たけしさんは破壊してまた新しく構築することが得意な人

──ところで、アンゴラさんが卒論のテーマに北野監督を選んだきっかけはなんだったんでしょうか？

アンゴラ　卒論は2万字とか書かなくちゃいけなかったんで、好きなものじゃないとやってられないなというのがまずあって。そのときに「キッズ・リターン」のことを思い出したんです。たけしさんが芸人兼監督だからこそ生み出せたシーンが多いんじゃないかっていう観点で全部観てみたらどうなるかなって思って。そこが出発点です。

──そこから導き出された結論は？

アンゴラ　たけしさんは破壊してまた新しく構築することが得意な人ということですね。世界で賞とかも獲って、すごく地位もあるのに、それを簡単に破壊するっていう。しかも破壊するだけじゃなくて、そのあとに新しいものを作るんです。「北野映画は言葉が少ない」とか「説明が少ない、動きが少ない」と評価されたら、今度は反対にセリフを増やしたり、わかりやすくしたり。今の時代をずっと見ながら映画を作っている人なんだなと。

──そういうことが論文に書かれているわけですね。

アンゴラ　はい。共感の気持ちを表現するところも、お笑い芸人ならではだと思います。例えば、組員が怒られた顔ひとつとっても、「はい、すいませんでした」っていう表情が8割と、「なんだよ」みたいな不満な顔が2割くらいあって。「わかりました」って顔が8割なので、観客としては「わかりました」の方向で丸く収まるのかなって思っていたら、やっぱり「なんだよ」が残っていて、話が悪い方向に進んだりとか。2割「なんだよ」っていう顔があるから、ストーリーが曲がっていっても観客は納得できるんです。そういう共感の作り方って、生で舞台に立ってお客さんを共感させて笑わせているからこそできる表現なのかなと思います。

3助　そんなに深く考えられるのに、なんであなたのネタは捻くれてるんだろうね。変な方向のネタばっかり。

アンゴラ　たけしさんの映画もそういう時期があったんです！

3助　ああ、そういう時期ってこと？（笑） アートのほうね。

アンゴラ　そうです、そうです！

3助　俺らも「アウトレイジ」作らないとね。

──お二人は、今の気分で北野映画で一番好きな作品を挙げるとしたらなんですか？

3助　やっぱり「アウトレイジ」シリーズが最高ですね。爽快ですもん。

アンゴラ　今は「HANA-BI」とか観たいかも。人と人とのつながりがあって、ちょっとほっこりするようなものを観たい気分です。

──「菊次郎の夏」もほっこりしますね。

アンゴラ　そうですね！「菊次郎」も。

「アウトレイジ」シリーズは1人ひとりが主役

──最後に、「アウトレイジ」シリーズに関して、「これだけは言っておきたい」ということはありますか？

3助　あと3作品くらい作ってほしいです。大友の隠し子が主役でもいい。

アンゴラ　あはははは（笑）。

──大友の若い頃をほかの役者さんがやっても面白いかもしれない。

3助　過去とか面白そうですね！ あそこまでカッコよくなる前の、ちょっとダメな時代も見てみたい。

アンゴラ　私は小日向文世さん演じる片岡（「アウトレイジ」「アウトレイジ ビヨンド」に登場する刑事）の目線で描く物語を観てみたいです。

3助　奴は出世のためだけにあんなにいろいろやっていたのかな。

アンゴラ　出世のためだけにあそこまでやるのがなんか腑に落ちないような。憧れもあるのかな、ああいう世界に。そんなふうに「アウトレイジ」シリーズは1人ひとりが主役っていう感じがしますよね。

3助　もう1回、1作目から観たくなっちゃいました（笑）。