音楽ナタリー Power Push - 成瀬英樹×山崎あおい
「Yamaha Music Audition」特集 Vol. 3
作曲にまつわる喜怒哀楽
昨年8月より実施されているヤマハミュージックパブリッシング主催のオーディション「Yamaha Music Audition」。音楽ナタリーではこのオーディションを盛り上げるべく連載型の特集を展開している。
3回目は「Yamaha Music Audition」の新企画「“誰でもできちゃう”作曲コンテスト」を特集。このオーディションは作曲経験のない応募者用の「誰でもコース」と、音楽クリエイター向けの「達人コース」の2つが用意されており、グランプリ受賞楽曲をシンガーソングライターの山崎あおいが歌唱することが決定している。今回は審査員ならびにグランプリ受賞楽曲のプロデュースを担当する成瀬英樹と山崎にインタビューを実施。作曲のだいご味やオーディションで審査員の目に止まるポイントなどを存分に語ってもらった。
取材・文 / 大橋千夏 撮影 / 小坂茂雄
“誰でもできちゃう”作曲コンテスト
受付期間 2016年12月28日~2017年3月7日
誰でもコース
- テーマ「春の○○」
- 作曲経験がなく、楽器の演奏ができない応募者も参加可能なオーディション。スマートフォンの無料アプリを利用して、用意された課題曲にメロディを付けるだけで手軽に応募することができる。
達人コース
- テーマ「初夏の○○」
- 山崎あおいが歌唱することを想定した上で、テーマに沿った楽曲を募集。楽曲および歌詞は未発表のものに限る。
自分だけの作曲ルール
──今回のオーディションってとても特殊なスタイルですよね。これまで作曲をしたことがないという人でも、あらかじめ用意された課題曲にメロディを付けるだけで応募が可能という、まさに“誰でもできちゃう”形式です。山崎さんはグランプリ受賞楽曲を歌唱することが決まったとき、どんな気持ちでしたか?
山崎あおい 私は普段自分で作詞も作曲もしてしまうので、誰かの曲を歌ったことがあまりなくて。だから単純に楽しみだなと思いました。
──山崎さんはご自身もオーディションがきっかけでデビューされているんですよね。当時のお話も後ほど聞かせていただきたいのですが、まずは「“誰でもできちゃう”作曲コンテスト」のお話を。今回のオーディションは小説「作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~」とコラボしており、「作曲少女賞」といった特別賞も用意されています。推奨図書として同書が紹介されていますが、お二人はこの本をお読みになりましたか?
成瀬英樹 ええ、読ませていただきました。
山崎 私も読みました。
──音楽知識ゼロの女子高生・いろはが、同級生でプロの作曲家・珠美の指導のもと曲を完成させていくストーリーがつづられていますが、本を読んだ感想はいかがでしたか?
成瀬 「こういう心持ちで曲を作るんだよ」といった精神的なことを教えてくれるので、非常に共感しましたね。あおいちゃんもわかると思うんだけど、作曲ってほとんどが失敗の作業だったりするんです。それにめげずにいいメンタルを保って、納得できるものが出てくるまでひたすら自分の中を掘っていくことが大切だと思うので。
山崎 私は普段から作曲入門書的な本を読むのが好きなんですけど、それとはまったく別の方向から書いてあることもあって。作曲したことない人が読んでももちろん勉強になると思うんですけど、作曲家にとっても読み物として面白いんじゃないかなと思いました。各章の終わりに出てくる4コママンガとか、「あるある」だなあって(笑)。
──確かにスキルよりも、いかに作曲と向き合うかというマインドに関する話が中心ですよね。「作業場は好きなもので埋め尽くす」とか。
成瀬 それはありますね。僕の場合は好きな野球選手のサインボールと絵馬が置いてあったり、ノラ・ジョーンズのポスターが貼ってあったり。なるべく気持ちのいい状況で作曲できるようにしてます。
山崎 私の作業机も好きな映画のポスターを飾ってあったり、ごちゃごちゃしてます(笑)。ミラーボールとかもあったりするんですよ。
──やっぱり皆さん、自分のモチベーションを維持するために工夫されているんですね。ほかにも自分だけのルールみたいなものってあるんですか?
成瀬 コンペに応募するときなんかは、周りの作家たちも必ずいい曲書くのはわかっているんですよ。自分の曲が採用されるかされないか、最後のワンタッチは運だったりする。だからなるべく、その期間はじゃんけんとかもしない。余計な運を使わないんです。
山崎 あはは(笑)。なるほど、運を引き寄せるんですね。
成瀬 いや、そういうところから変わってくるんだって(笑)。ゴミはちゃんと分けるとかね。あとは常にごきげんでいようとは思っていて。僕の場合曲が書けなくなるってことはないんですけど、自分のメロディがいいと思えなくなることはしょっちゅうあって。でも、あとでいい気分のときに聴くと「すごくいいじゃん!」ってなったりする。だからなるべくいい精神状態でいたいなとは思っているし、常に心がけていますね。「あいつまたいい曲書きやがって」とか、すぐなっちゃうから(笑)。
山崎 私はシンガーソングライターなので、曲にしたいネタが見つからないと何も生まれないんです。だから常に曲の題材はないかなって考えています。「海の曲が書きたい」と思ったらすぐに実際に海に行く、とか。実際に足を運んでいろいろな経験をするっていうことは大事にしています。
──自分の中のストックを増やすために、常にネタ探しをしていると。
山崎 そうですね。友達から恋愛相談を受けていても、内心「どんな曲にしよう」って考えちゃうときもあります(笑)。
受験勉強のふりをしながら
──そもそもお二人が作曲を始めるきっかけはなんだったんでしょう。
成瀬 僕は中1のときにギターを始めて、The Beatlesとかを見て「若者が曲を書いている」ってことに感銘を受けたんですよね。それで「俺にも書けるんじゃないかな」って勘違いして(笑)、コードを3つくらい覚えたらすぐに曲を書き始めました。今思えばその図々しさがよかったのかな。
──どんな曲を書いてたんですか?
成瀬 ひどい歌でしたよ。最初は、友達が書いた「中学生はなぜタバコを吸ってはいけないのか」って歌詞をもとに作曲しました(笑)。ギターのテクニックとかには全然興味がなくて、とにかく曲を書くことに夢中で。日記みたいな感覚でしたね。The Beatlesはもちろん日本なら大滝詠一さんや佐野元春さんを見本に、見よう見まねでやっていました。
山崎 私もギターを始めたのは中1のときです。当時好きだったのがYUIさんとかスピッツとか、みんな自分で曲を作るアーティストで。思春期だったこともあって詞はたくさん書き溜めていたので、そこから曲を作り始めました。でも恥ずかしくて、親にはギターを弾いてることすら内緒にしていて……。
成瀬 えー!?
山崎 ずっと隠してましたね。受験勉強をしてるふりしながら、こっそり作ってました(笑)。
──実際に曲を作るようになってからは、どのように作曲スキルを身に付けていかれたんですか?
成瀬 僕は完全に独学で音楽教育はまったく受けていないので、えらい時間がかかりました。その頃よく聴いていたのがパンクロックで、すごくシンプルなコードでもいろいろなメッセージが乗るんだなって思ったんですよね。それで別に音楽教育とかは必要なくて、たくさん音楽を聴いて自分の中に基準を設ければ曲は書けるかもしれないって勘違いしたんです(笑)。でも作曲って、コツコツやれば誰でもできるものだと思いますね。
──それはこれから作曲に挑戦しようと思っている人には勇気付けられる言葉かもしれません。
成瀬 今でも日々つまずきながらやっていますけどね。作曲って毎回つまずかない?
山崎 そうですね。私も独学なんですけど、とにかくいろんな曲を聴くことで、なんとなく曲の構成がわかっていった部分はありますね。あとは高校生になってからバンドを始めたんですけど、メンバーにカッコいい音楽とかコードを教えてもらったりして。そういった積み重ねが少しずつ自分の中に蓄積されていった気がします。
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- 「Yamaha Music Audition」
- ヤマハミュージックパブリッシングが主催する多角型音楽オーディション。北海道在住者を対象とした「AREA CIRCUIT AUDITION in 北海道」といった地域を限定したオーディションや、歌モノのオリジナル楽曲を制作するソングライターを探す「The Songwriter STAR」といったオーディションなど、さまざまな切り口の音源募集を随時行っている。
- 「Yamaha Music Audition」特集TOP
山崎あおい(ヤマザキアオイ)
1993年生まれ、北海道出身のシンガーソングライター。高校在学中にYAMAHA主催のコンテスト「The 3rd Music Revolution JAPAN FINAL」に出場し、グランプリと特別審査員賞を受賞。これをきっかけに自作曲が地元札幌を中心に企業CMやTV番組主題歌などに使われるなど注目を集め、2012年8月メジャーデビュー。透明感のあるピュアな歌声と、リアリティをもったセンチメンタルな歌詞が同世代をはじめ、幅広い層の男女に支持を受けている。
成瀬英樹(ナルセヒデキ)
1992年にバンドFOUR TRIPSを結成。ボーカル&ギターとして関西を拠点に積極的なライブ活動を行う。1997年にTBS系ドラマ「友達の恋人」の主題歌「WONDER」でメジャーデビュー。10万枚を超えるヒットとなる。その後アルバム1枚とシングル5枚を発表しバンドは解散。現在は作家としてAKB48「君はメロディー」「BINGO!」、前田敦子「タイムマシンなんていらない」「君は僕だ」などを手がける傍ら、シンガーソングライターとしてライブ活動も行っている。