ナタリー PowerPush - やなぎなぎ
裏と表の気持ちをつなぐ 1stアルバム「エウアル」完成
「本当」と「嘘」と「裏」と「表」
──その1曲目が「本当」でラストナンバーが「嘘」って並びもいいですよね。いい意味で人を食ってて(笑)。
ふふふふ(笑)。でも「嘘」も「失うことは悲しいことじゃない」なんてウソだよって曲ですから。
──単なるウソつきの歌でも、人を傷つけるウソをつく歌でもないですよね。
「本当」と「嘘」もそうだし、この前のインタビューのときに書いていただいた「ほかの人の曲を歌う気持ちよさ」と「自分で曲を作って歌う気持ちよさ」の話もそうなんですけど、自分の中には2つの違う自分っていうのがけっこういて。自分の中には、本当のことを素直に言える自分もいれば、強がったりウソをついちゃったりする自分もいるし、ほかの人の曲を歌うことが好きな自分もいれば、自分で曲を書くことが好きな自分もいるし。でもそれは別人格じゃなくて両方あって1つの自分が形作られているんですよね。
──その「背反する私」を音や言葉にすることってやなぎさんのテーマの1つですよね。今作にも収録されているシングル曲「Ambivalentidea」のタイトルなんて、モロにアンビバレントに由来しているわけですし。
そうですね。もともと人の気持ちや心理にはすごく興味があったんですけど、いろんなシングルを出していく中で改めて自分について考えてみたら、矛盾していたり、正反対の2つの気持ちを持っていたりして。これってけっこう奥深いし面白いな、と思っていたので。
──だからアルバムタイトルは「エウアル」。「裏表」(うらうえ、uraue)をさらにもう1回ひっくり返してみた、と。
はい。これまでシングルで扱ってきたテーマを集約させたアルバムにしてみようということで。
やなぎなぎ、「かわいくない」と言われる
──既発のシングル曲の作家を除けば、今作には宮川さん、小瀬村さん、それから「ストレンジアトラクター」の作曲家の林奈津美さんと編曲家の古川貴浩さんという4人のクリエイターが参加しています。なぜこのような陣容に?
宮川さんに声をかけさせていただいたのは、アニメの「まおゆう魔王勇者」のオープニング(YOHKO「向かい風」)がすごい好きだったからですね。しかもラヴ・タンバリンズとかCymbalsとか安藤裕子さんとか、過去の宮川さんの曲をさかのぼって聴いたらさらにおしゃれなものが多かったので「宮川さんの曲がこのアルバムの中に入ってたらアクセントになるだろうな」って考えていて。宮川さんが書いた南波志帆さんの曲を挙げて「こういう曲が好きなんです」「キャッチーなんだけど、押しすぎず、おしゃれに聴ける曲を」ってお願いをしてみました。で、今回宮川さんと小瀬村さんはレコーディングにも参加してくださってるんですけど、宮川さんはすごく不思議な感じというか……。
──「不思議」?
パキッとハッキリした音を作るのに、普段のご本人はひと言ひと言すごくじっくり考えて、柔らかい感じで言葉を出される方で。でもディレクションは作る音と一緒で、本当に的確だしハッキリなさってる。「その歌い方はちょっとかわいくないな」とか(笑)。
──やなぎさん、かわいくなかったですか(笑)。
残念ながら(笑)。でも「さっきのほうがかわいかったね」とか、ゆっくりとした口調で、でもズバッと言ってくださるので信じられるんですよね。「じゃあ、もうちょっとかわいくがんばってみます」って素直に言えるというか(笑)。で、林さんは以前曲を聴かせていただいたことがあったんですけど、素晴らしくて。すごく気に入っていたので「いつかこの曲を歌おう」って思ってたんです。
──それ以来温存していた楽曲が「ストレンジアトラクター」?
はい。「ほかの方の作った曲を歌う気持ちよさ」と「自分の曲を歌う気持ちよさ」の話で言うなら「ストレンジアトラクター」は、ほかの方の曲を歌う気持ちよさを追求できる曲だったので、絶対に歌いたかったんです。
──だから戸松遥さんの「Q&Aリサイタル!」なんかも手がけた、女の子が歌うギターロックを得意とする古川さんにアレンジをお願いしてみた、と。
ですね。私にはきっと作れないんだけど歌えば絶対に楽しい曲にしたかったので。
「この人は芸術家だ!」
──そして「トランスルーセント」の小瀬村さんなんですけど、この人選は100%やなぎさんの趣味ですよね?
ただのファンですから(笑)。最初に小瀬村さんを知ったのはたぶん4年くらい前。ヴィレッジヴァンガードでなんとなくCDを手に取ってみただけといえばだけだったんですけど、そのあと自分が好きで聴いていたいろんなアーティストさんのCDにリミックスとかで参加なさっていたことに気付いたんですよ。CD棚が「これも小瀬村さん、あれも小瀬村さん」みたいな感じになっていたので、いつかぜひご一緒したいなと思っていて。
──その憧れのクリエイターさんはどんな方でした?
すごく普通の言い方で恥ずかしいんですけど(笑)、ホントにアーティスティックな方でした。レコーディングのときブース越しにピアノを弾いている姿を見たんですけど、その姿勢がすでに「この人は芸術家だ!」って感じですごくしなやかで。あと事務所にもお邪魔したんですけど、お仕事用のスペースにトイピアノがドーンって置かれてたりして「けっこう、近しいものを感じるかも」って勝手にシンパシーを抱いてました(笑)。
──今回でナタリーの取材は6回目になりますけど、こんなにテンションの高いやなぎさんを見るのは初めてです(笑)。
すみません(笑)。今回書いていただいた曲も、最初のラフ段階からめちゃめちゃ美しかったし「私、この曲を歌えるんだ」って感じでホントにうれしくて。でもそれはほかの作曲家さんだったりアレンジャーさんだったりにしても同じで。今回のアルバムはけっこう自由度高く作らせていただいたというか「この人どうですか?」って勧められた人じゃなくて、自分が書いていただきたいと思った人にしかお願いしてないんですよね。そうやって自分が「好きだな」って思った人が書いた「好きだな」って思える曲しか詰め込んでないのも、ちゃんと統一感のある構成になった理由なんだと思います。
- ニューアルバム「エウアル」 / 2013年7月3日発売 / ジェネオン・ユニバーサル
- 初回限定盤 [CD2枚組+Blu-ray] 4410円 GNCA-1376
- 初回限定盤 [CD2枚組+DVD] 4200円 / GNCA-1377
- 通常盤 [CD] 3150円 / GNCA-1378
CD収録曲
- 本当
- ユキトキ
- 青のパレード
- concent
- helvetica
- Ambivalentidea
- euaru
- Zoetrope
- ラテラリティ
- ストレンジアトラクター
- クオリア
- トランスルーセント
- ビードロ模様
- 嘘
初回限定盤ボーナスCD収録内容
- Agape(メロキュア)
- 1/2(川本真琴)
- 恋愛サーキュレーション(千石撫子[花澤香菜])
- light prayer(School Food Punishment)
- アンインストール(石川智晶)
- Swallowtail Butterfly ~あいのうた~(YEN TOWN BAND)
- カゼノトオリミチ(堀下さゆり)
※カッコ内はオリジナルアーティスト
初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
- これまでのシングル表題曲の為に制作したグラフィックによるプロモーション映像
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンCDシングル週間ランキング11位にランクインした。以来、アニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」、「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のエンディング曲「ラテラリティ」、「AMNESIA」のオープニングテーマ「Zoetrope」、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のオープニングテーマ「ユキトキ」を立て続けに発表。そして2013年7月、1stアルバム「エウアル」をリリースする。