松任谷由実|レビュー&アルバムを聴いたアーティスト16人のコメントで伝える“今の時代にこそ聴いてほしい45曲”

DISC 1「Pure Eyes 純粋さを、捨てない。」

松任谷由実

ここからは、本作に収められた楽曲について紹介していきたい。DISC 1「Pure Eyes 純粋さを、捨てない。」は、「瞳を閉じて」(1974年発売のアルバム「MISSLIM」収録)で始まる。ノスタルジックなメロディと共に奏でられる「小さな子供にたずねられたら 海の碧さをもう一度伝えるために いま瞳を閉じて」というサビのラインは、人生の中で持ち続けるべきピュアネスを鮮やかに示している。この曲が発表されたとき、ユーミンは20歳。シンガーソングライターとしてスタートしたばかりの時期に「瞳を閉じて」という圧倒的な普遍性を備えた楽曲を生み出していたことに改めて驚かされる。

1973年のデビューアルバム「ひこうき雲」に収録された「雨の街を」は、キャリアを通して彼女自身がフェイバリットに挙げている楽曲。孤独を抱え、夜明けの街を眺めながら「誰かやさしくわたしの 肩を抱いてくれたら どこまでも遠いところへ 歩いてゆけそう」と願う女性を描いたこの歌は、繊細な響きをたたえたメロディ、詩的な比喩表現を含め、初期のユーミンを代表するナンバーの1つだろう。

個人的にもっとも心に残ったのは「セシルの週末」(1980年発売のアルバム「時のないホテル」収録)。早熟な女の子が歳上の男性に出会い、少しずつ心を開いていくというストーリーを持った歌詞は、ユーミンがフランソワーズ・サガンの小説「悲しみよこんにちは」のイメージと自身の少女時代を重ねながらつづったもので、思春期から大人になっていく時期の純粋な感情が映し出されている。またDISC 1の終盤にある「Midnight Scarecrow」(1995年発売のアルバム「KATHMANDU」収録)の洗練された旋律の中でつづられる「人は何も持たずに生まれ 何も持たずに去ってゆくの それでも愛と出会うの」という歌詞は、ユーミンの人生観、恋愛観、音楽観の根幹と強く結び付いていると思う。

DISC 2「Urban Cowgirl “私”で、生きてゆく。」

DISC 2「Urban Cowgirl “私”で、生きてゆく。」の中心にあるのは、個として生きようとする女性を描いた楽曲だ。まずはDISC 2のスタートを飾る「ふってあげる」(1988年発売のアルバム「Delight Slight Light KISS」収録)。デジタルサウンドと生楽器が心地よく絡み合う80年代後半特有のポップサウンド、自分から恋の終わりを宣言する女性を主人公にした歌詞は、まさに自立した女性像そのもの。発表当時はバブル世代の新しい女性の生き方として語られることが多かったが、約30年が経ってもこの曲に込められたメッセージ性は色褪せない。

「街角のペシミスト」(1981年発売のアルバム「昨晩お会いしましょう」収録)は、ソウルミュージックのテイストを感じさせるバンドのグルーヴと共に、大人の女性のナイトライフを描いた楽曲。主人公の女性は週末の夜、ディスコに繰り出し、お酒を楽しみながら不安な明日を紛らわせようとする。1980年代の雰囲気が色濃いナンバーだが、その揺れる心理は現代の女性にも間違いなくリーチするはずだ。また、1970年代中頃のAORサウンドを取り入れたアレンジが印象的な「雨のステイション」(1975年発売のアルバム「COBALT HOUR」収録)も素晴らしい。失ってしまった恋愛を思い出し、心の赴くまま“あの人のところに行きたい”と願う歌詞には、1人で悲しみを受け止めようとする意志が深く刻み込まれている。

軽快なギターサウンドと解放感のあるボーカルを軸にした「オールマイティ」(1983年発売のアルバム「REINCARNATION」収録)にも触れておきたい。男性との恋の駆け引きを楽しむ生き生きとした女性像もまた、ユーミンの音楽の大きな魅力だ。

DISC 3「Mystic Journey 旅を、やめない。」

DISC 3「Mystic Journey 旅を、やめない。」では、タイトル通り時空を超越した音楽の旅が体験できる。オリエンタルな雰囲気の「砂の惑星」(1994年発売のアルバム「THE DANCING SUN」収録)、ラテン音楽のエッセンスをたっぷりと含ませた「輪舞曲」(1995年発売のアルバム「KATMANDU」収録)。これらの楽曲がリリースされた1990年代中盤は、幅広いサウンドの要素を取り入れることで、ユーミンの音楽世界が大きく広がった時期だ。彼女の音楽的変遷を、とりわけDISC 3で堪能することができる。

特に印象的だったのが80'sテイストのシンセを中心にした宇宙的な楽曲「AVALON」(2016年発売のアルバム「宇宙図書館」収録)、エキゾチックな神秘性を放つ「BABYLON」(1986年発売のアルバム「DA・DI・DA」収録)の流れ。ユーミンの壮大なスケール感を体感できるこの2曲は、アルバム「宇宙図書館」のツアーでも披露され、ハイライトを作り出していた。

“音楽の旅”の終着地は「July」(1993年発売のアルバム「U-miz」収録)。大きな川をたゆたうような美しいメロディを伴いながら「この世界でひとりだけの この生命で一度きりの私 誰かおしえてよ 愛はあのひとがくれたの」と歌うこの曲は、まさに時代を超えたテーマを私たちに投げかけている。

各盤のテーマ設定、選曲を含め、奥深い精神性と優れたエンタテインメント性を兼ね備えた「ユーミンからの恋の歌。」。ユーミンからのメッセージでもある本作はリスナーの生活をより豊かにしてくれるはずだ。

松任谷由実「松任谷由実45周年記念ベストアルバム『ユーミンからの、恋のうた。』」
2018年4月11日発売 / EMI RECORDS
松任谷由実「松任谷由実45周年記念ベストアルバム『ユーミンからの、恋のうた。』」初回限定盤A

初回限定盤A
[CD3枚組+Blu-ray Disc]
4860円 / UPCH-29291

Amazon.co.jp

松任谷由実「松任谷由実45周年記念ベストアルバム『ユーミンからの、恋のうた。』」初回限定盤B

初回限定盤B
[CD3枚組+DVD]
4320円 / UPCH-29292

Amazon.co.jp

松任谷由実「松任谷由実45周年記念ベストアルバム『ユーミンからの、恋のうた。』」通常盤

通常盤
[CD3枚組]
3672円 / UPCH-20479~81

Amazon.co.jp

CD収録曲

DISC 1 Pure Eyes

  1. 瞳を閉じて
  2. ジャコビニ彗星の日
  3. スラバヤ通りの妹へ
  4. 雨の街を
  5. 緑の町に舞い降りて
  6. セシルの週末
  7. September Blue Moon
  8. まずはどこへ行こう
  9. ただわけもなく
  10. 海に来て
  11. Summer Junction
  12. きっと言える
  13. Midnight Scarecrow
  14. Autumn Park
  15. 雪だより

DISC 2 Urban Cowgirl

  1. ふってあげる
  2. 思い出に間にあいたくて
  3. ひとつの恋が終るとき
  4. もう愛は始まらない
  5. TUXEDO RAIN
  6. 心ほどいて
  7. 街角のペシミスト
  8. NIGHT WALKER
  9. Nobody Else
  10. 夕涼み
  11. 雨のステイション
  12. 幸せはあなたへの復讐
  13. Cowgirl Blues
  14. オールマイティ
  15. フォーカス

DISC 3 Mystic Journey

  1. 満月のフォーチュン
  2. 破れた恋の繕し方教えます
  3. 砂の惑星
  4. 朝陽の中で微笑んで
  5. 輪舞曲
  6. ツバメのように
  7. シャンソン
  8. 霧の中の影
  9. AVALON
  10. BABYLON
  11. きみなき世界
  12. Man in the Moon
  13. SATURDAY NIGHT ZOMBIES
  14. 無限の中の一度
  15. Joly
松任谷由実ベストアルバムツアー
「45年分の、恋のうた。」
  • 2018年9月22日(土)岩手県 盛岡タカヤアリーナ
  • 2018年9月23日(日・祝)岩手県 盛岡タカヤアリーナ
  • 2018年10月6日(土)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2018年10月7日(日)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2018年10月13日(土)大阪府 大阪城ホール
  • 2018年10月14日(日)大阪府 大阪城ホール
  • 2018年10月18日(木)広島県 広島サンプラザ ホール
  • 2018年10月19日(金)広島県 広島サンプラザ ホール
  • 2018年11月17日(土)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
  • 2018年11月18日(日)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
  • 2018年11月23日(金・祝)静岡県 エコパアリーナ
  • 2018年11月24日(土)静岡県 エコパアリーナ
  • 2018年11月28日(水)北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
  • 2018年11月29日(木)北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
  • 2018年12月19日(水)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
  • 2018年12月26日(水)愛知県 日本ガイシホール
  • 2018年12月27日(木)愛知県 日本ガイシホール
  • 2019年3月6日(水)東京都 日本武道館
  • 2019年3月7日(木)東京都 日本武道館
  • 2019年3月9日(土)東京都 日本武道館
  • 2019年3月10日(日)東京都 日本武道館
  • 2019年3月12日(火)東京都 日本武道館
  • 2019年3月13日(水)東京都 日本武道館
  • 2019年3月17日(日)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
  • 2019年3月23日(土)福井県 サンドーム福井
  • 2019年3月30日(土)福岡県 マリンメッセ福岡
  • 2019年3月31日(日)福岡県 マリンメッセ福岡 
  • 2019年4月6日(土)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2019年4月7日(日)神奈川県 横浜アリーナ
松任谷由実(マツトウヤユミ)
1954年生まれ、東京出身の女性シンガーソングライター。1971年に作曲家としてプロデューを果たし、翌1972年に荒井由実として歌手デビューシングル「返事はいらない」をリリースする。1973年に1stアルバム「ひこうき雲」を発表し、翌年から本格的なステージ活動を開始。「あの日へかえりたい」をはじめとする、数々のヒット曲を連発する。1976年にアレンジャーの松任谷正隆と結婚してからは、松任谷由実として活躍。1970年代から2010年代にかけての史上初となる5つの年代でのアルバム売上首位を達成するなど、数多くの記録を樹立する。2016年には38枚目となるオリジナルアルバム「宇宙図書館」をリリースし、翌2017年9月まで自己最長、最多本数となる42都市80公演の全国ツアーを行った。また近年は東京・帝国劇場のコラボレーションによる舞台「ユーミン×帝劇」を上演するなど、さまざまな方面で話題を集めている。