緻密なようで感覚的
──アルバムの新曲についても聞かせてください。まず1曲目の「1234」はディスコパンク的なアッパーチューンで、「君のままでいいよ 僕のままでいいの」というフレーズは、先ほど話してくれたアルバムのテーマとつながっていますね。
四方 その歌詞は勝手に口から出てきて、リズムに合いそうな言葉を当てはめただけだったんです。改めて振り返ると「これが今作のテーマだったんだな」と思いました(笑)。
──「1、2、3、4」というカウントを高速でループさせるトラックのアイデアはどこから?
四方 チャーリーXCXの新作アルバム(「Brat」)のパキッとしたダンスパンクっぽいニュアンスがきっかけだった気がします。そこにアフロやロックのテイストを混ぜて。
吉見 この曲に関しては、自分はほぼトラックメイクをしてないんですよ。デモを聴いたときに「ベースは差し替えたいな」と思ったけど、いろいろ手を加えるとこの曲の瞬発力が薄れてしまいそうで、それ以外はあまりイジらないほうがいい気がして。その時点でめちゃくちゃカッコよかったし、フックのパレードみたいな曲なので。
四方 確かにパンキッシュな瞬発力は感じるかも。とにかく最初は「カウントしてみようかな」というラフな発想でした。
──四方さんは緻密に考えているようでいて、曲によってはかなり感覚的に作ってるんですね。
吉見 そこが四方のすごいところでもあるんですよ。しっかり考えて作ってると思いきや、即興的で「え、そこはそんな感じでいいんや?」みたいな。
四方 自分ではよくわからないです(笑)。
「Ebi Fry」はふざけすぎちゃう?
──「Ebi Fry」はアフロハウス的なアプローチの楽曲です。
四方 ギターをかなりフィーチャーしてるんですけど、吉見に送ってもらったコード進行がもとになっています。ビートを自分で入れて、歌を乗せて、という流れで作っていきました。
吉見 四方に「何か素材が欲しい」と言われて、5、6パターンくらい送って。その中からアコギのループが採用されたんですけど、普段とは違う面白い作り方でしたね。
四方 僕自身が楽器を弾いて曲を作るタイプではないので、「素材とかサンプルを送ってくれたら、それで作るわ」と相談したんです。肉体感のある曲にしたいというイメージもありました。歌詞に関しては、歌を乗せてるときに「『Ebi Fry』ってフックになるな」と思って(笑)。「Ebi Fry」と言いたいがために、どうやったら歌詞として成り立つかを考えました。
吉見 完成形に至るまでに1年くらいかかってるんですけどね。
四方 リリースタイミングがかなり遅れたんですよ。最初はもうちょっと早く出すつもりだった。
吉見 「Ebi Fry」は発音して気持ちいいから入れてるんだろうなと思ってたら、そのまま歌詞になって、タイトルにもなって。メンバーから「嘘やろ」「これはどうなん?」って意見が出たんですよ。
四方 ダンスミュージックの曲をリリースしていくにあたって、いきなり「Ebi Fry」はふざけすぎちゃう?と言われて。僕としては「そうかな」という感じだったんですけど(笑)。
吉見 意見が対立して、一旦保留することにしたんですよ。でも1年くらい経って、メンバーの感覚が変わってきて「これもいいかも」と見直され、晴れてアルバムに収録することになりました。
四方 ようやく出せました(笑)。
吉見 実は歌詞が深いところもいいなと思ってます。
──そう、ただキャッチーなだけではなくて、歌詞にはしっかり思いが込められていて。「羽らしい羽はついてない でも僕らきっと高く飛べる」というフレーズなど、ストレートで熱い歌詞ですよね。
四方 「Ebi Fry」というモチーフを使うことで、エモいことをまっすぐ歌えそうだなというビジョンは最初からありました。
“なんとなく”ではない文脈に則ったサウンド
──そして「ユーフォリア」はダンスミュージックとギターロックがバランスよく共存した楽曲で、まさにアルバムを象徴するナンバーですね。
四方 ありがとうございます。
吉見 「ユーフォリア」に関しては、しっかりバンド感を出すことを意識していて。特にギターですね。フレンチタッチ(フレンチハウス)やフィルターハウスみたいなサウンドの中にディスコっぽいギターのカッティングを入れようと思い、試行錯誤しながらこのバランスに着地しました。
四方 フレンチハウスやフィルターハウスは、ブラックミュージックのレコードにエフェクトをかけたのが始まりだと言われてるんですよ。その流れをしっかり採用したほうがバンドサウンドにも馴染むんじゃないかなと。それを踏まえたうえでファンクやソウル、ディスコっぽい要素も入れたかったんですけど、それがようやく形になった感じですね。
──ハウスミュージックの成り立ちもきちんと踏襲したかった?
四方 そうですね。歴史の流れや、どういう文脈で生まれた音楽なのかを踏まえて考えるタイプかもしれないです。あとは、機材ひとつでサウンドが変わったり、それまでとは違うニュアンスが加わることにも敏感で。制作中、「ここは909(Rolandのリズムマシン・TR-909)じゃないと気持ち悪い」みたいなことも言ってました。“なんとなくいい感じ”ではなくて、ちゃんと文脈に則ったサウンドにしたい気持ちがあります。
吉見 そういうことはよく言われますね。最終的に四方の監査が入る、チェックしてくれる安心感があります。そこがブレないから、自分も好きなようにやれるんだろうなと思ってます。
四方 さっきも言いましたけど、実際の制作は吉見がやってくれてますから。そのおかげで僕が曲全体を俯瞰できるし、「ここはこうしたい」と修正もできるんです。
「2024」が内包する救い
──アルバムの最後に収められている「2024」は、吉見さんがトラックメイクを担当しています。
吉見 はい。「APART」を作り終えたあとに「今のままじゃ経験値が足りない」と思って、2日に1曲くらいのペースでトラックを作りまくってた時期があったんです。創作意欲がすごくあって、リファレンスになりそうな曲を聴きまくり、浮かんでくるものをどんどん形にして。その時期はすごく覚醒していたし得るものが多くて、それこそ自我を忘れるような感覚があった。「2024」のトラックもその時期に作ったものの1つです。四方が「このトラックいいやん」と言ってくれて、歌を乗せて。
四方 曲のイメージも明確にありました。
吉見 肉体的なハウスミュージックですね。あとは、アルバムの最後に救われる感じがほしいという考えもあった。自分が作ったトラックがアルバムに入ったのもそうだし、「2024」という強いタイトルの曲になったのもよかったです。
──「あるがままを受け入れたい時 音楽、音楽、音楽はある」というラインが素晴らしいですね。
四方 「アルバムの最後の曲にしたい」と吉見に言われていたし、アルバムの結論じゃないけど、しっかり言い切る歌詞がよかった。1曲目の「1234」で歌っている「君のままでいいよ 僕のままでいいの」に対する回答にもなってると思います。自我を忘れることは、ニアリーイコールあるがままの自分を受け入れることでもあるんじゃないかなと。僕自身もそういうことを考えていたし、音楽に救いを求めていたタームでした。
──「2024」というタイトル通り、サウンドや歌詞を含めて、今年を象徴するような楽曲ですね。
四方 そうですね。タイトルはけっこう悩みましたけど、「2024」が浮かんだときに最後のピースがハマった感じがして。アルバム「インドア」の最後に「2019」という曲が入ってますけど、それがまさに2019年の音というか、そのときの自分たちのムードを詰め込んだ楽曲で。「2024」はそれから5年経ち、トレンド的な変化を含めて、YAJICO GIRLの移り変わりを感じられる曲になったのかなと。
──リリース後は、「EUPHORIA」の収録曲がフロアでどう機能するかを検証していくタームですね。
吉見 まさにそうですね。ライブの準備はほぼできていて、ここからさらに精度を高めていきたい。ワンマンライブもあるし、今の自分たちのダンスミュージックを表現して、フロアを上げていきたいです。
四方 デカい場所でもやりたいですね。そこでさらに自分たちの可能性が広がっていくと思うので。
吉見 うん。大きい会場でイカつい音を鳴らしたいです。低音が腹の底にグーンと響いてくる感じ、すごく心地いいじゃないですか。そういうライブを自分たちもやってみたいんですよね。
公演情報
YAJI YAJI SHIYOUZE 2025
- 2025年2月21日(金)大阪府 Shangri-La
- 2025年3月7日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
プロフィール
YAJICO GIRL(ヤジコガール)
四方颯人(Vo)、榎本陸(Mm ※)、吉見和起(G)、武志綜真(B)、古谷駿(Dr)からなる5人組バンド。楽曲制作、アートワーク、ミュージックビデオ制作など、クリエイティブをほぼすべてセルフプロデュースしている。2016年に「未確認フェスティバル2016」「MASH FIGHT! vol.5」でグランプリを受賞。2019年8月にアルバム「インドア」をリリースし、翌2020年より活動拠点を大阪から東京に移す。2024年11月に“ダンスミュージックアルバム”「EUPHORIA」を発表した。
※「ムードメーカー」の意。