きゅるぴか~~~!!! ピンク髪のサックスプレイヤー、ユッコ・ミラーって何者?

「芸能人格付けチェック」への演奏者としての参加のみならず、「アウト×デラックス」「激レアさんを連れてきた。」など数多くのテレビ番組に出演し、お茶の間での知名度を上げているサックスプレイヤーのユッコ・ミラー。「ピンク髪の演奏者」として彼女の存在を知った人も多いはずだ。これまでユッコはキャンディ・ダルファー、Glenn Miller Orchestraなど名だたるジャズミュージシャンと共演し、2019年9月発売の3ndアルバム「Kind of Pink」にはJames Brown Bandのアレンジャーとして知られるデヴィッド・マシューズがゲスト参加。ミュージシャンとしてのキャリアを着実に歩んできた。

これまで彼女が発表してきたアルバムはカバー曲がメインだったが、今年10月にリリースしたニューアルバム「Colorful Drops」は、自身作曲によるオリジナル曲を中心にした作品となった。そこで音楽ナタリーではアルバム制作のバックグラウンドをインタビューしつつ、「ただただサックスが好き」という彼女のストイックな姿勢に迫った。

取材・文 / 高橋拓也

リコーダーのテストで先生号泣「味をしめましたね」

(ユッコ・ミラーが本名名義で発表した教則DVD「アドリブ・サックス・パーフェクト・マスター」のパッケージを見て)えっ! よく持ってますね、これ。

──今回の取材のためにチェックしました。このDVDが発売されたのは2012年でしたが、すでにこの頃からユッコさんのビジュアル、キャラクターが確立されていましたね。複雑な音楽理論を黙々と説明していて、すごい内容でした。

わー、懐かしいです(笑)。

──ユッコさんはサックスの演奏を始める前はピアノを習っていたそうですね。

3歳のときからお母さんに勧められてピアノ教室に通っていたんですけど、全然好きになれなくて……。練習が嫌すぎて、グループレッスン中に逃げ出したりしてました(笑)。そのあと学生時代は流行りのJ-POPを同級生と聴いたり、カラオケで歌ったりしていましたけど、特別音楽に興味があるわけではなくて。

ユッコ・ミラー

ユッコ・ミラー

──どんなアーティストがお好きだったんでしょう?

小・中学生の頃はミニモニ。とか浜崎あゆみさんをよく聴いてましたね。モーニング娘。が流行ってました。

──高校生時代に初めてサックスを演奏し、一気に夢中になったと各所でお話されていました。ピアノと違って、すぐに「この楽器は自分に馴染んでいるな」と感じた?

そうですね。友達に誘われてなんとなく吹奏楽部に行ってみたんですけど、サックスの音を出せたときに運命の出会いを感じて。即「めっちゃ極めてうまくなりたい、プロになりたい!」となりました。実は小学校4年生のときにも、音楽の授業でリコーダーを吹いたときに「あれ? 私いける気がする」と感じたんですよ。そのときの感覚と似ていたのかも。リコーダーのテストで「カントリー・ロード」を演奏したら、先生が「感動した」と言いながら泣き出したこともありました(笑)。そのときに味をしめましたね。

──リコーダーで人を泣かせるってすごいですね(笑)。吹奏楽部は同じパートの部員同士で演奏し、誰が一番うまいか評価し合うこともあるかと思いますが、ユッコさんは周りの人からどのようなコメントをもらっていたんでしょうか?

「みんなの中で一番うまい」と言われることが多かったし、先生から褒められることもありましたね。それに私自身「負けたくない」という気持ちもあったので、すごく燃えてました。もう練習の鬼って感じでずっと演奏していて。

──朝練、昼練、部活、放課後の路上ライブ、自宅練習というルーティーンを毎日繰り返していたそうで。かなりストイックですが、部活自体厳しい環境だった?

いや、全然ゆるかったですね。コンクールも顧問の先生が「音楽は競い合うものじゃない」と言って出演しなかったですし、定期演奏会や文化祭、野球の応援くらいしか演奏する機会はなかったです。あんまり練習していない部員もいました。人前でもっと演奏したいと思って、路上ライブを始めたのもその頃です。

ユッコ・ミラー

ユッコ・ミラー

Glenn Miller Orchestraのオファー、学校があったので断っちゃいました

──屋内での練習はともかく、路上ライブまで挑戦するのはかなりの行動力ですよね。

将来は絶対プロになりたいと思っていたんですが、そのためにはどうすればいいか、まだよくわからなくて。日々考えているうちに、「人前で演奏すればいいんだ」と思い付いたんですね。でもライブハウスにはどうやって出演すればいいかわからないし、学校外のコネクションもなかったので、とりあえず路上でライブをやってみたんです。

──どんな場所で演奏していたんですか?

基本的に人が少ない田舎だったので、駅前とかで黙々と吹いてました。たまに立ち止まって聴いてくれる人がいて、工事現場のお兄さんが「ジュースでも買いなよ」と言ってお金をくれたこともあって。そのときもらったお金、今でも持っていますよ。あとはタクシーの運転手さんがコンビニで買ってきたお菓子を譲ってくれたり。

──皆さん優しかったんですね。高校時代にはGlenn Miller Orchestraなど、有名なジャズミュージシャンのコンサートにも足を運んでいたそうで。

Glenn Miller Orchestraのときは、コンサートが終わって、オーケストラのメンバーがバスで移動する直前にサックスを持って声をかけたんです。そこで演奏できる曲をとにかく披露し続けたら盛り上がってくれて、「明日から僕たちのツアーに付いてこないか」と誘われてびっくりしました。もちろん冗談で言ってくれたんだと思うんですけど、次の日学校があったんで断っちゃって。

──自分からアピールしたのに(笑)。

でも、その出来事がきっかけで2016、17年の来日公演ではゲスト出演させていただいて。あのとき演奏しておいてよかったですね。

──キャンディ・ダルファーさんの来日公演へのゲスト出演も……。

お客さんとして観に行って、サイン会でサックスを演奏しました(笑)。普通にCDを片手に、サイン会の列に並んでいたんですよ。そこでもサックスを持っていったら、「あなたもサックス吹きなのね。ちょっと吹いてよ」と声をかけてくれて。いっぱい演奏したら「明日のライブにゲストで来てほしい」と誘ってくれて、その場で出演が決まったんです。

ビジュアルでも楽しませたいと思ったら、こんな見た目になってた

──そして高校卒業後、ユッコさんは本格的にプロのサックスプレイヤーを目指します。そこから「ミラクル星から来た5歳」というキャラクターを確立させますが、ビジュアル面を意識し始めたきっかけは?

地元で開催されているジャズのライブイベントを観に行くと、いわゆるスーツのような正装ではなく、ラフな服装で素晴らしい演奏をする人がいたんです。何回かそういう場面に出くわすうち、「ビジュアルでも楽しませる演奏家になりたい」と考えるようになったんですね。演奏力はもちろん大事だけど、ライブが終わったあとに「楽しかった」「また観たいな」と思われたくて。そうこう考えているうち、気付いたらこんな見た目になってました(笑)。

──周りの反応はどうでしたか? 特にジャズシーンで交流のあった人たちの反応が気になるところですが。

お客さんは名前を覚えていなくても「ピンク髪のサックスの人」と認識してくれるようになりました。でもちょっと奇抜すぎたのか、ジャズシーンの友人には何も言われなかったです(笑)。もちろん「ジャズプレイヤーはそんな軽い雰囲気じゃダメでしょ」という意見もありましたけど、そこはあまり気にしないようにしました。

もっとYouTuberみたいなことがやりたいのに……

──ユッコさんはテレビ番組への出演も多く、音楽番組以外にも最近では「芸能人格付けチェック」に演奏メンバーとして参加しています。メジャーデビュー前には「SASUKE」や「大食い王決定戦」など、サックスと関係ない番組に出演されていましたよね。

その頃はどうやったらもっと認知してもらえるか悩んでいました。どれだけライブをやっても、ジャズサックスだとごく限られた、音楽に深く興味がある人にしかアピールできなくて。ジャズにあまり触れていない、一般の方にも知ってもらいたいと考えていたとき、「SASUKE」の出場者募集を見かけたんですね。試しに応募したら受かっちゃって。

──出演時の映像もチェックしたのですが、競技開始前にものすごい勢いで演奏して、開始と同時に楽器を置いて、普通に挑戦していましたね(笑)。ただ「SASUKE」「大食い王」への参加が「アウト×デラックス」出演につながり、結果的にユッコさんの名を広めることになりました。

ファンの方には「『SASUKE』で指を怪我したらどうするの!?」とか「もっと真面目にやりなさい」とか言われちゃいましたけどね(笑)。でも実は「アウト×デラックス」に出演したことがメジャーデビューのきっかけになっているから、今思えばあのときいろんなことに挑戦してみて本当によかったです。どの番組でも「変わってるけどちゃんと演奏できる人」として紹介してくれたこともありがたかったし。

アルバム「Colorful Drops」レコーディング中の様子。

アルバム「Colorful Drops」レコーディング中の様子。

──2018年からはYouTuberとしての活動も始めましたが、最初に投稿されたのがペヤングとストロングゼロを混ぜる動画で。こちらもサックスとは関係ないところからスタートしています。

ホントはHIKAKINさんとか、はじめしゃちょーさんみたいなことを趣味でやりたかったんですよ! でも再生数が全然伸びなくて、しょうがないから1本だけサックスの演奏動画を公開したら、めっちゃ観てもらえたんです。

──吹奏楽の課題曲としても有名なT-SQUARE「宝島」のカバーですね。以降サックスで有名曲をカバーする動画を続々投稿するようになり、中でも「名探偵コナン」のメインテーマを演奏した動画は1000万回を超える再生数を記録しました。結果的にサックスがらみの投稿がメインになりましたね。

もっとYouTuberみたいなことがやりたいのに……。

──まだあきらめてない(笑)。ほかにはJames Brown Bandのアレンジャーとして知られるデヴィッド・マシューズさんや、ユッコさんの師匠でもある川嶋哲郎さんといった方々がゲスト出演した動画もあります。川嶋さんには別動画でユッコさんが作った、音が鳴るように改造したじょうろを吹かせていて、怒られないか心配になりましたが……。

大丈夫ですよ(笑)。快く引き受けてくれました。

──ユッコさんの一連の活動はどれもジャズシーン以外への間口を広げるきっかけとなりましたが、例えばキャラクターが注目されすぎてしまい、肝心の音楽活動になかなかスポットが当たらない……という事態に陥ってしまう可能性もあったかと思います。その点に関して、気を付けたことはありますか?

それが全然ないんですよ。もうやりたいことをやっているって感じです。

──ユッコさんのさまざまな活動を見てみると、ユッコさんはサックスプレイヤーとして有名になることよりも、サックスの魅力を伝えたいという思いが強いのかなと感じます。

そうですね。サックスで表現することがとにかく楽しいし、どの活動の根底にも「魅力を伝えたい」という思いがありますね。

──楽曲では、どのようにサックスの魅力を伝えたいと考えていますか?

具体的な音楽性を挙げるなら、私が赤ちゃんの頃やお母さんのお腹の中にいるとき、英才教育として「シェルブールの雨傘」や「ゴッドファーザー 愛のテーマ」などの映画音楽をよく聴かせてもらって。そういう哀愁のあるメロディが好きだし、そのムードをサックスで表現することをずっと追求していますね。