今、沖縄のお笑いが面白い!|東京・大阪に負けないムーブメントを

初恋クロマニヨン インタビュー

7度目のファイナル進出にして悲願の初優勝を果たした初恋クロマニヨン。NSC沖縄校1期生で東京を拠点に活動していた経験もある彼らに「沖縄のお笑い」の“今”と、将来の展望を聞いた。

初恋クロマニヨン。左から比嘉憲吾、新本奨、G.Wしょう。

──結成から現在に至るまでの経緯を教えてください。

G.Wしょう 僕ら3人は学生時代の幼なじみで、最初はFECに入って3年ほど活動していたんですが、その後、東京に上京しフリーの芸人として地下ライブに出ていました。2年くらいしたところで沖縄によしもとの養成所ができるという話があって。

新本奨 フリーで「M-1グランプリ」の準々決勝まで行けたときには声をかけてくれる事務所もあったんですが、“1期生”というのが魅力的でしたし、実家からも通えるのでよしもと沖縄を選びました。

「お笑いバイアスロン2019」でコントを披露する初恋クロマニヨン。

──よしもとに入って2年目で「お笑いバイアスロン」がスタート。第1回から7度決勝に進出している芸人は初恋クロマニヨン以外にいません。

比嘉憲吾 6位、5位、4位、3位、2位、5位……ときて1位。長い道のりでした。

新本 沖縄の賞レースはこの「お笑いバイアスロン」と「O-1グランプリ」しかないので、沖縄芸人にとっての数少ないチャンス。本土の人が「M-1」に挑戦するのと同じような感覚で、挑戦は必須でしたね。

──コントと漫才、両方で面白さを求められる難しさがあります。

G.Wしょう もともと僕たちは漫才が好きでずっとやっていたので、やっぱりコントの壁に第1回、2回大会でぶち当たりました。これを克服しようとコントをいっぱい作るようにしていたら、今度はコントのほうが得意になって、なんなら今、漫才が苦手っていうゾーンに入りそうな段階だったんです(笑)。今年はギリギリのところでバランスが取れていたので、獲れて本当によかった。

新本 今回逃していたら、来年漫才が下手になっていたかもな(笑)。

漫才を披露する初恋クロマニヨン。

──今大会は新しい顔ぶれとなり、常連のお三方にとっては不利な戦いだったように思います。

G.Wしょう それはめちゃくちゃ感じました。新しい人は怖いです。フレッシュな人のほうがどうしたって注目されますし、僕たちは過去大会の自分たちとも比べられてしまう。でも、最後は「やるしかないしな」っていうところに落ち着いて。周囲の反応は気にしないように外部の情報をシャットアウトして挑みました。

新本 今日はほかの人のネタを観ていなかったんですよ。

比嘉 全員、裏で思い思いに過ごしていました。それが功を奏したのかもしれません。

──出場者同士で称え合っている姿が印象的でした。

G.Wしょう 同じ事務所のありんくりんもこの大会にずっと出ていて、もちろんライバルですけど仲間でもあるので。ありんくりんのほかにも、僕らとは違う事務所のノーブレーキ、知念だしんいちろう、4連覇しているリップサービスの4組で「はちノリ」というユニットを組んでいて、彼らとは戦友みたいな感じですね。

──生放送中はネタ以外での掛け合いも賑やかで、バトルではありつつも和気あいあいとしていましたね。

「お笑いバイアスロン2019」のネタ以外の場面は和気あいあいとした雰囲気。

比嘉 賞レース独特の緊張感はありますが、バチバチはないですね。

新本 東京や大阪と違って規模が大きくないので、助け合いながらみんなで盛り上げていこうという雰囲気でやっています。

──東京で活動されていた時期もあるお三方は、ここ数年の“沖縄のお笑い界”をどう感じていらっしゃいますか?

G.Wしょう 確実にレベルが上がってると思いますし、各事務所、お客さんも増えている印象です。今日会場に来ている方も、わざわざ観覧希望を申し込んで当選した方々ですから。自分たちで情報を集めてお笑いを観に行く人が最近では多いです。10年くらい前だと身内をライブに呼んで席を埋めている感じでした。

比嘉 Twitterで検索すると、けっこう厳しいことを書かれていたり(笑)。そうやってファンの方もお笑いについて語るようになってきています。

新本 あと、芸人が出演できる番組が増えましたね。僕らが結成当初に沖縄でやっていた頃は芸人がテレビに出られる機会ってほとんどなかった。芸人にとっていい環境になってきているなと思います。

比嘉 だから有名な芸人が増えてきているよね。“面白い有名人”はいたけど、芸人で有名な人って昔はあまりいなかった。

G.Wしょう 護得久栄昇がワーっと一気に有名になりましたけど、沖縄でこんな現象が起こるなんて思ってもみなくて。こういうムーブメントを沖縄でも作れるんだって驚きました。

新本 まさに今売れていく人を目の当たりにするのは初めてだったね。

比嘉 護得久栄昇って、僕らが優勝した2017年の「O-1グランプリ」で準優勝だったハンサムというコンビがその大会でテレビ初披露したキャラクターなんです。

G.Wしょう 優勝した僕らよりもバーっと売れたなあ。

新本 東京の賞レースでよくある“準優勝のほうが売れるパターン”、沖縄にもあるんだって思いました(笑)。

優勝が決まり、ガッツポーズする初恋クロマニヨン。

──芸人さんによって「沖縄でやっていく」という方、「全国で勝負したい」という方、さまざまだと思います。初恋クロマニヨンとしてはどうお考えでしょうか?

G.Wしょう 沖縄ネタを磨いて県民の人を笑わせることも大事ですが、僕たちが目指しているのはやっぱり全国。沖縄ネタをやって、沖縄だからウケるっていうのではなく、僕たち独自のネタでたくさんの人に笑ってほしいと思っているのは結成当初から変わりません。

比嘉 ひとまず「お笑いバイアスロン」優勝を目標にやってきたので、次のステップですね。

新本 ありんくりんやリップサービスなど、沖縄にもレベルの高い芸人がいて、切磋琢磨しながら腕を上げていきたいです。

初恋クロマニヨン(ハツコイクロマニヨン)
初恋クロマニヨン
NSC沖縄1期生。沖縄県読谷村出身のG.Wしょう(右)、新本奨(中央)、比嘉憲吾(左)からなるトリオ。中学・高校の野球部仲間で、結成14年目。G.Wしょうがトリオのブレーンとしてネタ構成とプロデュースを担当し、新本と比嘉が伸び伸びとボケを繰り出す。沖縄の2大賞レース「O-1グランプリ」では2017年に、「お笑いバイアスロン」では2019年に優勝を飾った。

寄稿 放送作家・内村宏幸氏に映る“沖縄のお笑い”

「ある種の分岐点に来ている」

内村宏幸

「沖縄で開催するお笑いコンテストの審査員をやってほしい」という話が来たとき、沖縄県内の芸人だけで競い合う大会だと聞いて、失礼ながらローカル局ならではの、和やかな雰囲気のイベントなのだろうと思い込んでいました。ところが実際に現場に行ってみると、沖縄を拠点に活動している芸人さんの数の多さに驚かされ、生放送で行われる「お笑いバイアスロン」の会場は、立派なホールに豪華なセットや照明、豊富なカメラの台数が準備されていて、とても地方局のイベントとは思えぬほど本格的で、認識が一変しました。

コンテスト本番で披露されるネタは、ネタ中に沖縄の方言が出てきて、会場はウケているのに僕ら審査員だけがポカンとしているという不思議な現象があったり、基地問題や沖縄の独特な環境をネタにする場面では、東京で生活している我々は一瞬ドキッとしてしまうものの、お客さんが大爆笑していることで地元の人たちの空気感も感じ取ることができたりと、沖縄大会独自の要素も含んでいますが、決勝まで勝ち上がってきた芸人さんたちのネタは、どれも予想を上回るレベルの高さを感じます。

この「お笑いバイアスロン」も回を重ねるごとにシステムが練り直され、大会自体も成熟してきて、ある程度認知されてきていると思っています。何よりも、こうして取材されるようになったのが確固たる証拠です。そして個人的な意見ですが、今年の大会を終えて、ある種の分岐点に来ているように感じました。今年はいつもと違い、打ち上げが終わったあとも場所を変えて出場した芸人さんたち何組かとじっくり話す機会があり、彼らのお笑いに対する熱く真剣な思い、そして東京という分厚い壁への思いなどを聞くことができました。その壁に手をかけ超えていくべきか、それとも手前で踏みとどまっているべきか、多くの芸人さんたちがその狭間でもがいているようです。

全国区で活躍できるかはまだ未知数だと思いますが、高い志を持った沖縄の芸人さんたちは、近いうちに、この「お笑いバイアスロン」と共に東京や大阪で活動する芸人さんたちの目に触れ、気になる存在になると予想しています。何よりもこの大会は、第1回から今年までの7年間、8月の沖縄での開催にも関わらず、まだ一度も台風に遭遇していないのです。何かを持っているとしか思えません。

内村宏幸(ウチムラヒロユキ)
1962年6月22日生まれ、熊本県出身。1989年「笑いの殿堂」(フジテレビ)で放送作家デビュー。「オレたちひょうきん族」「夢で逢えたら」「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」「ダウンタウンのごっつええ感じ」「笑う犬」「LIFE!~人生に捧げるコント~」など、数々の人気バラエティ番組を手がけている。ウッチャンナンチャン内村光良の従兄弟。マセキ芸能社で「内村宏幸 放送作家Class」を展開中。