YURIYAN RETRIEVERが2ndシングル「Venus」で示すポジティブな生き方

ゆりやんレトリィバァがYURIYAN RETRIEVERとして7月に1stシングル「YURIYAN TIME」でメジャーデビューし、9月に2ndシングル「Venus」を配信リリースした。YURIYANのソロアーティストとしての活動は、お笑いファンだけでなく、彼女の生き方に共感する女性たちにも支持されている。

「Venus」についてYURIYANは「今のルッキズムに対する思いというか、『見た目だけで判断していろいろ言ってくる人たちが、いまだにおるな、なんか腹立つな』ってところから作っていきました。見た目のことを言ってくるやつはほっとけというよりも、魅力的な中身を強く持った人間の曲になってます」と説明する。怒りを原動力としつつも、あくまでポジティブに展開するのがYURIYAN流。前作以上にバラエティに富んだビートと自在なフロウが「Venus」の聴きどころとなっている。

音楽ナタリーは、現在の住まいであるロサンゼルスから“緊急来日”したYURIYANにインタビュー。「スケジュールに“ナタリー”って書いてあって、お笑いナタリーさんかと思っちゃってました」と言いつつ、ありのままの自分を愛すること、ソロアーティストとしての大いなる夢についてたっぷり語ってくれた。

取材・文 / 高岡洋詞撮影 / YOSHIHITO KOBA

何も着飾らない自分たちこそ最高

──インタビュー前には写真撮影の様子を拝見していました。カッコよかったです。相当、鍛えていらっしゃいますね。

トレーニングはほぼ毎日行ってます。信じてください。

──疑っていません(笑)。表情もめちゃくちゃ魅力的で、「Venus」のミュージックビデオでも豊かな表情に惹き付けられました。あれは途中までワンカットの長回しですよね。

そうなんです。水に顔をつけるシーンで切り替わるんですけど、ほぼワンカットの撮影には慣れていなくて緊張しました。

──衣装やアクセサリーなど身に着けていたものをどんどん取り去って、メイクも落として素顔に戻っていくという演出が、「Venus」のテーマに合っていますね。

はい。普通に生活してても、どうしても内面を見てもらえないというか、表面的な部分だけで判断されることがめっちゃ多いんです。でもそうじゃなくて、いろんなものを取っていって、何も着飾らない本来の自分たちこそ最高だよね、みたいな。「Venus」にはそういう思いを込めました。

──YURIYANさんもアイデアを出されたりしたんですか?

MVに関しては薗田賢次監督にお任せで作っていただきました。「Venus」では「着飾ったものを外して……」みたいなことは歌ってないんですけども、「こんなにがんばってるのに、なんで評価してくれないんだ」という歯がゆい気持ちがこの曲が生まれた発端になってるので、監督がその思いを映像に落とし込んでくださったんです。

健康な体で好きなことをやる

──曲はyonkeyさんとYoshio TamamuraさんとYURIYANさんの3人がクレジットされていますね。

Venus

[作詞:yonkey、ゆりやんレトリィバァ、Yoshio Tamamura / 作曲:yonkey、Yoshio Tamamura]

おそれ多いです。私、普段から思ってることとか、腹が立ってることを、ネタの材料にするために書き溜めていて。yonkeyさんが「自分が言いたいことを歌うのがいいよね」と言ってくださったので、私の思いを書き出して渡したんです。それをもとに曲を作っていただく中で、「こことここのブロックはご自身で書いてみますか?」と提案してくださって。

──どのブロックですか?

1回目のサビ終わりの「あーしは希少な女 お前はキショいなほんま」というフレーズではネタの一部を使ってもらってますね。それと「止められないこの衝動 起こしたあーしのあの行動 騒動報道されてもとにかくもっとHold on me!」のところと「もう乗ってない 一括で買ったベンツさえも 買って5回乗って売った ペーパードライバー」は私が書かせていただきました。

──がっつり共作なんですね。

最初は「ルッキズムほっとけ」みたいな、もっと見た目にフォーカスした歌詞だったんですけど、yonkeyさんに「私的には、あんまり見た目が太いとか細いとかは重要視せずに歌えたらいいなと思ってます」とお伝えしました。「せっかく書いたのに」と思われてもおかしくないのに、すぐに「じゃあ変えましょう。やっぱり歌いたいことを歌わないと」と言ってくださって、もっと内面的なところにフォーカスしてくれました。

──なるほど。

最初の歌詞は「太っててもいい、これが私の美しさ」みたいな雰囲気やったんですけど、私、全然そうは思ってなかったので(笑)。食べて食べて太って不健康になって「でもそれが私」と主張するんじゃなく、自分を大事にして、健康に好きなことをやりたいようにやるのがいいという考え方に変わったんです。

──YURIYANさんご自身のマインドが数年前とは違うんですね。

そうなんです。今思えば、ちょっと自分を卑下して「私はこれでいいんです」とか「どうせ私なんて」とか、自虐的な考え方をしてたかなって。それはポジティブじゃなくて開き直りのような気がして。例えば「足長くなりたいな」とか「顔ちっさくなりたいな」とか「あの人みたいな顔だったらよかったのに」とか、いくら思ったって希望通りに姿形を変えることは不可能じゃないですか。それより生まれ持ったこの体をどうやって最高な状態に保って、好きでいられるかというのがポジティブやと最近は思うんです。

YURIYAN RETRIEVER
YURIYAN RETRIEVER

ウケへんからやらへんだけ、今はもう言いたくないな

──昔はルッキズムやエイジズムがもっと当たり前にまかり通っていましたから、女性の芸人さんはそこに迎合して笑ってもらうという構造があったと思いますが、最近は変わってきていますよね。その流れを変えている芸人さんの1人がYURIYANさんなのかな?とも思います。

ありがとうございます。でも私、ジャンヌ・ダルクみたいに「私が切り開いて変えていきたいのさ」「女芸人を包囲する悪しき風潮をなくしたいのさ」みたいなんは一切なくて(笑)。確かに容姿をネタにする時代はありましたし、私がお笑いを始めたときもまだ全然「すいません、気付いてらっしゃらないと思いますけど、私、デブなんですよ」とか言ってウケる、みたいな空気でした。でもこの10年ぐらいで、お客さんが「見た目で笑ったらアカン」みたいになってきましたよね。

──わかります。意識が変わりましたよね。

ホンマにめっちゃ変わったなと思います。私たちも「やったらアカン、こんなんおかしい」という意識じゃなくて、単にウケへんからやらへんだけなんですよ。私、見た目でイジられるのも全然イヤじゃないんです。ただ、当時のままの感覚で言ってくる人には「このご時世でまだそうやってイジってくるんや(笑)」と思うぐらいですかね。不思議なもんで、ウケへんからやらへんでいるうちに「もう言いたくないな」という気持ちに変わってくるんですよ。

──本当にこの10年ですよね。見た目をからかったり悪く言ったりする人が自然と減って、「見た目? それが何?」みたいなマインドの人が増えました。

それはめっちゃ思います。逆にルッキズム、エイジズムの人に対して、1周回って「もう誰も言ってへんから、逆に新しいな」という感覚になるんですかね(笑)。そういう時代がまた戻ってくるかもしれないですね。

YURIYAN RETRIEVER

──それは戻ってきてほしくないですね(笑)。

私、10年前にニューヨークに住んだことがあるんですよ。芸人になって間もない頃で、「ナイナイの海外定住実験バラエティー 世界のどっかにホウチ民」(TBS系)のロケで3カ月。何人かでルームシェアしてたんですけど、当時の日本の感覚で、なんてことなしに「私なんてブスやし」と言ったら、エイプリルちゃんっていう女の子が私の顔を触って、親指でほっぺたをなでながら「You're beautiful. Don't say that」と言ってきて。

──「あなたはきれいだよ。そんなこと言っちゃダメ」と。

そんときは「ブスって言うほうが楽やのに、そんなん言われたらどうしていいかわからへん」みたいな気分になって居心地が悪かったんですけど、今の自分はそのときのエイプリルちゃんの感覚です。「私、ブスなんで」と誰かが言ったら、「ううん、そんなことないよ。そんなん言わんほうがいいよ」と思っちゃいます。

──うんうん。当時はそういうポジティブな返しを“ボケ潰し”みたいに言う風潮がありましたよね。「せっかく謙遜したのに」と、かえってバツが悪くなるみたいな。

そう言っといたほうが自分を守れるような感じがあったんですよね。「人に言われる前に自分が言っとこう」みたいな感覚やったんかもしれないです。