ゆとりくん 1st EP「KINGDAMN」インタビュー|アパレルで成功するyutori経営者はなぜ音楽活動をするのか (2/2)

わけのわからないことを言っていかないと

──それに対して、2曲目の「スピってる」と3曲目の「成り上がリッチ」はもうちょっとドギツさの方面に振られています。

エグ味ですよね。あえてそうしたというか、EPのタイトルが「KINGDAMN」なんで、それをこの2曲が体現しているイメージです。

──いわば“KINGサイド”と“DAMNサイド”に分かれていて、どっちもなきゃいけないものになっている。

そうかもしれない。ただ、僕の中では意外と“DAMN”のほうが「VintageTee☆」なんですよね。“KING”が「スピってる」と「成り上がリッチ」で。この2曲、そもそも曲名からしてヤバいじゃないですか(笑)。どちらも「この資本主義社会の日本で、何もないところからカマしました」ってことを言っているんですけど、それを苦労話として語りたいわけでも、誇りたいわけでもなくて。「なんかうまくハマったな、イェーイ! 面白い!」ぐらいの感じなんですよ。

ゆとりくん

──経済的な成功を崇めるでも皮肉るでもなく、“ただそういう現象”として面白がっているシニカルさがありますよね。このスタンスは非常に“非ヒップホップ的”だと思います。

大変ではあったけど、苦労はしてないですからね。根本的なところで基準にしている感覚が、ヒップホップの考え方とは全然違うんですよ。どっちがいい悪いの話じゃなくて、事実として異なる。別に俺はどういう見方で自分を見てもらってもいいんです。「そういう生き方をしていたら、そりゃあ俺のことをそういう色のフィルターで見るよね。わかる」みたいな感覚でいるところがありますね。

──「FLEXIN」もそうだと思います。“Flex”というヒップホップの象徴みたいなワードを使っておきながら、その概念を根底から冷静に見つめ直している。

資本主義をある程度サバイブしてきた自分の、純真無垢な決意表明みたいな曲です。いわゆる港区的な拝金主義の価値観って、自分にとってすごくリアリティがあるんですよ。「あのタワマンの最上階に誰々さんがいて、その下の階には誰々さんがいて」とか「そこで何十億が動いていて」みたいな話が身近でリアルなものとしてあって、それを「不思議だな」と思いながら見ているという。別にそれを糾弾するみたいなことではなくて、センスのいい距離感ってあるよね、という曲ですね。

──肯定でも否定でもなく。

決して「俺はその世界には行かないぞ」ってスタンスでもないんですよ。それはそれで、その価値観に取りつかれていることになるし。

──「流行りには乗らないぞ」という姿勢が、逆に流行を気にしていることの証明になっちゃうみたいな話ですよね。

本質的にはそれと一緒ですね。別に行くときもあるし、行かないときもあるっていうだけのことなんで。バランスとして何が一番いいのか、ということでしかないです。

ゆとりくん

ミルフィーユボーイです

──全体的にフラットなものの見方、考え方がとても今っぽい感じがします。

そこが僕のウイークポイントでもあると思っていて。ものすごくフラットで俯瞰的で、バランス感覚のある人間だからこそ経営が多少うまくいっているのは確かだと思うんですけど、“作家と編集”でいうならそれは編集の役割であって。作家としてはもっと近視眼的な極端さがあってこそきらめく、みたいなことが絶対にあるんです。だとしたときに、自分の中の極端さを探しに行くのか、あるいは異常にフラットであることも極端さではあるわけだから、それがどう面白く伝わるかを考えるべきなのか……みたいな悩みはありますね。

──ただ、そこに無理が生じてしまったら本末転倒ですしね。

すべてがおかしくなっちゃいますからね。

──個人的には、極端に誠実であることがゆとりくんの武器であるような気がします。

なるほど。だから……変。変な人間なんです。

──(笑)。まあ、変であることは人として誠実であることの証ですから。

まあ、確かにそうですね。

──ないものねだりを「ないものねだりしてますよ!」と言いながらやっていく、くらいのことができる人だと思うので。

常に物事を多層的に見ている、みたいな。そういう部分は確かに自分にはあるんですよね。ミルフィーユボーイです。

──ミルクボーイみたい(笑)。それこそ先ほど名前の挙がったフリッパーズ・ギターと通ずるものを感じます。自分の作るものに対して冷静だし批評的だし、そこに軽やかなユーモアもあって……もちろん音楽自体はだいぶ違うんですけど。

すごくうれしいけど、怒られないかな(笑)。本当にカッコいいですよね、フリッパーズ。そもそも名前がもう……前身のロリポップ・ソニックって名前からしてエグい。隠し得ぬ知的な不良っぽいシニカルさが名前からも音からも伝わってきて、とにかく気持ちがいいです。

ゆとりくん
ゆとりくん

今、世界で俺しか持ってない使命

──「KINGDAMN」は、ご自身ではどんな作品になったと捉えていますか?

去年「若者帝国 好きな人たちと、好きなことに熱狂して働く」という本を出したんですけど、それと表裏をなすものですね。24歳から31歳までの、初期衝動で成り上がってきた自分の光と影そのものだなって。だからタイトルも、「KINGDOM」じゃなくて「KINGDAMN」としたわけだし、ある種すごく成功したことへの自己批評でもあるというか。だからもう、「こっからの第2章、どうすんの?」みたいな感じですね。もう若者ではないし、その狭間の曲が「VintageTee☆」とかなんで……もっと色気系になりたいですね。

──どういうことですか?

若者って、やっぱり怒りをエネルギーにしてるんで。もうそういうエネルギーよりは色気系……というより、わけのわからないことを言っていかないとなって。YouTubeで発信している内容なんかも、去年まではビジネスシーンで求められるようなリアリティのある批評や考察が中心だったんですけど、今年からはそういうのはやめていこうと思ってるんですよ。「わけのわからないことを言っていかないと」って、今世界で俺しか持ってない使命感なんじゃないかな。

ゆとりくん

──そのうえで、この「KINGDAMN」が市場でどんな存在になったらうれしいですか?

TikTokとかでたくさん消費されたいですね。「VintageTee☆」をみんなで踊ってほしい。まあどの曲でもいいんですけど……今は“ゆとりくんのファン”だけが曲を聴いている状態なので、もっと曲が一人歩きして走っていかないと、音楽をやってる意味がないなと思っちゃいます。

──確かに、TikTok発のヒットはそういうものが多いですね。

そうですね、転がり続けていくみたいな。自分は人間としての耐久性はものすごくあると思っているので、どんどん消費されたいです。高校生とか、「VintageTee☆」で踊り狂ってほしいですね。

──ナタリー読者に何か伝えたいことはあったりしますか?

なんだろうなあ……「前髪切れ」ですかね。

──(笑)。

前髪の重い人が多そうなイメージが勝手にあるんで、「前髪切ったほうがいいよ」と思いますね。シンプルに。

──以前、ヒャダインさんがまったく同じことを言っていました。

そうなんですね(笑)。

ゆとりくん

プロフィール

ゆとりくん

1993年12月25日生まれ、神奈川県出身。本名は片石貴展。ファッションブランド9090、HTH、PAMMなどを展開するアパレル企業yutoriの代表取締役社長を務めながら、2024年にボーカルユニット69(無垢)として音楽活動をスタートさせる。2026年2月にはゆとりくん名義で作詞作曲に携わった1st EP「KINGDAMN」を配信リリースした。