WOWOWプラス「生中継!SIRUP『Roll & Bounce』LIVE at NIPPON BUDOKAN」放送記念|SIRUPインタビュー (2/2)

真のSIRUPを作ったコロナ禍の期間

──一概に語るのは難しいかもしれないですけど、SIRUP名義になって活動されてきた5年間は、振り返るとどんな期間だったと思いますか?

2017~19年は怒涛でしたね。その時期は特に自分を世の中にアピールする時間だったなと思っていて。あの頃は作品をリリースして、ライブしてを繰り返しながら駆け巡っていたけど、そのあとの2020年頃から「SIRUPってこうだったんだ」と自分で気付いていった感覚がありました。

──大きかったのは、やはりコロナですか?

そうですね。コロナ禍になってそれまでの活動が停止したときに、改めて「自分は本当に音楽をやるべきなのか?」ということを考えたし、きっとみんな、自分のことを考えたと思うんです。「本当にこの仕事でいいのか?」とか。自分はどういうアーティストで何を発信していくべきなのか? あるいは、そういうことを考える前に出てしまうものはなんなのか?──そういうことに向き合っていったことで、僕はだんだんと政治のことや、社会的なことを発信するようになっていって。そう考えると、最初の3年に比べると、後半の2年はめっちゃ濃い期間だなって思います。後半の2年が、真のSIRUPを作ったなと思う。

SIRUP

──見ている側としても、やはりコロナ以降のSIRUPさんは表現するものに対しての自覚が明確になっている感じがしたし、デビュー当初とは大きく変化していった印象があります。

SIRUPは政治的なことや社会的なことについて発信するのはナチュラルで、マイノリティの人たちに対して作っている音楽なんだということが明確になったのが、この2年間でした。あとは振り返ってみると「音楽を作っている人はマイノリティなんやな」と意識した2年間でもありましたね。音楽を作る人って、一見きらびやかで、人に対しての影響力は持っているけど、産業的には小さなものだし、コロナでスケープゴートにされたり、ないがしろにされることも多かった。今までうやむやになっていたそういう部分を意識したのも大きかったと思います。

──「SIRUPはマイノリティの人たちに向けた音楽である」というのは、さっき話にあったヒップホップやR&Bという音楽が持つ文脈がそういうものであるという以外に、SIRUPさん個人の中にも動機はあるものですか?

自分の中にも動機はありますね。仲のいいミュージシャンのVivaOlaが「今はルーツで語る時代だ」と言っていたんですけど、それでいうと僕は黒人が戦うため、楽しむために作ってきた音楽であるブラックミュージックがルーツにあって、そこに共鳴したということは、僕の中にもそこに通じるものがあるということで。僕は、小さい頃から母子家庭だったりしていろいろあったし、体制に対して怒りながら生きてきたなと思うんですよね。学生時代もそうなんです。地毛が茶色い子の髪を黒に染めさせるような、理不尽な校則に対して怒っていたし、部活の先輩がムカつくから自分が部長になって変えてやろうっていうこともやってきたし。

──その頃から、SIRUPさんはSIRUPさんだったということですね。

今のはかなり原初的な話ですけど、「みんなと同じようにしないといけない」みたいなことにはめっちゃ反論するタイプだったなと思います。自分で言うのはむずがゆいですけど、どこにも属していないけど、みんなと仲がいいタイプだったんです。まあ、家族の中でもそうだったので、「面倒くさかった」とも言われるんですけどね(笑)。

──(笑)。

僕が起きてくると、不機嫌だから「それまでの和やかな空気が壊れるから嫌だった」という話を家族にされたことがあって(笑)。一応、反省してもちろん改善もしてるんですけど、生まれ持った性質は仕方がないじゃないですか。付き合っていって対処療法をするというか。最近ホンマに思うんですよね、「生まれながらに持っているものってあるんやな」って。

SIRUP
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──今日お話していただいていることは、コミュニティの話も含めて、一貫して「自分を知る」ことの大切さにつながるなと思うんです。ただ、「自分を知る」ということは、それ相応にしんどさや痛みを伴うことでもありますよね。

そうですね。自分が持っていた特権を知ったり、自分が持っていた偏見が剥がれていくときって、それまでの自分に対しての後悔や反省もあるし、めっちゃしんどい。例えば男性の特権性でいうと、男性は男として生まれることを自分で選んだわけではないし、社会的な構造でそうなってきた部分も大きいわけで、「それで怒られてもな」と思う人もいると思う。でも、女性やマイノリティ側の人たちは、男性に謝ってほしいわけでも、反省してほしいわけでもなくて。「その構造を特権側から直してほしい」という話をしているだけなんですよね。だから、男性が「俺、そんなことやったか?」と思うことは、「痛み」と言うよりは、もっと解像度を上げてみると、乗り越えないといけない成長痛なんだなってわかったりする。そして、そういうことを乗り越えてからの生き方って、けっこう楽になったりするものだと思うんです。

その日、その瞬間だけを楽しんでもらえたら

──今お話しできる範囲でいいのですが、武道館のライブではどんな演出を考えられているんですか?

本当はボールを投げたりして、みんなで楽しめることをやりたかったんですけどね。やっぱり感染対策的にみんなで同じものを触ったりするのはダメみたいなんです。でも、その代わりにグッズでファブリックミストっていうのを作って、同じ匂いを楽しめる、みたいな試みをやろうかなと考えています。もちろん、匂いを嗅ぐのが嫌な人もいると思うので、そういうことも考慮しつつですけどね。できる限りのことはやってみようと、いろいろと仕込んでいる最中です。

──面白い試みですね。最後に、11月11日の武道館公演に直接参加される方やWOWOWプラスでの生中継で参加される方にメッセージをお願いします。

まだコロナも終わっていないし、いろんな問題が山積みだし、現場に来てくれる人たちはもちろんルールを守りながらにはなりますけど、僕も含めて、このイベントに来る人たちは同じ目的を持って集まってくると思います。その気持ちをシェアしながら、一旦、ライブ前日や翌日のことは忘れて、その日その瞬間だけを楽しんで、いろんなものを発散させてほしいです。

SIRUP

ライブ情報

SIRUP「Roll & Bounce」

2022年11月11日(金)東京都 日本武道館

番組情報

生中継!SIRUP「Roll & Bounce」LIVE at NIPPON BUDOKAN

放送日時:2022年11月11日(金)18:55~

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プロフィール

SIRUP(シラップ)

R&B、ネオソウル、ヒップホップなどをルーツに持つシンガーソングライター。2017年にTokyo Recordings(現:TOKA)がサウンドプロデュースを手がけた楽曲「Synapse」でデビュー。Honda「VEZEL TOURING」のテレビCMソングに採用された2018年発表の「Do Well」や、同年発表の「LOOP」で脚光を浴びる。2019年に1stフルアルバム「FEEL GOOD」、2021年3月に2ndフルアルバム「cure」をリリース。2022年にはデビュー5周年を迎え、11月に初の東京・日本武道館単独公演「Roll & Bounce」を開催する。