yonawo|メンバー個々のこだわりを作品に バンドの今を詰め込んだ1stアルバム

メンバーのこだわりが反映されたアルバム

──今作のリリックには“幻”という言葉が頻出していて、これもまたキーワードかなと思いました。

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荒谷 “幻”という言葉をよく使っていたのはけっこう昔のことで、最近の曲はそうでもないんですよ。今回のアルバムだと「天神」のサビに“幻”という言葉が出てきますけど、あれは高校生の頃に書いた曲なんです。当時はそういうものに思いを馳せてたのかもしれないですね(笑)。

──その「天神」や「202」など、今作には皆さんの活動拠点である福岡に実在する場所がモチーフとなった曲がいくつか収録されていて、現実とフィクションが交差するような印象も受けました。

荒谷 まさにその現実と異世界の境目を狙って歌詞を書いてるところがあって。そう考えると、“幻”がよく出てくるのもそこにつながってくるのかもしません。

田中 そういえば「天神」のアレンジを考えてるときに「幻という歌詞が出てくるところはちょっと浮遊感を出したいね」みたいな話をしてたよね? 実際、今回はみんなそういうことを意識しながら作っていたと思う。

斉藤 歌詞に寄り添うようなアレンジにしようってことはよく話してたよね。ふわふわと景色が変化していく感じを演奏で表現したかったというか。

田中 個人的には「バンドの音で景色を見せたい」という気持ちが最近すごく強くなっていて。その影響もあって、自分でインストを作ってみたり、1つひとつの音色によりこだわるようになったんです。

荒谷 確かに今回の慧のベースはすごく挑戦的というか、振り幅が大きくなったよね。単純に引き出しが増えたのを感じたし、歌詞を引き立てるようなアイデアをたくさん出してもらえたなって。そういうメンバー個々のこだわりが今作にはすごく反映されてると思います。

──「ムタ」のボサノバ調のギターも印象的だったのですが、この“ムタ”とは何を意味しているのですか?

荒谷 家の近所にいる野良猫をムタと呼んでいて、「ムタ」はその猫の歌なんです(笑)。軽やかな野良猫の生活に思いを馳せていたら、ああいうギターのフレーズを思い付いたんですけど、自分で弾くのはけっこう難しくて、レコーディングでは雄哉に弾き直してもらいました。

──今作にはほかにもエキゾチックなフレーズが節々に登場しますよね。「生き別れ」のイントロはなんの楽器で演奏しているのですか?

荒谷 あれはシタールです。当初はシンセであのフレーズを弾いていたんですけど、その音がなんとなくシタールっぽいなと思って。そしたらちょうどスタジオにシタールがあったので、これもまた雄哉に弾き直してもらおうと。

yonawo

そのときの気分や雰囲気をちゃんと残しておきたい

──なるほど。yonawoにはネオソウルという枕詞が付いているけど、今作にはむしろ皆さんのロックバンド的な側面が色濃く現れてるように感じました。

荒谷 正直そこ(ネオソウル)は一度忘れてもらったほうがいいかもしれないです(笑)。

斉藤 今回ミックスしてくれた人も、「これはRadioheadの音源だと思ってミックスする」と言っていました(笑)。なので、実際に今作はかなりロック寄りじゃないかな。

──「rendez-vous」のドラムとベースとか、めちゃくちゃ歪んでますもんね。

斉藤 「rendez-vous」は荒ちゃんが用意したデモの段階だと、わりときれい目な曲だったんですよ。でも、もっと悪い感じを出したくなったというか。

荒谷 そこから思いつきでパワーコードでガツンと弾いてみたら「これだ!」みたいな。

斉藤雄哉(G)

斉藤 そうそう。で、さらにシンセベースとボーカルも歪ませていくうちにどんどんエスカレートしていって(笑)。

──なるほど。今作からは皆さんのやんちゃさが節々から感じ取れるというか。

斉藤 ははは(笑)。確かにその通りかも。このアルバムってわりと雑……といったらあれですけど(笑)。実はどのテイクも1、2回しか弾いてないんですよ。

──ああ、そこは重要なポイントかもしれないですね。要は楽曲に込めた熱量が冷めないうちに録ってしまいたかったのかなと。

斉藤 まさにその通りです。なんというか、そのときの気分や雰囲気をちゃんと残しておきたいんですよね。あまりきれいに作りすぎてもよくないというか、むしろそういうところに人間味が表れるんじゃないかなって。

荒谷 実際、そういう演奏のほうが聴いていて心地よかったりするもんね。

斉藤 そうなんだよね。しかも、そういう雰囲気って何度も録り直していくうちに失われていくものだったりするから、結局は最初の気分で弾いたものが一番いいんじゃないかなって。