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「お笑いバイアスロン」熱戦の様子をレポート!

「お笑いバイアスロン2019」のファイナリストたち。

決勝初登場の4組が新しい風を吹かせる

「お笑いバイアスロン」はQAB琉球朝日放送が2013年にスタートさせた沖縄のお笑いコンテスト。コントと漫才の2本を披露しその合計点で勝負を決するという、芸人にとってもっともタフな大会と言える。審査を務めるのは高須光聖をはじめとした、数々の人気お笑い番組を手がける放送作家5名。彼らが沖縄芸人のネタをどんな視点からどう評価するのか、という点も興味深い大会だ。

2013年初代王者のこきざみインディアンは沖縄テレビの主催するコンテスト「O-1グランプリ」でも3度優勝している実力の持ち主。2014年から2017年まではリップサービスが前人未到の4連覇を達成した。翌年2018年は、敗者復活戦から勝ち上がったありんくりんが初優勝を飾っている。スタートから未だ3組の王者しか誕生していないことからもわかる通り、単なるラッキーパンチではこの厚い壁を突破することはできない。

そして迎えた今年、去る8月31日に第7回大会が開催された。ファイナルに顔をそろえたのは、連覇のかかるありんくりん、入賞経験者のノーブレーキ、しんとすけ、そして決勝7度目の挑戦となる初恋クロマニヨンの常連4組と、パーラナイサーラナイ、猫ノカケラ、だるまと、敗者復活枠から知念だしんいちろうという4組のニューカマー。審査員も「メンバーが入れ替わり、新しい笑いを見られるんじゃないかとワクワクしている」と期待する。

全国放送の賞レースと遜色ない多種多様なコント

ノーブレーキ

1本目の種目はコント。ネタ順抽選会で「一番手向きじゃありません!」と宣言していた通りにトップバッターのノーブレーキが物議を醸すコントで場を荒らす。勢いに任せてセリフを言えなくなるほどのナゲットを口いっぱい詰め込むと、演技ではない生のリアクションに笑いが。会場ウケは悪くないものの、審査員は「設定がわかりにくかった」と手厳しい。2番手の猫ノカケラは特殊能力を持つことで孤立してしまった少年と、彼を恐れることなく手を差し伸べようとしてくれる心優しいおじさんの出会いを描き、派手なアクションを交えて観客を楽しませる。続くしんとすけは「悪魔との契約」を現実に落とし込み、召喚された悪魔が契約手続きを事務的な口調で進めていくという振り幅の利いたネタで笑いを量産。悪魔が手に持っている三叉槍がペンになっていたり、ツノが電話機になっていて本部と連絡をとったりと、細部にまでこだわりが見えた。

初恋クロマニヨン

4番手の初恋クロマニヨンは「ネタ作りを1から見直した」と、これまで積み上げてきたものを捨てる覚悟で今大会に挑戦。プロ野球選手を夢見てティーバッティングをし続ける48歳の男と76歳の父の執着をコミカルに表現し、「ボケに無理がない」と審査員からも高評価を得る。次に控えるだるまは大会一のダークホース。ほかの出場者に聞いても全員が「知らない……」と首をかしげるフリーの地下芸人で、逆に言えば手の内の読めない恐るべき存在でもある。そんな2人はばったり出くわした旧友同士に扮し、ウザいキャラで印象強いはずの男がまったく名前を思い出してもらえず、なかなか話が噛み合わなくて……という掛け合いのコントを披露。初の大舞台に緊張も見えたが要所要所で確実に笑いを取っていく。

ありんくりんは、2人の見た目とルーツの特徴を最大限に生かしたコントで勝負。安定感のあるパフォーマンスは王者の貫禄さえ漂い、随所に散りばめた沖縄ネタで会場を沸かせながら、わかりやすい表現を心がけて審査員ら県外の人も置いてきぼりにしない。7回目にして初の決勝に挑んだパーラナイサーラナイは、トイレというシチュエーションに似つかわしくないアクロバティックな動きでとんちんかんな世界を表現。最後に登場した知念だしんいちろうはパーラナイサーラナイ知念臣悟の実兄で、敗者復活が決まると「兄弟ケンカは家でやれ!(笑)」とほかの出場者から野次が飛ぶ場面も。そんな和やかな雰囲気もありつつ、本戦唯一のピン芸人は演技力に裏打ちされた1人コントで底力を見せつける。彼が演じた、大御所マンガ家との親交を匂わせる雰囲気ありげなバーのママは、「いるいる!」と思わせる所作の数々で観客の笑いを誘った。

CM中や生放送後も健闘を称え合う芸人たち

全組のコントが終了したところで得点の発表へ。初恋クロマニヨン、ありんくりん、しんとすけ、パーラナイサーラナイまでの上位5組までは450点から444点と大接戦を演じた。2位と1点差の初恋クロマニヨンは「(優勝)いけるんじゃないですか?」と持ち上げられると、「完全に浮き足立ってる。まだ5合目だと言い聞かせます」と興奮を抑えて2本目の漫才へ臨む。一番手を務めただるまの漫才には、審査員から「タイトルが付けにくい。つまりテーマがはっきりしていない」と厳しくも的確なアドバイスが。彼らにとっては苦い経験になったかもしれないが、決勝のステージでベテランの芸人たちと戦い、著名な放送作家たちの意見を聞けたことは大きな収穫になったはずだ。

パーラナイサーラナイ

パーラナイサーラナイはヤンキーっぽい風貌の大田享をイルカに見立てた、イルカショーならぬアキちゃんショーを繰り広げる。アゴをクイクイと上下に動かして寄ってくる仕草や小銭を持っていないか確かめるジャンプなどの技を上手にこなすアキちゃんは、だんだん本当に園の人気者なのではないかと勘違いしてしまうほどチャーミングに見えてくる。1本目のネタで生放送を観ている視聴者から苦情が来たというノーブレーキは、「食べ物でお笑いしちゃダメ!」と自らイジって大きな笑いの波を作り、その勢いに乗ってのびのびとした漫才を展開。感想を求められるとコントでの失敗があったからこそ「思い切ってやれた」と清々しく語り、暫定3位にまくり上げた。

上位3組までの芸人がスタンバイする部屋と中継をつなぐ場面でも、いろいろと吹っ切れた様子のノーブレーキが魅力を発揮。ありんくりんのネタ前には「絶対面白いので、終わったなあ……って思ってます!」と率直な心境を明かし、1位のしんとすけの次に話を振られると「2位飛ばして3位に来るってことは、僕ら次、ないですねえ!」と間もなく暫定ボックスから姿を消すだろうことを予測してみせる。

優勝した初恋クロマニヨン。

ラストの初恋クロマニヨンを残してしんとすけとありんくりんが同点1位の座に就くと、「モノボケで決戦!?」「(ありんくりんは)1回獲ってるので、譲ってもらっていいですか?」と現場は大荒れに。そして初恋クロマニヨンのネタが終わり、再び全組がステージに集合した。結果発表を待つばかりとなったCM中には、各コンビが握手をしたり背中にポンと手を置いたりして健闘を称えあう。集計が終わり、優勝者として名前を呼ばれたのは、初恋クロマニヨン。G.Wしょうは涙をこぼしながら噴射された金テープを頭上に浴び、新本奨は「長かったー!」と叫んで悲願の初優勝を噛み締めた。芸人たちも祝福の拍手を送り、浮ついてボケが定まらない3人に「優勝してからずっとスベってるよ!(笑)」と茶々を入れる。生放送後もステージに残った芸人たちが労いあう姿があった。

「お笑いバイアスロン2019」は初恋クロマニヨンの優勝で幕を下ろした。