力強い歌声と繊細な感情表現を備えたシンガーソングライター、優里が新曲「ドライフラワー」を10月25日に配信リリースした。
2019年12月に配信リリースされた「かくれんぼ」がTiKToKなどのSNSで拡散され、ストリーミング配信を中心にロングヒットを記録した優里。2020年10月時点で「かくれんぼ」のミュージックビデオは1700万回再生を超え、世間から注目を浴びている。8月にはソニー・ミュージックレーベルズより配信シングル「ピーターパン」でメジャーデビュー。そして今回「かくれんぼ」のアフターストーリーとなる「ドライフラワー」を配信限定リリースすることとなった。「かくれんぼ」が男性目線の失恋ソングであったのに対して、「ドライフラワー」はその裏側にある女性の思いを描いた楽曲。ストーリー性のある歌詞、エモーショナルな歌声からは、シンガーソングライターとしての高い資質が伝わってくる。また「ドライフラワー」と同時に、YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で披露した、「かくれんぼ - From THE FIRST TAKE」も配信リリースされる。
音楽ナタリーでは優里に初インタビューを行い、音楽に興味を持ったきっかけや「かくれんぼ」「ピーターパン」「ドライフラワー」の制作過程、そして歌に対する強いこだわりなどについて、彼自身の言葉で語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 斎藤大嗣
音楽以外にやりたいことが見つからなかった
──今日は優里さんにとって初めてのインタビューだそうですね。
はい。緊張してます(笑)。
──よろしくお願いします(笑)。まず、音楽に興味を持ったきっかけを教えてもらえますか?
歌は子供の頃からずっと好きだったんです。小学校のときは、塾の行き帰りにCDウォークマンでCDを聴いてました。みんながiPodを使い始めてからもずっとCD(笑)。お気に入りのアーティストが決まってたから、4枚くらいをずっとリピートしてました。その頃は日本のアーティストは聴いてなくて、海外のロックバンドばっかりでしたね。Bon Jovi、Queen、AC/DCとか。
──それはご家族の影響ですか?
そうです。母親が洋楽のロックが好きで。たぶん、イケメンが好きなんですよ(笑)。ジョン・ボン・ジョヴィとか、顔もカッコいいじゃないですか。もちろん曲や歌もよくて、僕もすごく好きになって、カラオケでも歌ってました。周りの友達とは話が合わなかったけど(笑)。
──日本のバンドを聴き始めたのは?
高校生くらいですね。BUMP OF CHICKENが好きで、ライブにも行っていました。地元が幕張なので、幕張メッセでライブがあるときとか。途中で客席の真ん中あたりに、メンバーが来てくれるんですよ。近くに来たときに好きな曲をやってくれるとすごくうれしくて。あとスピッツも聴いてましたね。家にCDがあったし、横浜アリーナでライブも観ました。
──どちらも日本のロックバンドの王道ですね。歌い始めたのはいつくらい?
高校のときに友達とバンドを組んだんですよ。実は最初、歌ではなくてギターをやろうと思ってたんです。ロックバンドのギタリストに憧れてエレキギターを買ったんですけど、全然弾けなくて、1回のライブでクビになっちゃって(笑)。でも、ライブを観てた先輩が僕のコーラスを褒めてくれて、ボーカルとしてバンドに誘ってくれたんです。そのバンドではThe OffspringやGreen Dayなんかをコピーしていて、そういう音楽にハマった時期もありました。その頃からさらに歌が好きになって、どんどん楽しくなって。家でもずっと歌ってましたね。洋楽とか、ディズニーの曲とか。
──1人でディズニーの曲を歌ってたんですか?
はい。歌の中に出てくる台詞も覚えたり、それも楽しくて(笑)。家族には「うるさい」なんて言われてましたけどね。
──いろんなタイプの曲を歌うことで、ボーカルの基礎が身に付いたのかもしれないですね。
練習にはなっていたかもしれないです。最近もそうなんですけど、洋楽アーティストの曲を聴いて、「このフェイク、いいな」というフレーズを真似しようとしてみたり。ブルーノ・マーズ、エド・シーランとか、歌い方がすごくカッコいいので。特にライブでの歌い方がすごいんですよね。なかなかうまく真似できないんですけど。
──高校生の頃から、音楽をやっていこうという気持ちもあったんですか?
ありましたね。音楽以外にやりたいことが見つからなかったので。卒業したあとは福祉系の専門学校に行ったんですけど、メンバーを探してバンドを組んで、少しずつ曲も作り始めて。1人で路上ライブを始めてからは「もっと勉強しなきゃ」と思って、さらに日本のバンドを聴くようになりました。当たり前ですけど、歌詞って大事だなと。昭和の曲も聴き始めて、ライブでもカバーしてました。尾崎豊さん、テレサ・テンさん、あと小坂明子さんの「あなた」とか。今の曲とはちょっと雰囲気が違うんですけど、歌うと気持ちいいんですよ。
──路上ライブを始めたとき、将来に対する不安はなかったですか?
ほかにできることもなかったし、とにかく歌が好きだったから、歌うことしか考えてなかったんですよ。将来のビジョンがあったわけではないけど、「楽しく歌っていけたらいいな」としか思ってなくて。最近は聴いてくれる人が増えて、「もっとたくさんの人に届けたい」という気持ちも強くなってるけど、歌うのが好きというのはまったく変わってなくて。友達や家族も応援してくれてたし、マイナスなことを考えてもしょうがないなと。
──Instagram、Twitter、TikTokへの投稿も路上ライブと同時に始めたんですよね?
そうですね。1年半くらい前からは、ほぼ毎日投稿していて。最初は「少しでも気に入ってくれる人がいたらいいな」という感じだったんですけど、「かくれんぼ」を聴いてもらえるようになってから、コメントの数も増えて。一気に状況が変わったし、たくさんの人に僕のことを知ってもらえたのはすごくうれしいですね。僕自身にとっても「かくれんぼ」は大事な曲になりました。「かくれんぼ」の歌詞を書いたときの自分にも「ありがとう」ですね(笑)。
みんなが「いいな」と思うような曲を書きたい
──「かくれんぼ」を書いたのはいつ頃ですか?
去年の夏くらいかな。カバーだけじゃなく自分でも曲を作らないとダメだなと思い始めて。ギターを弾きながらメロディを口ずさんで、ボイスメモに録音してたんですけど、その中に「かくれんぼなんかしてないで」というフレーズがあったんです。「これ、いいな」と思って。そこに自分の経験や友達から聞いた話を加えながら作っていきました。
──失恋ソングを作ろうと思ったわけではなく?
最初から失恋ソングにしようと思っていたんじゃなくて、「かくれんぼなんかしてないで」からふくらませてできた曲ですね。「君の頭の中は 満員まるで朝の小田急線」は、実際に小田急線に乗ってるときに思い付いたんですよ。本当にあったことを混ぜつつ、想像しながら書いたというか。初めて作った曲だから、最初はいい曲なのかどうかわからなかったんですけどね。
──自信が持てなくて?
「どうなんだろうな」という気持ちはありましたね。それまで路上ライブで歌っていた曲は名曲ばっかりなんですよ。Mr.Children、スピッツ、サザンオールスターズとか。その中でオリジナル曲を歌うわけだから、ちゃんとした曲じゃないとダメだなと思って。聴いてくれる人に「オリジナルはこんな感じか」と思われるのは嫌だし……比べる曲のレベルが高すぎるんですけど(笑)。
──ミスチルやスピッツの名曲に負けないような曲を作りたい、と。
勝ち負けじゃないんですけど、みんなが「いいな」と思うような曲を書きたくて。「かくれんぼ」も少しずつ広がっていったし、今はとにかくいろんな曲を作って聴いてもらおうと思ってます。
──「かくれんぼ」の広がりについてはどう捉えてますか?
本当にたくさんの人に聴いてもらえて、いろんなライブにも呼んでもらえるようになって。大阪城ホールで歌えることになったときはびっくりしましたけど(8月に大阪・大阪城ホールで行われたイベント「THE BONDS 2020」に出演)、楽しく歌えました。たぶんまだ「かくれんぼ」しか知らない人が多いだろうし、自分のことを少しでも伝えられたらなと思って。「THE FIRST TAKE」に出させてもらえたのもうれしかったです。自分もよく観ていたし、たくさんの方に観てもらえるチャンスなので。
──優里さんは大舞台でも緊張しないタイプですか?
そんなに緊張しないかもしれないですね。歌うときは、自分ができることをやるだけなので。
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「あいつ、こんなことになってる」って思わせたい