YAJICO GIRLインタビュー|紆余曲折の末たどり着いたニューアルバム

YAJICO GIRLのニューアルバム「Indoor Newtown Collective」が3月8日にリリースされた。

「Indoor Newtown Collective」は、YAJICO GIRLが“名刺代わりの1枚”として制作したアルバム。既存曲12曲と新曲6曲が収録され、CD盤にはボーナストラックとして初期の楽曲「いえろう」のリアレンジバージョンが収められる。

音楽ナタリーでは、本作のリリースに合わせてYAJICO GIRLのメンバー全員にインタビュー。高校の軽音楽部で結成されてから約10年間、オリジナルメンバーのまま活動してきた彼らに、YAJICO GIRLの歴史を振り返ってもらった。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 草野庸子

友達とたまたまバンドをやっているだけ

──「Indoor Newtown Collective」は、18曲もの楽曲が収録された大ボリュームの1作になりましたね。YAJICO GIRLの集大成という趣もある作品ですが、どのようにしてこの形に行き着いたのでしょうか?

四方颯人(Vo) 2019年に「インドア」というアルバムを出したときに、僕らはガラッと音楽性を変えているんです。だから「これがYAJICO GIRLです」と言えるような名刺代わりの1枚が欲しくて。アルバムのコンセプトを考えていく中で、「とにかく曲をたくさん入れよう」ということになりました。

──名刺を作ろうと思ったら、おのずとフルアルバムになっていったんですね。タイトルの「Indoor Newtown Collective」という言葉はYAJICO GIRLが長らく掲げてきた標語でもありますが、改めてどういった意味合いの言葉なのでしょうか?

四方 「Indoor Newtown Collective」はYAJICO GIRLの活動スタンスを表すために作った造語です。自分たちっぽい言葉を並べただけなので、特定の意味があるというわけではなくて。ただ、この言葉が醸し出す音像を見つけようとしてきたのが、ここ数年間の活動だったと思っています。

──YAJICO GIRLのサウンドには、皆さんのリアルな日常や生活感、そこから生まれる理想が鮮やかに捉えられている感じがします。そもそも、皆さんは2013年に高校の軽音楽部でバンドを結成して、もう10年ほどの月日を一緒に過ごされていますよね。5人の関係性は結成当初と比べてどう変化しましたか?

吉見和起(G) しゃべっているときの感覚は全然変わらないですね(笑)。もちろん、仕事になったことで音楽に向き合う姿勢は変わったと思いますけど、根幹にあるのは「友達」という関係性ですし。

榎本陸(G) 一緒にいる時間が長すぎて、端から見たら変わっていても、自分たちではわからないよね。

──これだけ作品のリリースも重ねてきた中で、根幹の関係性が崩れないのはすごいことですよね。なぜYAJICO GIRLはそれが可能なのだと思いますか?

四方 周りの人たちがみんな、5人の関係性を大切にしてくれているからというのはあると思います。僕らの場合は、この5人のムードを尊重してもらえて、そのまま育てていけているんです。

YAJICO GIRL

YAJICO GIRL

──皆さんにとって、YAJICO GIRLとはどういう場所なのでしょうか?

吉見 生活の一部ですね。バンドと生活を切り分けている感覚はなくて。高校からの付き合いでバンドをやってきて、そのまま周りの方に助けられて、仕事にもできている。もう切り離せないんですよね。生活に溶け込んでしまっている。

古谷駿(Dr) 僕も同じ感じですね。

榎本 そうだよね。友達とたまたまバンドをやっているだけ。

武志綜真(B) 僕もメンバーをただの友達としか認識できていないです(笑)。「仕事をしている」という感覚はまったくなくて、ただ僕らが音楽で遊んでいるうちに、いろんな人が乗っかってきてくれた。「軽い気持ちでやっている」というと語弊がありますけど、楽しくやれていますね(笑)。

──四方さんはどうですか?

四方 僕の場合、YAJICO GIRLは自分がフラットに戻れる場所だなとも思います。4人がいつもと変わらない感じでいてくれるので、「しんどいな、疲れてるな」と思ったときにこの5人で集まると、フラットな状態に戻れます。

──皆さんがこの空気感を保つために努力していることなどはありますか?

吉見 人としての気配りとかはもちろんあるけど、「この友情を守るために!」みたいな感じはないかな(笑)。

四方 努力しているわけではないけど、「シリアスになりすぎないようにしたい」とは思っているかもしれないです。そこは、自然とそうなっているのかな。

武志 四方の言葉選びには、「友達としての関係性を崩さないように」という意識があるのかなと思っていたけどね。仕事上必要な、ちょっと言いにくいことでも、言葉を選んで言ってくれるから。それで保てている部分はあるのかもしれない。

──改めて、なぜこの5人でバンドを組んだのでしょうか?

吉見 たまたまです。僕らがいた高校の軽音部がちょっと特殊だったんですよね。軽音部っていろんな人とバンドを組んで、いろんな音楽をやっていくのが普通だと思うんですけど、僕らがいた部活は、3年間同じメンバーでやる決まりになっていて。最初にバンド決めをするときに各々好きな音楽を言っていくんですけど、この5人はそれが偶然合って、たまたまパートの希望もバラバラだったから組んだっていう。

四方 好きな音楽も、ざっくりだけどね。アニソンが好きな人とかもいっぱいいる部活だったから、「なんとなく、邦ロックっぽいものを知っている」くらいの一致というか。もしあのときバンドを組んでいなかったら、そんなに仲よくなってはいない5人だよね?(笑)

吉見 それはある(笑)。

バンドは楽しくやるのが一番なので

──最初におっしゃっていたように、ある時期からYAJICO GIRLの音楽性が変化していきましたよね。そもそもはギターロックを主体としていたのが、R&Bやアンビエントなどを昇華したポップスへと変わっていった。改めて、その変化がどのように起こったのか教えていただけますか。

四方 当初は5人でスタジオに入って、セッションありきで曲を作ることが多かったんです。でも途中から曲作りにPCを導入して、僕が最初にデモを作ってからそれをメンバーに投げるという形に変わっていって。僕は流行りものが好きな性格なので、「今、どういう音楽が面白いんだろう?」という好奇心が強いし、「今、これがいいな」と思うものを正直に作りたいという気持ちがありました。2017年頃に流行っていた海外ポップスの影響で、自分が普段聴く音楽にギターが入っていないことも多くなって。

四方颯人(Vo)

四方颯人(Vo)

──それで、YAJICO GIRLの音楽性も変わっていった。

吉見 正直、僕としては戸惑いからのスタートでした。四方が「今までとはまったく違う音像を作りたい」と言い始めて、作ってきたデモを聴くと、ギターが入っていなくて。今まではグワーッとギターを弾いて自分の感情の赴くままにセッションをして曲を作っていたけど、それじゃダメだし。

──吉見さんは、その変化にどう対応していったんですか?

吉見 普段聴く音楽から変えて、がんばってコミットしていきました。さっきも言ったようにやっぱり友達という関係性が前提にはあるので、「音楽を続けたい」という気持ちだけでなく、「友達を続けたい」という気持ちがあったから、そのためには自分も変わらないといけないなと思って。

吉見和起(G)

吉見和起(G)

武志 僕も最初は全然ついていけなくて。そもそも僕はグランジやシューゲイザーが好きなので、アンビエントやR&Bのよさがまったく理解できませんでした。勉強として聴いてはみるけど、制作の取っかかりがなくて、どうしていいかわからなかった。かなり苦しみましたね。

──武志さんは、そこからどのように調整していったんですか?

武志 時間が解決してくれた感じでした。とにかく、自分が好きじゃない音楽も聴くようにして、そうこうして1年くらい経った頃に、そういう音楽に「あ、好きかも」と思える瞬間を見つけて。例えばR&Bって、ベースラインがカッコいい曲が多いんです。四方が作るメロディはループするものが多いので、「じゃあ、ベースで歌うような旋律を弾いたらいいんじゃないか?」と思ってやってみたら、ガチッとハマった感覚がありました。

武志綜真(B)

武志綜真(B)

──古谷さんと榎本さんはどうですか?

古谷 僕は葛藤した記憶があまりないんですよね(笑)。身を任せていた感じで。

榎本 僕もそう。「どんどん変わっていくなあ。カッコいいYAJICO GIRLになっていくなあ」という感じでした(笑)。「ギター1本いらんやん」となったら、ライブではキーボードを弾いたり、サンプラーを使ったり。そうしたら、いつの間にか自分の担当パートが「ムードメーカー」になっていました(笑)。

──(笑)。そのポジションというのは、榎本さん的にはすんなりと受け入れられるものだったんですか?

榎本 そうですね。たぶん生まれながらのムードメーカーなんだと思うんです、僕は。

榎本陸(G)

榎本陸(G)

一同 (笑)。

吉見 でも榎本がこういうポジションでいてくれて、助かっている部分もあるんです。メンバーの誰かが突っ走りすぎたときに、「結局、どれが一番キャッチーやと思う?」って、榎本に意見を聞くことがよくあって。なんだかんだ、榎本が客観的にバンドを見てくれている部分もあるんですよね。

榎本 僕はバンドがよくなるのであればそれでいいと思っているし、何より、バンドは楽しくやるのが一番なので。