるっていうのは、現場に行かなくても画を見ればわかりました。撮り始めてから変更になる部分もあって、大変なこともありましたけど。1回、どうにもならなくて5時間くらい打ち合わせしたときありましたよね。
佐久間 ありました。ストーリー上、撮らなきゃいけないシーンと役者のスケジュールの調整がどうしてもつかなくて。
福原 あのとき佐久間さんにパッと何かが降りてきたんですよ。アイデアを思いついて、ずっとしゃべり続けてどん詰まりを1人で解決しちゃった。舞台上で“降りてきた”役者っていうのは見たことあるんですけど、会議室で“降りてきた”人は初めて見ました(笑)。
岸井ゆきの それ見たかったです!
佐久間 僕ときどきウロウロしながらしゃべるんですよ。そうすると脚本の土屋(亮一)くんに「スタンダップコメディだ」って言われて。
岸井 あははははは(笑)。
福原 ホワイトボードに思いつたことを書いていく様子はケーシー高峰みたいで(笑)。それが一番面白い光景でしたね。
──岸井さんは「SICKS」をご覧になっていかがでしたか?
岸井 毎週すごく楽しみでした。支度しながら「音楽かける気分じゃないなあ」っていうときに「SICKS」を流して、支度しないで見入っちゃったり。
福原 いや、ちゃんと観てよ(笑)。
岸井 もちろんちゃんと観てますよ! 観て、さらに録画したものを流すくらい好きでした。
「できる人しか入れない」がキャスティング方針
──芸人さんと一緒にコントをやってみて、ドラマとの違いを感じることはありましたか?
岸井 同じことをしなくていいっていうのが面白かったです。ドラマだと繋がりが大事なので、どっちの手で水を持っていたか、とかも気にするんですけど、最初の段階で「そういうの気にしなくていいから!」って佐久間さんが言ってくださって。
佐久間 岸井さんが何回同じことをやってくれても、(オードリー)春日くんも若林くんもできないから、関係ないんですよ。それはもう諦めるしかないっていう。本当に大事なことだけは言いますよ。あるべきものがない、とかは問題なので。でもそれ以外は全然。岸井さんがいかに同じようにやってくれようと……。
岸井 毎回違うのが飛んでくる(笑)。でもすっごい楽しかったです。なかなかない経験で。
──アドリブっぽい掛け合いも多かったですよね。とくに特典映像に入っている続編コント「発田とつばめと魔人『私が名づけます』」はオードリーさんのアドリブコントに岸井さんが混ざるような形でした。
佐久間 あれ、リハを軽くやっただけで1回しかやってないんですよ。ほとんどオードリーの掛け合いだから、あんまりやらないほうがいいかなと思って。
岸井 お2人が面白くて笑っちゃいました。
──芸人さんと役者さんがコントの中で笑わせあっているというのも「SICKS」の見どころの1つですよね。
佐久間 最初のキャスティング方針で「できる人しか入れない」って決めてたんです。芸人が毎回違うことを言ったり、きっかけゼリフが全然違ったり、そういうことにも対応できるだろうなっていう役者さんにお願いしているので、現場で芸人とハレーション起こすようなこともなく、むしろ楽しんでやってくれたと思います。
私も「処女だ」って信じてた
──岸井さん演じるつばめは第1話から唯一2つのコントに登場していたキャラクターです。のちにそれが「SICKS」の重要な鍵だったことがわかるというからくりになっていたわけですが、なぜ岸井さんにこの役を託したんでしょうか。
佐久間 1人2役以上やるっていうのはオムニバスコントだったら不自然ではないことなのですが、それが実は同一人物でしたっていう仕掛けは自然に明らかになっていくのが面白いと思っていたし、「SICKS」の肝の1つだったので、誰にやってもらおうかっていうのは悩みました。岸井さんのことは、福原さんの舞台で主演(2014年11月上演「ベッド&メイキングス ~Timeless~『サナギネ』」)されていたのを拝見していて。彼女ならばうまく演じてくれるんじゃないかと思って福原さんに提案したんです。
──福原さんはその提案を受けてどうお答えに?
福原 「いい子ですよ」って。
佐久間 いや、福原さんはずいぶん前から岸井さんを知っているから、たぶんお父さんみたいな感覚だったと思います。「そんな下ネタが多い役に、岸井はどうでしょう」って。
岸井 あはははは(笑)。お父さん!
佐久間 「大丈夫かなあ」ってすごく心配してました(笑)。
福原 ダメとは言ってないですよ。できるとは思ってたんですけど、親心で娘の成長を見たいような、見たくないような。
佐久間 しかも岸井さんが出演するコントは、土屋くんと構成作家の永井ふわふわくんが担当していたから、福原さんは手出しできないんですよ。
福原 「また岸井がこんなセクハラを……!」って(笑)。AV女優のコントは、最初はもっとどぎつかったんですよ。発田よりつばめのほうがしゃべるキャラクターだったんですけど、ゲラゲラ笑いながら「でもなあ……」って。
佐久間 そうだそうだ。「清純派のほうが面白いね」って話しているうちにどんどん変わっていったんですけど。
──岸井さん自身はつばめ役を務めることに対してどう思いました?
岸井 私も「処女だ」って信じてやっていたので、全然大丈夫でした。
佐久間 ファンタジーの住人だ(笑)。
岸井 実は私、最近まで「自分はゲップしたことがない」と思っていたんですよ。「サナギネ」のとき、サイダーを飲んだあとにすごく大事なセリフを言わなきゃいけないシーンがあって。共演者の方に「ゲップ出ちゃう?」って聞かれたんですけど、「ゲップじゃなくて空気が出ちゃうんですよね」って答えたら、「そんなふうに美化する人初めて見た」って驚かれて。それで初めて「これがゲップなんだ!」って知ったんです。そのときの気持ちを思い出しながらやりました(笑)。
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収録内容
本編
・全12話ディレクターズカット版
特典映像
- ・メイキング オブ SICKS(仮)
- ・撮り下ろしスピンオフコント「その後の…シックス」
- 時村と中田杏「最高のラブレター」
- 発田とつばめと魔人「私が名づけます」
- 酒井と晴海「酒井のタイミング」
- マユとリコ「リコの秘密日記」
- ・幻の名コント
- 時村とライフニュース「エピソード0」
- 天才医師町田「リテラシーゼロ病エピソード3.5」
番組概要「SICKS-シックス- みんながみんな、何かの病気」
テレビ東京、テレビ大阪ほかで2015年10月~12月に放送された新感覚コント番組。「現代病」をテーマに全12回にわたって展開された。おぎやはぎ、オードリーといった芸人や、俳優、アイドルなどバラエティに富んだキャストが集結。アドリブ満載の完全オールロケーションによる撮影に臨んだ。
スタッフ
監督:英勉
脚本:福原充則(ピチチ5主宰) / 土屋亮一(シベリア少女鉄道主宰) / 大井洋一 / 永井ふわふわ
出演者
おぎやはぎ / オードリー
清水富美加 / 中島早貴(℃-ute) / 岸井ゆきの / 大倉士門 / 佐藤仁美 / アンガールズ田中
高橋メアリージュン / 入江雅人 / オクイシュージ / ラバーガール / ラブレターズ / 根本宗子 / 野口かおる / 宮崎吐夢 / 東京03飯塚 / 今野浩喜 / どきどきキャンプ佐藤 / ザ・ギース / ハライチ澤部
古舘寛治 ほか
左 / 佐久間宣行(サクマノブユキ)
テレビ東京のプロデューサー。「ゴッドタン」「ウレロ☆」シリーズ、「共感百景」など数々のバラエティ番組を担当している。
中央 / 岸井ゆきの(キシイユキノ)
1992年2月11日生まれの女優。自然体な演技が高く評価され、舞台、ドラマ、映画、CMなどさまざまな分野で活躍している。加藤シゲアキ原作、行定勲監督映画「ピンクとグレー」 が公開中。2016年夏には豊島圭介監督作「森山中教習所」が公開予定。
右 / 福原充則(フクハラミツノリ)
劇団ピチチ5主宰。テレビドラマの執筆も多数。近作に、「視覚探偵 日暮旅人」(日本テレビ系)。2015年公開「愛を語れば変態ですか」で映画初監督を務めた。脚本を担当する映画「血まみれスケバンチェーンソー」が公開中。
2016年3月25日更新