アニメ「ユーレイデコ」×Sarah L-ee・浅倉大介・Shinnosuke|三者の力が合わさって生まれたコラボソング「I AM I」を紐解く (2/2)

丸裸のデモだった

──歌詞全体としては、どんなイメージで書き始めたものなんですか?

Sarah 純之介さんからは「自由にやってみて」と言っていただいたので、とにかく自分らしさを入れようと。「ありのままの、ほかの誰でもない自分で私らしく輝きたい」という思いであったり、「いつかこの歌声がいろんな人の心に届きますように」という強い願いを込めて書いてみました。

──あくまで“自分の歌”として書いたわけですね。それがたまたまアニメの世界に合致してしまったという。

Sarah そうなんです! 本当にたまたま(笑)。

──Shinnosukeさんは、どんな音にしようという意識でアレンジ作業を進めたんでしょう?

Shinnosuke 浅倉さんのメロを自分がアレンジするということが、とにかくプレッシャーで(笑)。しかも、浅倉さんのデモが丸裸のデモだったんですよ。ほとんど先生から宿題を与えられた感じ、試されているような感覚でしたね。それを愛のムチととらえてがんばりました。

浅倉 そう、普通は作曲家がもうちょっとリズムパターンやベースライン、使う音色なんかをある程度組み上げた形でアレンジャーに投げるんだけど。今回は僕も自分のハードルを上げた分、Shinnosukeくんのハードルも上げさせてもらいました(笑)。コードとメロディしか渡さなかった……というか、そもそもそれしか作らなかったんで。

Shinnosuke アニメーションがちょっとスペーシーでデジタルな感じだったのと、浅倉さん自体もデジタル人間のイメージなので(笑)、当然シンセサウンドを基調とした、生楽器ではないアレンジにしようとは思っていました。それにプラスして、Sarahちゃんにも「どういう感じでやりたい?」とヒアリングしつつ、彼女の好きなファンキーなテイストも自分なりに抽出して作っていった感じですね。

「ユーレイデコ」第5話より。

「ユーレイデコ」第5話より。

──そうして完成した音源を聴かせていただいて、個人的にはすごく「ド真ん中の王道J-POPだ」という印象を受けたんです。そういうものを作ろうという狙いはあったんでしょうか。

浅倉 僕が今回やったのはメロディとハーモニーだけなので、少なくとも僕にはその狙いは全然なかったですね。今回はコラボレーションならではの醍醐味を楽しもうと思ってたので、そのよさを生かすためには自分がそこに関与しないほうがいいだろうなと思って。

Shinnosuke 僕もまったく意識はしていないですね。単純に自分の好きな音がこれだっただけというか。

浅倉 僕は80年代や90年代の日本独特のポップスを聴いてきたし、自分でも発信してきて、ShinnosukeくんやSarahさん、佐藤さんもそういうものをかなり聴いてきているわけです。みんなの「そういう気持ちよさってあるよね」が1つにまとまることでこの「I AM I」のサウンドデザインになっているんだと思うので、それが結果として王道J-POPに聞こえるということなのかもしれないですね。

──狙いではなく、あくまで結果論に過ぎないというか。

浅倉 僕はそう思いますね。

Shinnosuke 僕が思うに、たくさんのヒット曲を生み出してきた浅倉さんならではのメロディの強さが、そう感じられる最大のポイントなんじゃないですかね。

──なるほど。個人的に、「I AM I」では特にBメロのラインがめちゃくちゃ好きなんですが……。

Shinnosuke わかる! 付点8分音符! あそこ、僕も強調したくてベルで歌メロをなぞってユニゾンさせてるんですよ。

──「うわー、浅倉大介だ!」と強く感じられるメロですよね。

浅倉 そういう言葉はありがたいです。Bの中でも1回転調することで色を変えていて、「最終的にどこのキーへ行くのかな?」という展開からサビへつながる誘導音の存在感なんかは、けっこう自分のキャラが出せている部分なのかなと思いましたね。サビの半音転調も、普通に繰り返すだけよりは何かスリルを加えたくて。

Shinnosuke その転調、頭サビの時点ですでにやってますもんね。「イントロからやってくるんだ?」と思ってびっくりしました。

J-POPの肝は“哀愁”

──そんな曲を歌われたSarahさんはどうでした? 歌うのが難しかったところや、手応えを感じたポイントなどは?

Sarah こんなふうに高い音域で始まる曲を今まで作ったことがなかったので「新しいな」とは思ったんですけど、同時に懐かしい感じもあって。こういうJ-POPに小さい頃からずっと憧れていたから、「こんなメロディを歌える日が来るなんて」という気持ちでしたね。感動しながら歌えました。

浅倉 僕は彼女の音の伸ばし方、粘り方が好きです。音と音のつなぎ目、言葉が移り変わる瞬間がちょっと英語っぽく聞こえたりするのが、とってもおしゃれで素敵だなと感じました。

Sarah ありがとうございます! 特に意識はしていなくて、自然とそうなってしまうだけなんですけど(笑)。

Shinnosuke Sarahちゃんは自分で歌詞とメロディを作って歌うタイプのアーティストなので、これまで人の作ったメロディをあまり歌ってきていないと思うんですよ。でも、ちゃんと自分なりの解釈でやっていて、自作曲を歌うときと比べてもまったく遜色がない。そこが個人的にはすごくうれしかったポイントで、ミックスしながらニヤニヤしてましたね。

Sarah 誰かが作ってくださったメロディを歌える日がいつか来たらいいなとずっと思っていたので、今回そういう機会をいただけてすごくうれしかったです。

Shinnosuke Sarahちゃんが僕の神様的な存在である浅倉さんのメロディを歌ってくれたという意味でも、僕もすごくうれしかった。

──ご自分の曲を歌うのと、人が作ったメロディを歌うことはどんなふうに違いました?

Sarah 私は普段けっこう洋楽寄りのメロディを作っているので、そのメロディ感の違いが一番大きかったかもしれないです。本当に勉強になりました。

浅倉 洋楽との大きな違いとして、作り手として感じるのは“哀愁”なんですよ。日本人が聴いて気持ちよく理解しやすいのはそこなんです。洋楽ではAメロ、サビみたいな構成が多いと思いますけど、日本人はBメロの哀愁感に心をつかまれるんですよね。Bメロをすごく大事に作ることでストーリー展開が強調されて、サビがよりよく聞こえるようになる。それはもう日本の様式美ですよね。今回の曲でSarahさんがそれを感じてくださったのは、すごくうれしいなと思います。

Shinnosuke 今回の裏テーマとして「Sarahちゃんを浅倉さんに認めてもらいたい」というのもあったんですよ。僕のアレンジやSarahちゃんの歌詞と歌に対して「まあまあ、いいんじゃないの?」みたいな反応だったらどうしようと恐れていたんですけど(笑)、本音はわかりませんが褒めていただけたので、とにかく「ありがとうございます」という気持ちですね。

──浅倉さんとしては、別にお世辞とかではないですよね?

浅倉 お世辞です。

一同 あははは(笑)。

浅倉 それは冗談ですけど(笑)。今回1つびっくりしたのは、リモートでこれだけコラボレーションができてしまうことで。対面できなくても、みんなで音楽を持ち寄ってこれだけしっかりした作品を作り上げることができるんだと。それを体感できたのはよかったなと思いましたね。

Shinnosuke うれしいですよね。

浅倉 「ユーレイデコ」という作品自体も、バーチャルな世界が描かれているじゃないですか。「I AM I」もそんなふうにネット空間の中だけで構築した関係性で作られた音楽なので、アニメと一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。

「ユーレイデコ」第5話より。

「ユーレイデコ」第5話より。

プロフィール

Sarah L-ee(セラリー)

カナダで生まれ育った日本人と韓国人のハーフ。幼少期から歌手を志し、17歳でネットを拠点に活動を始める。ニコニコ動画で配信者として生配信を行うようになり、「歌ってみた」や楽曲アレンジの動画を投稿し続けた。2016年頃には本格的に活動を始めるためにカナダから日本へ移住。2017年以降はオリジナル楽曲のリリースに力を入れ、作詞、作曲、歌唱を自身で行う。2021年には朗読劇「KANAWA」の主題歌「鏡」を担当した。

浅倉大介(アサクラダイスケ)

accessのキーボーディスト。1992年に貴水博之とともにaccessを結成し、シングル「Virgin Emotion」でデビューした。1994年には初の「NHK紅白歌合戦」出場を果たすも、その後ユニットは長い沈黙期間へ突入。2002年に電撃復活を果たし、コンスタントにリリースとライブを重ねている。T.M.Revolution、雛形あきこ、藤井隆といったアーティストのプロデュースも担当。ゴールデンボンバー、でんぱ組.inc、TRF、「あんさんぶるスターズ!」といった数々のアーティストや作品への楽曲提供も行っている。

Shinnosuke(シンノスケ)

2003年1月にSOUL'd OUTのトラックマスター兼キーボーディストとしてメジャーデビュー。2014年7月に東京・新木場STUDIO COASTで行われたワンマンライブ「SOUL'd OUT LAST LIVE "0"」をもってグループは解散した。2017年7月に声優の森久保祥太郎とともにbuzz★Vibesを結成。嵐、AI、寺島拓篤、「アイドリッシュセブン」、「アイドルマスター ミリオンライブ!」といったアーティストや作品への楽曲提供も行っている。