ナタリー PowerPush - wrong city

初のフルアルバムに込めた「生と死と愛」

wrong cityが1stアルバム「Induction Of Otherside」を8月6日にリリースした。

磨きのかかった重厚なサウンドに乗せ、人の死や人種差別問題などディープなテーマがつづられた今作。彼らがこのアルバムで伝えたい思いとは何か、メンバー4人に話を聞いた。

取材・文 / 小林千絵 撮影 / 上山陽介

「生と死と愛」

Victor(Vo, G)

──「Induction Of Otherside」を聴かせていただいて、歌詞もサウンドもすごくダークな印象を受けました。まずは歌詞のお話から伺いたいのですが、どなたが書いてるんですか?

Victor(Vo, G) 基本的に僕が書いてます。

──10曲中4曲に「死」という言葉が入っていて驚きました。なぜ「死」を歌おうと思ったんですか?

Victor 今回は「生と死」に深くかかわろうと思って、アルバムのテーマを「生と死と愛」にしました。結局人生って「生」を受けるところから始まって、みんなゴールは「死」なわけじゃないですか。その中でこの人はこういう生まれ方をしました、こういう人生を送りました、といういろんな人の物語を書きたくて。

──なぜ人の物語を書こうと?

Victor このバンドでは人があえて目を背けるようなことを歌いたいんです。例えば人種差別とか。僕はハーフなので、僕自身も人種差別をたくさん受けてきたし、アメリカは人種差別が強い国だったから、アメリカに住んでるときに目の前で黒人の友達が殺されかけたり、そういう中で生きてきて。だから、こういうことがあって苦しんでる人たちがいるんだよっていうことを伝えたいんです。

Atsushi(B) Victorから、タブーとされているようなものに対して、等身大の自分の考えを出したいっていうことを言われて。表現に関してストレートすぎるものは変更したんですけど、根本はそこに任せようという感じでしたね。

Onoshit(G) Victorのハーフとしてのつらさとか感情っていうのはわからないですけど、僕は小学校の頃イジメられてた経験があるので、Victorの抱えてる闇には共感できました。

jorge(Dr)

jorge(Dr) 「生と死」って人間が生きていく中で常につきまとってくることで。Victorが愛犬の死をもとにして書いた曲と、自分の肉親が亡くなったときの経験とを照らし合わせたりして。人が死ぬことってすごい自分の人生が変わるくらい大きな出来事なんだなと改めて思いました。

Atsushi 僕たちは「みんながんばれ!」っていう応援ソングをやれるバンドではないんです。人は自分が一番不幸って考えがちですけど、僕たちの歌詞を見て「自分1人がこんなつらいわけじゃないんや」って思ってもらうことで応援するというか。僕もVictorの歌詞を見たときに「こいつもこういうこと考えとるんやな」って思ったし。変にポジティブに前向きな歌詞を書いて「きっと大丈夫だから」って伝えるよりは、等身大の近しい感じで思ってもらうほうがいいなと、常にバンドとして思ってます。

Victor 人生は嫌なことの連続なんですけど、その嫌なことの中にあるほんの少しの希望の光をピックアップしていくだけで、華やかになるんですよね。「今日のコーヒーうまいな」ってだけで仕事がんばろって思えたり。

Atsushi このアルバムの暗い中にそういう何かを見つけて、ハッてなってくれればいいなと。

──そういう「希望の光」をちりばめてるんですね。

Victor チラチラと。それがどこかは、人によって違うと思うので探してみてほしいです。

wrong cityの世界観が今作で大きく広がった

Onoshit 僕は曲を作ってるんですけど、前作に収録されている「Blood libel」ができたときにVictorが言いたいことを乗せられる曲調だなと思って。

──「Blood libel」も「血」や「肌」など人種差別について歌った曲ですね。

Onoshit(G)

Onoshit そこからwrong cityはこういう方向で進めていきたいなと思ったんです。だから今作のテーマが「生と死と愛」って言われたときに、僕の中ですごくイメージが湧いたというか、こういうふうに曲を書いていきたいなとヒントをもらえました。

Atsushi 前回作りかけられたwrong cityの世界観が今作で大きく広がったんじゃないかな。

──サウンドも前作より重厚感が増していますよね。

Onoshit 音はけっこうテーマに寄せました。Victorが持ってる闇を表現する、邪悪な音を出したいと思いましたね。で、サビとか開けた心で歌ってるところは音を変えて、ちょっと華やかにして伝わりやすいようにと。

Atsushi 今作を聴いて「暗い」っていうイメージはつくと思うんで、逆に重たくなりすぎないようにというのもけっこう意識しました。

1stアルバム「Induction Of Otherside」/ 2014年8月6日発売 / 2160円 / RATRACE RECORDS / RRR-1002
収録曲
  1. Your Warmth
  2. The END
  3. Sorge
  4. Sunny
  5. With Dry Lips
  6. The Night
  7. a Priori
  8. Melt
  9. Murder's not forget love
  10. Love Goes Over
wrong city(ロングシティ)

wrong city

Victor(Vo, G)、Onoshit(G)、Atsushi(B)、jorge(Dr)が2012年に結成したロックバンド。アメリカ人と日本人のハーフであるVictorのメロディセンスと、さまざまなバックグランドを取り入れた精緻な演奏を武器に、ラウドシーンを中心に各地でファンを増やしている。2013年12月の1stミニアルバム「Life as a Ghost」リリースを経て、2014年8月に1stアルバム「Induction Of Otherside」を発表。