ナタリー PowerPush - 矢井田瞳

自分を出し切った新曲「もぎたての憂鬱」

身近な憂鬱をテーマにした

──憂鬱をテーマとしたのはどうしてですか?

人間なら誰しも抱えているであろう憂鬱をあえて全面に持ってくると面白いかなと思ったんですよ。私の周りを見渡してみると、身近な憂鬱がたくさんあって。例えば、ある女性陣が「いつ結婚できるんやろ」って言葉をもらした瞬間とか。何年も付き合っている彼氏がいて、安定した楽しい毎日を送ってはいるんですが、でもふとした瞬間に「この先、どうなるんだろう」って不安になったりする。そういう女性の気持ちをテーマにして書いてみました。ただ、あまり限定しすぎるのは違うかなと思ったので、実生活で感じたことを散りばめつつも、人が抱えやすい憂鬱ってこんな感じかなって、イメージを広げながら作っていきました。

──憂鬱という感情も音楽にするとこんなにエネルギッシュなものになっていくということも素晴らしいですよね。

矢井田瞳

前向きな感情、プラスの感情を曲にすることで誰かとつながっていけるというのも音楽のパワーだと思うんですけど、「私はこういうことを憂鬱に感じています」って表現することも、実は前向きに転がるきっかけになり得るんじゃないかなって。正の感情だけでなく、負の感情も同じ目線で見ているところはありますね。生きていくことが船に乗っているようなものだとすると、寄せてくる大波ですら楽しめるというか、向き合っていける人間になりたいなって。

──そういう思いが根底にあるということは、実はとってもタフな曲という言い方もできそうですね。

ネガティブな歌詞をすごくポジティブな気持ちで書いているという感覚なのかもしれないですね。タイトルは「憂鬱」という言葉が強かったので、あえて「もぎたて」というちょっとフルーティな言葉を合わせてみました(笑)。

──バンドの演奏する姿が見えてきそうですが、サウンド面でこだわったポイントというと?

ソリッドで隙間のあるカッコよさが最近好きなんですよ。音を重ねようと思えばいくらでもできるんだけど、そうじゃない引き算の美学みたいなものを追求しました。レコーディングも大きめなブースで、バンドで円になって録るみたいな感じでした。

──バンド演奏中心のPV「もぎたての憂鬱」に近い感じですか?

そうですね。あれがクルッと丸くなるみたいな(笑)。あのPV撮影は画角を固定して、何回も撮って、あとで編集で切り替えていくというやり方だったので、リアルに何十回も演奏したんですよ。メンバー全員、翌日筋肉痛みたいな。私も太ももにアザができてました(笑)。

──この曲は「夏の元気祭り」でも頼もしい武器のひとつになりそうですね。

武器になればいいですね。集中力のいる曲だから頑張って練習しないと(笑)。

人間味を大切にしていきたい

──2曲目の「LooP」は矢井田さんの歌声に包まれるような浮遊感のある楽曲ですね。

矢井田瞳

この曲は2年くらい前からあった曲なんですが、なぜかお蔵入りになっていて。あるとき、このファイルを発見して聴いていたら、自分自身が癒される感覚があったんですよ。元々この曲は命はループするというテーマで書いていたんですけど、震災が起こって、私だけじゃなくて皆さんそうだと思うんですが、今自分が生きていることとか人とのつながりとかについて再度考える時期でもあったので、今の自分の気持ちで書き換えてみようと思って、「どんなにどん底な今日も絵にしてしまえ」という言葉を入れました。

──独特なサウンドも魅力的でした。

1枚の絵を観ているような感じ、もしくは映画を観てるような曲にしたかったので、結構いろんな楽器が次々とそこだけに出てくるという、ちょっと不思議な作りになっています。あと、よりパーソナルな感じにしたくて、サウンドプロデュースの村田昭さんとふたりきりで制作しました。参加人数が少ないほど、そういう感じになるんじゃないかと思って。

──「夏の元気祭り」が終わったら、ニューアルバムのリリースも控えています。最後にちょっと予告的な言葉をいただけますか?

よりギターサウンドに寄ってると思います。自分の弾き語りだけでも成り立つものを念頭において全曲作ったので、いろんなアレンジがくっついても筋が通っているんじゃないかな。HEATWAVEの山口洋さんと細海魚さんと一緒にアイリッシュ音楽的なことをやったり、「もぎたての憂鬱」みたいなバンドサウンドがあったりと、サウンド的にはバラエティに富んでいますね。今、デビューして12年目なんですけど、最近強く思っているのは人間味を大切にしていきたいということ。「LooP」の中で「自分のサイズ ごまかしてまで やる事はないさ」って書いてるんですけど、「これ以上でもこれ以下でもありません」「これが今の私の音です」というものをコンスタントに出していくことが私の最終目標である「続けていくこと」につながるのかなと思っています。

矢井田瞳 - もぎたての憂鬱 (Short ver.)

ニューシングル「もぎたての憂鬱」 / 2012年7月11日発売 / UNIVERSAL SIGMA

収録曲
  1. もぎたての憂鬱
  2. LooP
  3. もぎたての憂鬱 (instrumental)
  4. LooP (instrumental)
DVD収録内容
  • もぎたての憂鬱 MUSIC VIDEO
矢井田瞳 夏の元気祭り 728・815
  • 2012年7月28日(土) 東京都 新木場STUDIO COAST
    OPEN 17:00 / START 18:00
  • 2012年8月15日(水) 大阪府 Zepp Namba
    OPEN 18:00 / START 19:00
矢井田瞳(やいだひとみ)

1978年大阪生まれ。19歳でギターを始め、同時に作曲活動も開始する。デモテープ作りを繰り返す中、2000年5月にシングル「Howling」をインディーズからリリース。同年7月にはシングル「B'coz I Love You」でメジャーデビューを果たすと同時に、イギリスのインディレーベルと契約する。また2005年10月には新たなレコードメーカー「青空レコード」を発足し、2006年に「IT'S A NEW DAY」と2008年に「colorhythm」という2枚のアルバムを発売。結婚と産休を経て、2010年より所属事務所をヤマハミュージックアーティストへ移籍し活動を再開する。2012年7月にシングル「もぎたての憂鬱」をリリース。