YURIYAN RETRIEVERが2ndシングル「Venus」で示すポジティブな生き方 (2/3)

なんで決めつけるん?

──レコード会社の方に「アリアナ・グランデになりたい」とおっしゃったことが、音楽活動を始めるきっかけになったそうですね。

「なりたいなー」思て、「なりたいですー」ってユニバーサルさんに言ったら「いいよー」と快諾してくださった、というのが本当のところなんですけど(笑)。なんでなりたいかというと、音楽ライブにはものすごく一体感と高揚感があるじゃないですか。もちろんお笑いライブにもありますけど、音楽ライブのほうがそういう熱量がずっと続く気がするんですよね。「これ、すごいな。この空気をなんとか手に入れたいな」と思ったんです。やし、お笑いって面白い往年のネタの場合は「生で観れてうれしい!」とかもありますけど、やっぱり初めて観たときのように息が苦しくなるほど大笑いすることはないじゃないですか(笑)。でも音楽だと、知ってる曲であればあるほどうれしいし、盛り上がるんですよ。

──芸能の本質に触れるお話ですね。

あとゆりやんレトリィバァは芸人ですけど、昔から「なんでもやってみたい」と思ってるので、「もしよかったら、そんなんやらしてもらえたらめっちゃうれしいな」とお話しさせていただきました。

YURIYAN RETRIEVER

──マネージャーさんと、実現できるかどうかは関係なく「こういうことをやりたい」「こんなふうになってみたい」と話す時間を定期的に設けていらっしゃるそうですね。素晴らしいことだと思います。

マネージャーは私と社歴が近くて、「何をするにしても遠回りすんのイヤやよな」と言い合ってて。例えば「これやりたいんですけど」って誰かに相談したら、大抵の場合は「あー、さすがにいきなりは無理やで」と言いながら、実現までのルートを探し始めてくれる。それはそれで大事やと思いますし、目標に向かって地道に一歩一歩近付いていくのも好きなんですけど、「なんで最初から無理って決めつけるん?」と思うんです。マネージャーと私はそこの感覚が一緒やったんで、「最初からできないって決めつけたくないよな」とよく話してて。「アリアナ・グランデになりたいんですけど」ってユニバーサルさんに電話するなんかアホじゃないですか(笑)。でも「アカン」って言われたらそれまでやけど、「言ってみなわからへんやん?」という感じやったんです。

──そうしたらOKしてくれたという。

うれしかったです。びっくりしました。

──2023年に参加したAwichさんの楽曲「Bad B*tch 美学 Remix」のラップもお見事でした(参照:ゆりやんレトリィバァがラッパーデビュー Awich、NENE、LANA、MaRI、AIとスーパー戦隊に)。自分のリアルを堂々と歌うのはラップの流儀ですよね。あの経験も「Venus」に生きているのかな、と思いました。「Bad B*tch 美学 Remix」には「一括で買ったベンツで帰宅」という歌詞もありますし。

音楽のジャンルで言ったら、私、ヒップホップが一番好きなんです。聴いたときにゾクゾクして気持ちいいから。たまたま5年前に「フリースタイルティーチャー」っていう、ラップを教えてもらう番組に出させてもらってから、めっちゃハマったんですよ。「自分のこと、こんなふうに誇らしげに言っていいんや!」みたいな驚きがあって。それまで謙遜と自虐で生きてきたので、めっちゃ楽しかったんですよね。今思えば、トレーニングを始めて体も心も健康的になってきたタイミングでラップに出会って、カッコいい自分でいる方法を教えてもらえた気がします。

──「Bad B*tch 美学 Remix」のMVには雄叫びを上げるシーンもありましたが、今観ると「極悪女王」が連想されますね。

実は撮影時期がまったく同じなんですよ。ちょうど「極悪女王」の“髪切りデスマッチ”の撮影中やったんで、一番たぎってるときだったかもしれないです(笑)。「極悪女王」は本当に、私の人生を変えてくれた作品ですし、全部がありがたいタイミングでした。

──トレーニングを始めたこと、ラップを学んだこと、「極悪女王」で悪役レスラーを演じたこと、音楽活動を始めたこと。確かにいろいろなタイミングがきれいにハマったように感じますね。

ですね。たぶん運動を始めて健康になったのがめっちゃよかったんですよ。まず健康になって、自分のことを好きになって、自分を大事にする。そこで「私はカッコいいんだぞ」と堂々と言っていいんだということをラップから教わって、「極悪女王」で感情の殻を破ることができた。

──そうしてYURIYANさんの内面がどんどん変わってきたことによる、周囲の変化もありますか?

あります。アーティスト活動に関しても、ユニバーサルさんのチームの方とかみんな大好きやし、いろんなことをやらせてもらって、気が付いたら今ここにおる。自分を卑下してたときと比べると、本当に楽しい、明るい、アグレッシブな環境に身を置いているなと思います。

YURIYAN RETRIEVER

何をしたいかがわかってなかった

──周囲の若い女性たちと話すと、YURIYANさんへの好感や憧れを感じます。ご自身の周りにもそういう人が増えてきていませんか?

確かに、子供が「将来の夢はゆりやん」と言ってくれて、「そんなことある?」と思ったりしました。街で会った女の人が「ホンマに大好きで、勇気もらってます」と言ってくれて、「勇気!?」ってびっくりしたりとか(笑)。今まではエマ・ワトソンに憧れてベリーショートにしたつもりが角刈りになって、わけわからん芸人みたいに思ってくださる方が多かったのに、私に憧れてくれるとか、私の持ち物を見て「それどこで買ったんですか?」とか、うれしいのとちょっと恥ずかしい部分もありますけど、「そういうふうに言ってくれるんや」という驚きがあります。

──自分を卑下する芸風でやっていらしたときも、心の中には「素直に自分のままで表現をしたい」という気持ちがずっとあったんでしょうか。

あったのかどうかもわからないほど、自分が何をしたいかがわかってなかったと思います。自分が何者かさえもわかってなかった。芸人としてではなくて、何色が好きだとか、どんな服を着たいとかさえも。

──そうすると、周りに求められることを「こうですか?」と確認しながらやっていくような感じになりますよね。

そうですね。お笑いのネタでは自分のやりたいことを貫いてましたけど、例えば行動にしても服装にしても髪型にしても「女芸人だから、こういうふうにしとかないといけない」と、人にどう思われるかをいちいち気にして。「本当はこういうのがやりたいのに」とかじゃなくて、「まあ、こういうもんやろ」みたいな気持ちでした。感情もあんまり表に出せなくて、今は「やったー! めっちゃうれしい!」と素直に言えるけど、1回飲み込んで「あ、うれしいです……」みたいな。うれしいこととか腹立つこととか好きなものにまっすぐエネルギーを出す方法がわかってなかったですね。

YURIYAN RETRIEVER

──現在はLAに住んでいるそうですね。向こうでの生活はいかがですか?

LAにはもちろん憧れもあって行ったんですけど、行ったら行ったで「住むってこんな大変なんや」とか、手続きとか資料集めとか、スーパーに買い物に行ってもそもそも何がなんの商品かわからへんし、それだけで心折れそうになりました。でも楽しいですよ。

──向こうで何か面白いことはありましたか?

LAではスタンドアップコメディをベースにやってるので、オーディションにエントリーしてネタ見せしたりとかしてますけど、日本とは全然文化が違いますね。オーディション会場はちっちゃいクラブやし、お客さんがいっぱいいるわけでもないし、エントリーした人だけが観てるところでやるんですけど、みんなノート見てネタやるんですよ。「次のジョークはこれ」とか言って。それが私には信じられなくて、「プライドないんかい!」と思ったんですけど(笑)、向こうは「ネタができてないから、読みながらやるよ」みたいな文化なんですよね。そういう違いが面白いし、私は読むのはイヤやからがんばって覚えてますけど、「今週芸人を始めた」と言ってた人が「まあまあよかったんじゃない?」とアドバイスしてくれたりするんも面白いし(笑)。「いつからやってんの?」とかよく聞かれるんですけど、ハードル下げたいから「昨日」って嘘ついてます。