吉田山田「焼き魚」インタビュー|「吉田と山田が生きていればこの音楽は消えない」苦境に立たされた2人が切り開く新境地 (2/3)

「焼き魚」はアナログの象徴

──レーベルとの契約満了後に初めてリリースされるのが「焼き魚」という楽曲です。新たなツアーの直前ということもあり、前回のツアーを回りながらちょっとずつ作り上げていった「音楽」のような曲をリリースして、ツアーを想起させるのかと思っていました。

吉田 今、吉田山田は動かなければいけない時期だと思うんですよ。前回のツアーで少しずつ作っていた「音楽」をリリースするのも、ツアーをアピールする意味では間違っていないけど、それだと今までの吉田山田の範疇から逸脱していないかなと思って。「音楽」は僕ららしい曲で、作った僕らも名曲だと思っているけど、今すべきことは“吉田山田が次の感性に向かおうとしている”と伝えることなんですよね。アルバムには僕らの新しい感性がたくさん入っていて、中でもインパクトのある「焼き魚」を先行シングルにするのがいいのかなと思ってこの曲を選びました。

──アルバムに収録予定の楽曲を少し聴かせてもらいましたが、攻めた楽曲が多いですよね。打ち込みの楽曲だったり、ストリングスの音が取り入れられていたり。

吉田 でしょ? 決して守りには入っていない僕らの姿勢が表れていると思います。

吉田結威(G, Vo)

吉田結威(G, Vo)

──「焼き魚」はどのような経緯で生まれた曲なんですか?

山田 「もやし」がTikTokでバズったことを受けて書いた曲ですね。「もやし」がバズってからTikTokをよくチェックするようになって、最初は不思議な文化だと思っていたけど、最近は面白い曲、変な曲をたくさん見つけています。TikTokには今までの固定観念にとらわれていない曲が多くて「こんなことも曲にしちゃうんだ」みたいなものばかり。そこに僕はワクワクするんですよね。TikTokという文化に片足を突っ込んでみることによって、頭の中で曲を考えるときの思考回路が少し変わった気がしています。「焼き魚」はTikTokを知らない僕だったら書けない曲なんじゃないかな。刺激を受けて出てきた、今の僕の純粋な気持ちが表れた曲です。

──「焼き魚」という曲は「僕の味噌汁を毎日作ってください」というプロポーズの言葉を「焼き魚」に置き換えて表現したラブソングですよね。

山田 はい。日本の古風なプロポーズの言葉が将来どうなるんだろう、と考えて。僕がこの曲で書いたのは「宇宙に行くようになっても、きっと宇宙船の中で焼き魚食べているんだろうな」みたいなことです。

──なぜ焼き魚だったんですか? 例えば「生姜焼き」でも「おにぎり」でも、それこそ「味噌汁」でもよかったわけですよね。山田さんが数多の選択肢の中から焼き魚を選んだ理由は?

山田 僕の中では焼き魚ってアナログの象徴なんです。調理するにはグリルが必要だし、食べるのにある程度技術が必要だし、最後に骨が残るし……。こんなに面倒臭い食べ物なのに、僕らは昔からずっと食べ続けている。だから僕は、人間が宇宙に行ったとしても宇宙食やサプリではなくて、結局焼き魚を食べると考えていて。

──なるほど。

山田 「毎朝味噌汁を作ってください」って、手間のかかることを毎日してくれるような間柄になってほしいというプロポーズなので、近い将来人間が宇宙に進出したら「宇宙に行っても焼き魚を焼いてください」というプロポーズに変わるんじゃないか。これは僕がわりと真面目に考えた結果生まれたものなので、面白く聞こえるかもしれないけど、僕の中ではすごくリアルな曲なんです。

──吉田さんはこの曲を最初に聴いたときどう感じましたか?

吉田 第一印象は「よくわからない曲だな」でした(笑)。それと、これは僕にしか気付けないことですが、冒頭の歌詞にハッとしました。「咀嚼音を嫌われて 箸の持ち方正されて お茶碗は左手に ヤダ!ヤダ!ヤダネヤダネ!」って、僕がずっと山田に注意してきたことなんですよ(笑)。山田、めちゃくちゃ根に持ってるじゃん!って。

山田 怒ってるわけじゃないんだよ(笑)。

吉田 うん。僕も注意というより、知識として伝えていただけなんですよね。こういう職業に就いていることもあって、山田は常識的なことを知らないままなことが多くて。やるかやらないかは山田の自由だけど、知らないと誤解されてしまうことがあるから、世の中ではこう言われてるよ、というのを教えていた時期があったんです。山田も大人になったから最近は口うるさく指摘もしていないけど、今になってこういう言葉が曲になって出てくるのに、僕はちょっと心動かされたんですよね。常識という名のしがらみを「ヤダネ!」って歌の中に入れられるようになった山田の素直さ、表現の手法が増えたことに僕はグッときました。

──TikTokに動画を投稿している若い世代も、世の中のしがらみに対して「ヤダネ!」と思っているかもしれないなと感じます。山田さんがTikTokを見て、そこに共感したのかなという気もしました。

吉田 その可能性はありますね。でも山田はそれをおそらく計算ではやっていない。社会のルールとか規範って普遍的なものだけど、それに対するカウンターもまた同じく普遍的なもので。その普遍性をどう表現するかが音楽であり、僕らの職業だと思う。そういう切り口でこの曲はすごく耳に残るんですよ。「確かになんでお辞儀は45度なんだろう」って、メロディと一緒に歌いたくなる。たぶん山田はその感性を「こういう場なら共感してもらえる」みたいな思いで曲にしていて、そこが面白いところなんじゃないかな。

吉田山田「吉田山田デビュー13周年記念ライブ」の様子。(撮影:白石達也)

吉田山田「吉田山田デビュー13周年記念ライブ」の様子。(撮影:白石達也)

たまたまBPMが一緒だったコンロの音

──「焼き魚」の編曲は吉田山田のライブのサポートメンバーでもある幡宮航太さんが担当しています。幡宮さんが編曲でクレジットされるのは今回が初めてですよね?

吉田 レコーディングに参加してもらったことはあるけど、アレンジャーとして参加してもらったのは今回が初めてですね。アルバムの制作に参加してもらったから、厳密に言うと「焼き魚」よりも前にアルバム収録曲の「夜な夜な」をアレンジしてもらいました。というのも、はたっぷ(幡宮の愛称)はピアニストだから生っぽいアレンジが得意なのかなと勝手に思っていたら、「夜な夜な」で打ち込み系のサウンドを素晴らしいクオリティで生み出してくれて。その意外性にすごく刺激をもらったし、長年一緒にライブをやっているから意思の疎通もしやすくて、いろいろオーダーしちゃいました。曲中に入っているコンロの音は、はたっぷの家のコンロの音なんですよ。たまたまBPMが一緒で、曲に馴染んじゃった(笑)。

山田 奇跡的だったよね。

吉田 そういう突拍子もない実験的なことができるのも距離が近いからだと思うんですよ。はたっぷも初めて仕事する人の曲にコンロの音を入れるのは怖いと思うから(笑)。別の曲ではハザード音とか、ドアを閉める音とかを試しに入れてくれて。もちろんすべてを採用するわけではないけど、思い付いたことをいろいろ試してくれるのは僕ら大歓迎だし、ちゃんと精査して「これはちょっと違うかな」という結果になってもお互い傷付かない関係性は築けている。なので今回の制作はすごく楽しかったですね。

山田 「焼き魚」はロックのような要素もあれば、レゲエみたいな要素もあり、ピコピコした打ち込み系の要素もある。これだけいろんな要素を取り入れた面白い曲になったのは、はたっぷのアイデアがあったからですね。

「焼き魚」に“3人目”の声

──1つ気になったことがあって。曲の終盤に子供の声が入ってませんか?

吉田 それ、子供の声じゃないんですよ。吉田山田の3人目のボーカルとしてマネージャーが歌ってます。

──え!? なぜマネージャーさんの声を入れることに?

吉田 「焼き魚」の曲を作り始めたときに、山田が「この曲はキーが高いし難しいから女性に歌ってもらいたい」と言っていて。その気持ち、すごくわかるんですよ。僕もときどき「すごくいい曲ができたけど、僕らが歌う曲じゃないな」と思うことがあるから。「焼き魚」も本当は女性に歌ってもらったほうが合うよなと、ぼんやり考えながら制作を進めていたんです。途中でふと思い付いて「本当にこんなお願いされて嫌だと思うけど、試しに『焼き魚』って声を入れてくれない?」と聞いてみたら、なんの迷いもなく「わかりました!」ってレコーディングブースに入って。

山田 待ってました!って感じだったよね。

吉田 うん。でもレコーディングとなると場慣れも必要だから萎縮しちゃうだろうなあと心配してたら、最初からバッチリの「焼き魚!」の声が出てました。

山田 才能の原石を見つけたと思ったね。少し磨かれて輝き出してるくらいだった。

吉田 一応、テンションの違う声ももらって、最後に「自分がキラキラなアイドルだと思って」とディレクションしたら最高の「焼き魚」をいただきました。3テイクぐらいで録り終えたよね。

吉田山田

吉田山田

──「焼き魚」はプロポーズの曲だから、最後には宇宙の果てで子供ができて、その子供の声が……という文脈だと思っていました。深読みでしたね。

山田 なるほど。そういうことにすればよかった。

吉田 まさかマネージャーの声が入ってるとは思わないよね(笑)。