吉田山田|吉田の「変」と山田の「変」

入れて正解だった「しっこ」

僕らはまだ変わっている途中で、本当のことを言えば、全部変わった状態になってから「変身」というアルバムを出したかった。ただ「今変わってる途中なので、しばらく姿を現しません」ってわけにはいかないし、僕はこの変化の過程を皆さんに届けることにも意味があるんじゃないかなと思って、今回「変身」というアルバムを出すことにしたんです。

──収録曲のほとんどが山田さん作曲だったのが印象的でした。

吉田結威(G, Vo)

今回僕が作曲のクレジットとして書かれているのは「HENSHIN」と「守人」の2曲しかないんですけど、吉田山田の楽曲って「作詞」「作曲」「編曲」だけでは表せないぐらい、いろんな構成要素があるんです。なんなら「天然:山田義孝」とか書いてほしいくらいの曲もある(笑)。今作は吉田山田として出すべき曲が山田が作った曲に寄っていただけで、アルバムに入らなかった曲もたくさんあるし、僕ら自身の中ではいいバランスで曲を生み出せていると思います。こんなことを言うのはアレですけど、実は山田が作った「しっこ」だけはアルバムに入れることに反対する意見もあったんですよ。「吉田山田は変身します」って、わりと高い志を掲げておきながら「しっこ」って曲が入っているのはどうなんだって(笑)。

──スタッフさんが言いたいこともわかる気がします。

ある意味「真剣じゃないのかな」って捉えられてしまう可能性があるから。でも僕はこのアルバムを作る一番の目的は“吐き出すこと”だと思っていたので、ここで入れなきゃいけないと思ったんです。この「しっこ」って、山田が3、4年前に作った曲で、ことあるごとに山田がリリースしたがってた曲でもあって。

──そうなんですね。

「しっこ」は「夢の中でおしっこしちゃったよ」ってフレーズを繰り返す、ちょっと変わった曲なんですけど、最初に山田が作ってきたときにわりと笑われてお蔵入りになっちゃった曲なんです。山田はこの曲にある種の魅力を感じているからこそ、何度もリリース候補に挙げてくるんだと思って、今回は僕も「しっこ」を入れようって提案しました。ただ山田には「『しっこ』という曲を人前でやったとき、どういう反応が返ってくるか、ちゃんと受け止めてね」って内心思っていて。その反応が想定通りなのか、全然違うのか、反応を受けて山田はうれしいのか悲しいのか、きっと山田の中に学びがあるはずだから。

──ツアーではすでに「しっこ」が披露されていますよね? どういう反応でしたか?

それがね、ツアー初日の横浜公演で「しっこ」をやったとき、会場が大爆笑になっちゃったんですよ。たまたま「しっこ」を披露する前にMCの延長で即興ソングを披露していて、お客さんを笑わせていたうえに「じゃあ次の曲いきます!」って「しっこ」をやったらものすごい笑い声があふれちゃって。お客さんからしたら「いやいや、いつまでふざけてるの?」って思われてしまったんですよね。

──その反応を受けて、山田さんは?

山田は心底驚いた顔をしてました。山田が「この曲は本気だよ! アルバムに入るからね」って言ったら、お客さんも驚いてて。よくも悪くも山田はちょっと人とずれてるところがあって、ずれてていいんだけど「あ、俺はこれくらい人とずれてるんだ」ってことはわかってたほうがいい。「しっこ」をアルバムに入れて、ライブで披露しないとその感覚って味わえないし、その経験がアーティストとして成長する糧になるから僕は「しっこ」を入れて正解だったと思ってますね。

シンプルに「がんばれよ」

──吉田さん自身の変化の先にあるビジョン、理想とする姿のようなものはありますか?

吉田結威(G, Vo)

せっかくのソロインタビューなので、相方がいたらあんまり言えないことにしようかな。僕は大学で心理学を勉強していたこともあって、ちょっとカウンセリング的な目線で人のことを見ることがあるんですけど、山田を見てると心にぽっかり穴が空いているような気がする。山田は小さい頃にお父さんを亡くしていて、その分お母さんの愛情を多分に受け取って受けて育てられたとは思うんですけど、でも父親がいなかったことで埋まらなかった部分があると思うんです。僕らは同い年ですから、僕が彼のお父さんになることは無理なんですけど、ちょっとだけなら心の穴を埋めてあげられないかなって。それは音楽よりも大きな命題だと感じていて、山田個人のために僕がしてあげられることは何か、それを考えることがあるんです。相方として、山田の心まで支えられる自分であることが、自分の理想ですね。そうすることで結局吉田山田もうまくいくと思ってるんです。

──最後に山田さんにひと言送るなら、なんて声をかけますか?

「がんばれ」です。

──シンプルですね。

はい。シンプルに「がんばれ」って言える関係って、実はすごく珍しいと思うんです。僕らはデビューの頃から“応援歌を歌うユニット”って言われることが多くて、いかに「がんばれ」って言葉を使わずに人を応援するかってことを考えてきたんです。単に「がんばれ」って言うと「いや、もうがんばってるよ」とか「何をもってがんばってることになるんだ」って、思われてしまうことがある。だけど山田にだったらシンプルに「がんばれよ」って声をかけて、誤解なく受け入れてもらえるし、言葉以上のことが伝わると思っています。ちゃんとつながっていないと言えない言葉だからこそ、僕は「がんばれよ」って声をかけたいですね。