音楽ナタリー Power Push - 吉澤嘉代子
恋にまつわる“秘密”を描いた短編集
イケイケな「王道」としてのラブソング
──3月に発売された1stフルアルバム「箒星図鑑」(参照:吉澤嘉代子「箒星図鑑」インタビュー)にはそれまでの流れを総括するような性質もあったので、今作からまた新たな一歩という感じがします。
そうですね。
──昭和歌謡的なテイストや、「ケケケ」(2014年10月発売のメジャー2ndミニアルバム「幻倶楽部」リード曲)のように振り切った曲の印象から、世間からはいわゆる不思議ちゃん的な受け取られ方をするのかなと思っていたのですが、「箒星図鑑」までの評価としては比較的ストレートに優れたシンガーソングライターとして受け入れられているように感じます。ご本人の実感としてはどうですか?
本当にさまざまな受け入れられ方をしているなと思っています。どこで切り取られるかによって扱いが違うんだなって。でも今の女性シンガーソングライターという枠内で見ると、やっぱり色モノ扱いだと思います(笑)。
──ライブでの競演を重ねたりするうちに、同じアーティスト同士で共感し合えている仲間も増えているようですし、すごく楽しそうに活動をされているように見えますが。
楽しいことも苦しいこともあるので(笑)、今はどっちとも言えないです。例えばこうやって話している1時間の間にも気持ちがあっちこっちに変わったりするので、自分に付いていけないというか。1週間のうちに何回泣いてるんだろうというぐらいで。どうすればいいんですかね? ……こんなインタビューの入り方どうなんだろう(笑)。
──いろんな評価を受け止めた上での次の一歩、という実感はご自身としてもありますか?
これまではずっと作り溜めてきた曲の中から、今回はこのテーマ、次はあのテーマという感じで自分のいろんな面が出せるよう選曲してきたんです。自分ではまだその延長にあると思ってるんですけど、今回は6曲中5曲が今年に入ってから書いた曲なので、確かに今までとは少し違うかもしれないです。
──今作は「恋にまつわる“秘密”」がテーマですが、この大衆ポップスの王道とも言える恋の歌、ラブソングをテーマにした作品というのも、自分のいろんな面を見せるバリエーションの1つとして考えていた?
はい。ほかにもやりたいテーマをいくつか持ってるんですけど、少女時代をテーマにした「箒星図鑑」を1枚作ったあとのタイミングとしては、イケイケなものが作りたいという気持ちがあって。そのイケイケというのが「王道」ということだったのかもしれないです。ラブソングにこだわるつもりは最初なかったんですけど、集めてみたらこうなったみたいな。どんなに尖ったメッセージがあってもラブソングという形式に収めるとポップスになる、という効果もあると思うんです。
「綺麗」の狂気的世界と濁点
──ではここから1曲ずつじっくり話を聞いていきたいと思います。まずはリードトラックの「綺麗」から。
まずは「綺麗」というタイトルの曲が書きたいというところから始まっていて。その時点で「次のミニアルバムのリード曲は『綺麗』にしたい」と思ったんです。「綺麗」は文字としての美しさにまず感動して。それで「綺麗ってなんだろう?」って考えたときに、綺麗なものはずっと留めてはおけないものだと思ったので、そこから「永遠と瞬間」をテーマに書いていきました。隣にいる好きな人に自分のことを綺麗だと思ってもらえていたらいいなという歌なんですけど、それは「永遠に一緒に生きてずっと綺麗と思い続けてほしい」ではなくて、「形を留めておけない私の今この瞬間を切り取って、それを一生綺麗だと思ってほしい」というややこしい思いで(笑)。
──なるほど(笑)。
それで、クライマックスに向かって狂気的なものを入れていきたいと思って、このキラキラしてぴかぴかしてくらくらする美しいものに濁点を付けて、ぎらっぎらっ、びかっびかっ、ぐらっぐらっとグロテスクで卑しいものに変わるのを試してみたくて。
──歌詞の意味と一緒に音色としても変化する言葉の選び方が面白いですよね。「きらっきらっ」「ぎらっぎらっ」の対比や、「なかよしグルーヴ」(「箒星図鑑」収録曲)の「チクチクジュクジュク」みたいな。同じく言葉の響きとして気になったのが「きらっきらっ」「ぴかっぴかっ」の歌い回しで、若干モタついた発音がグルーヴを生んでいるように感じるんです。これって意識的にやってるんですか?
ちょっと糸引いてるみたいな。考えてそうしてるわけじゃないんですけど……やっぱりレコーディングのときに「ちゃんとハマってないんだけど」って言われたんですよ(笑)。でも「私はこう歌いたいんです」って。クセなんですよね。しゃべり方もそうかもしれないけど。
──吉澤さんの音楽はそういう音符で正確に表せない歌い回し、節回しの響きも独特なムードを生んでいる一因なのかなと思うんです。それってどこまでが狙いで、どこまでが自然に出てきているものなのかなと。
感覚を研ぎ澄ますのも計算のうちに入ってくるんですかね? うーん、天然なのかもしれない。
──言葉の響きもそうですけど、字面にもこだわりがありますよね。
漢字、ひらがな、カタカナ……表記に興味があって。「綺麗」もひらがなやカタカナだと全然違う曲になっていると思うんですよ。漢字にはすごくロマンチックなものを求めていて、「綺麗」では「貴方」と「私」を漢字にしているんです。普段はひらがなにほぼ統一してるんですけど、この曲では漢字で。「ひゅるリメンバー」とこの曲くらいですかね、漢字なのは。なぜ漢字にロマンチックなものを感じるのかというと、たぶん形でものを表現している名残があるから。形で表してみようとした漢字の成立ちにロマンを感じるんです。
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収録曲
- 綺麗
- ユキカ
- 運命の人
- キスはあせらず
- 必殺サイボーグ
- 真珠
吉澤嘉代子 秘密ツアー ~8都市をめぐる秘密公演~
- 2015年11月27日(金)大阪府 BIGCAT
- 2015年11月28日(土)福岡県 INSA
- 2015年12月4日(金)石川県 Kanazawa AZ
- 2015年12月6日(日)岡山県 IMAGE
- 2015年12月11日(金)北海道 cube garden
- 2015年12月13日(日)宮城県 darwin
- 2015年12月17日(木)東京都 LIQUIDROOM
- 2015年12月20日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
ミニアルバム「秘密公園」発売記念イベント ミニライブ&サイン会
- 2015年10月7日(水)
- 東京都 タワーレコード渋谷店 1F店内イベントスペース
START 19:30 - 2015年10月10日(土)
- 埼玉県 浦和パルコ正面入口前
START 14:00 - 2015年10月11日(日)
- 埼玉県 紀伊國屋書店 さいたま新都心店(コクーンシティ コクーン1 コクーンプラザ)
START 13:00 - 2015年10月11日(日)
- 東京都 タワーレコード池袋店 6Fイベントスペース
START 18:00 - 2015年10月12日(月・祝)
- 北海道 玉光堂パセオ店(パセオイーストB1)
1回目START 14:50(予定)/ 2回目START 17:20(予定)
※近接するアピア「太陽の広場」にて1回目14:00、2回目16:30よりフリーライブが行われます。 - 2015年10月17日(土)
- 愛知県 HMV栄 イベントスペース
START 18:00 - 2015年10月18日(日)
- 京都府 SOLE CAFE
START 14:00
※タワーレコード京都店での購入者特典(先着50名)ライブとなります。 - 2015年10月24日(土)
- 埼玉県 イオンレイクタウンmori「木の広場」
START 14:00 - 2015年10月25日(日)
- 宮城県 タワーレコード仙台パルコ店8Fイベントスペース
START 14:00 - 2015年11月1日(日)
- 東京都 ヴィレッジヴァンガード下北沢店 店内イベントスペース
OPEN 20:30 / START 21:00 - 2015年11月7日(土)
- 熊本県 蔦屋書店熊本三年坂イベントスペース
START 16:00 - 2015年11月8日(日)
- 福岡県 キャナルシティ博多B1サンプラザステージ
START 15:00
吉澤嘉代子(ヨシザワカヨコ)
1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街で育ち、16歳から作詞作曲を始める。2010年11月にヤマハ主催のコンテスト「"The 4th Music Revolution" JAPAN FINAL」に出場し、グランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。2013年6月にインディーズ1stミニアルバム「魔女図鑑」でCDデビューを果たす。同年11月には東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて初のワンマンライブ「吉澤嘉代子 ファーストワンマンショウ ~夢で逢えたってしょうがないでSHOW~」を開催。翌12月より「魔女、旅に出る。」と銘打ったライブハウスツアーで各地を回った。日本クラウン、ヤマハミュージックアーティスト、ヤマハミュージックパブリッシングの3社が合同で設立した新レーベル「e-stretch RECORDS」の第1弾アーティストとして、2014年5月にミニアルバム「変身少女」でメジャーデビューを果たした。2015年3月に1stフルアルバム「箒星図鑑」、10月にメジャー3枚目のミニアルバム「秘密公園」をリリース。11月からはワンマンツアー「吉澤嘉代子 秘密ツアー ~8都市をめぐる秘密公演~」を行う。