ユッコ・ミラー×小林香織インタビュー|サックス界を牽引する女性プレイヤー2人が初対談

H ZETTRIOとのコラボアルバム「LINK」を12月にリリースしたユッコ・ミラーと、通算15枚目のアルバム「INTERSECTION」を7月にリリースした小林香織。レーベルメイトでもある女性サックス奏者の2人が偶然にも今年新作をリリースしたことを記念し、音楽ナタリーで対談インタビューを実施した。

キャリアは異なるが、ステージでの共演をきっかけに仲よくなったという2人。初対面の印象に始まり、まだまだ少数だという女性サックス奏者というポジションについて、そして互いの新作をどのように聴いたのかなど、じっくりと掘り下げる。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / はぎひさこ

3軒ハシゴで仲よくなった

──お二人が対談するのは初めてとのことですが、以前、お食事には行かれたことがあるそうですね。

ユッコ・ミラー そうなんですよ。

小林香織 一昨年の12月かな。以前、ユッコちゃんと共演する機会がありまして。そのあとに飲みに行って、すぐに仲よくなったんです。

左からユッコ・ミラー、小林香織。

左からユッコ・ミラー、小林香織。

ユッコ 相当盛り上がりましたよね。2軒行きましたっけ?

小林 3軒かな。覚えてない(笑)。そこでは音楽のことはもちろん、けっこう幅広いお話をしましたよね。

ユッコ そうですね。めっちゃ楽しかったです。

小林 そこから定期的に集まろうと言ってたんですけど、去年は私がユーミン(松任谷由実)さんのツアーに同行してほとんど時間が取れず。ユッコちゃんにそろそろ連絡を取りたいなと思っていたときに今回の対談のお話をいただいたんです。

ユッコ ひさしぶりにお会いできてうれしいです!

小林 私もうれしい! そしてまた飲まなきゃね。今年こそは実現しなきゃ。

ユッコ そうですね。お願いします(笑)。

──実際に会うまでは、同じサックス奏者としてお互いにどんな印象を持たれていましたか?

ユッコ 香織さんは私が学生の頃からずっと第一線で活躍されているし、10年以上、毎年のようにアルバムを出されていたりして。そこで“小林香織”という確固たるブランドを築かれていると思うんですよ。だから初めてお会いするまではすごくドキドキしていたんですけど、現場ではめっちゃ気さくに話しかけてくださって。いい方でよかったー!と思いました。

小林 ありがとうございます(笑)。私はユッコちゃんのことをテレビで何度もお見かけしていたし、ピンクの髪がとにかくインパクト抜群で。その印象から私は勝手にもうちょっとチャラい感じの方だと思っていたんです(笑)。

ユッコ あははは。

小林 でも実際にお会いしたら、人間としても音楽に対する姿勢もすごくきちんとしている方で。だから一気にファンになっちゃいました。

ユッコ 私もずっと香織さんが憧れの存在でした。

小林 えー、うれしい! 私がデビューした頃は女性のサックス奏者がほとんどいなかったので、すごくチヤホヤしていただいた状況で(笑)。でも、サックス界をより盛り上げるためには、あとに続いてくれる後輩たちにかかっているとずっと思っていたんです。そんな中、ユッコちゃんが現れてくれたことはサックス界にとって大きな出来事だと思うんですよ。本当に心強い存在だなって。

左からユッコ・ミラー、小林香織。

左からユッコ・ミラー、小林香織。

サックスプレイヤーの個性

──同じ楽器のプレイヤーとはいえ、音楽性や演奏スタイルはかなり違いますよね。そのあたりはどのように感じていましたか?

ユッコ 香織さんの楽曲はとにかく心地いいですね。今日もここに来るまでずっとニューアルバムの「INTERSECTION」を聴かせていただいてきたんですけど、めちゃくちゃさわやかで、すごく気持ちよかったです。

小林 確かにユッコちゃんの音楽性とはかなり違いますよね。今、サックス界には男女問わずいろいろな方がいらっしゃいますけど、みんな当たり前のように自分の個性がちゃんとあって。誰ひとり被らないのがいいなと思います。

──活動を続けていく中で、自分の居場所を探し当てていく感じなんですかね。

ユッコ そこはたぶん自然とそうなってるんじゃないかなって思うんですけど。

小林 そうそう。同じ人生を歩む人がいないのと同じでね。性別や育った環境、あとは生まれた年代によっても自然と音楽性は変わるものだと思う。例えばユッコちゃんが私みたいな音楽を作ろうと思ったとしても、いい意味で絶対同じものにはならないはずだし。そこがその人の個性なのかなと思います。

ユッコ・ミラー

ユッコ・ミラー

──ユッコさんは今年でメジャーデビュー8周年。一方の小林さんは来年で20周年を迎えます。そのキャリアの中で何か変化したことはありますか?

ユッコ 私は……特に何も変わってないです(笑)。そのときそのときを一生懸命やってたら、いつの間にか8年経っちゃっていたみたいな感じで。

──では逆に、ずっと揺らがずに持ち続けているものは?

ユッコ すごく大きな野望としてグラミー賞を獲りたいという夢はあるんですけど、基本的には1年後にこうしていたい、10年後にはこうなっていたいみたいなものはないんですよ。明日死ぬかもしれないから、とにかく今日が楽しければいいやみたいな感じで生きてきたというか。その感覚はずっと変わってないですね。サックスが好きとか、サックスを使った音楽をもっと広めていきたいという気持ちがあって、それが活動における大きな軸になっているのもずっと変わらないところです。

小林 私の場合、大学を卒業してすぐにデビューしたんですよ。大学生から社会人になるときって、普通の人でも大きく変化があるものじゃないですか。だから私もいろんな変化はあったと思いますね。しかも、そこから20年経っているわけですから。人間的にも変わっていくのは必然だったというか。

──昔はかなり尖っていたとおっしゃっているのをインタビューで読んだことがあります。

小林 あははは。若い頃はね、いろんな部分で尖ってたと思いますよ(笑)。だからユッコちゃんもすごく尖ってるんじゃないかって想像してたんです。でも、実際はすごく大人っぽくてびっくりしました。

ユッコ え、本当ですか?

小林 うん。ちゃんとしてるなと思って。本当にカッコいい。昔の私のほうが全然チャラかったかもしれない(笑)。もう一方では硬派な部分もあって、頑固でキツかったかな。そのあたりは年齢を重ねるとともにだいぶ丸くなったと思いますけど。

小林香織

小林香織

ユッコ 尖った香織さんって、全然想像できないです(笑)。

小林 そう? なんかね、当時は女性サックス奏者というポジションを守らなきゃいけないという思いがあったんですよ。女性としてチヤホヤしてもらえる部分はあったんだけど、自分としてはバカにされたくないとか、いろんな部分でピリピリしてたところもあって。私がデビューした頃は、女性サックス奏者が活躍できる土壌がまだできていなかったですからね。ちゃんと吹いたところで、正当に評価されなかったりとか。

ユッコ えー! そんなことがあったんですか。

小林 「なんでやねん!」と思うことがたくさんあったんですよ。そんな中で活動してるから、自然と反骨精神が生まれてきちゃったりもして。そんな時期を越えてたどり着いた今、という感じですね。

──そういった反骨精神みたいなものって、ユッコさんも持っていたりします?

ユッコ シーンの中ではそういう思いを持ってらっしゃる方もいるかもしれませんが、私はまったくないんですよね。逆に「女性でよかったー!」みたいな感じでやってます。男性の方に負けたくないという気持ちも全然ないかな。

小林 世の中の流れもあるんでしょうね。性別に関係なく平等に聴いてもらえて、正当に評価してもらえるっていう。それはいい流れだと思います。そのうえで、女性であることも1つの個性として大事にしていきたいですね。同じ恋愛のバラード曲を演奏したとしても、男性とはまた違った視点での表現ができると思うから。

ユッコ 確かにそうですよね。そこは大事にしていきたいと思います。