キャンプインフェス「FUJI & SUN」の特別企画「FUJI & SUN '20 LIVE」が、2月23日(火・祝)にWOWOWでオンエアされる。
「FUJI & SUN」は、2019年にスタートしたWOWOWとinfusiondesignの企画によるキャンプインフェス。昨年は5月に静岡・富士山こどもの国にて第2回の開催が予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止となっていた。このたびオンエアされる「FUJI & SUN '20 LIVE」は、テレビを通して“興奮と感動”を届けてきたWOWOWが「FUJI & SUN」のコンセプトに沿ってプロデュースする収録ライブ特番。矢野顕子、上妻宏光、田島貴男(ORIGINAL LOVE)、never young beach、そして矢野と上妻からなるユニット・やのとあがつまが昨年12月に東京・伝承ホールで行ったライブの模様がオンエアされる。また本公演の模様は3月3日(水)20:00よりStreaming+で配信されることも決定しており、配信版では田島と安部勇磨(never young beach)による生トークも予定されている。
音楽ナタリーでは昨年12月のライブに密着し、演奏を終えた出演者たちにインタビューを実施。田島とnever young beach、矢野と上妻の2組ずつに分かれてもらい、この日のステージの印象や野外フェスへの思いなどを話してもらった。また最終ページには、「FUJI & SUN '20 LIVE」の見どころをまとめたレポートを掲載している。
取材・文 / 高岡洋詞 レポート / 下原研二 撮影 / 森好弘
「これがニュースタンダード」だとは思いたくない
──今日のステージはいかがでしたか?
安部勇磨(never young beach / Vo, G) 正直に言うとまだ整理がつかないというか、目の前にお客さんはいるけど声を出せなかったりと制限がある中でライブをしてみて「自分はどうライブをしていったらいいんだろう?」「今やるべきなのかな?」とも考えてしまいました。まあライブはやるし、やったら楽しいし、お客さんに会えるのもすごくうれしいんですけど、どこかでコロナ禍以前のイメージが残っているというか、どうしたらいいんだろうと悩みながらって感じでした。
鈴木健人(never young beach / Dr) 僕も同じです。今日はお客さんが5組10名に限定されてましたけど、例えば会場のキャパシティの半分だとか3分の1だったとしても、声を出せない状態は今後も続くと思うので、以前のように歓声が上がって、こっちもそれに呼応して、みたいにお客さんとコミュニケーションを取るのは難しいですよね。でもビートにノッてくれているのを見ると、声を出せないなりにパッションが発散されてるのかなと思って、今までとは違う別のやりがいみたいなものも感じて、歯がゆさはありつつ楽しくやれましたね。
阿南智史(never young beach / G) いつも練習で入っているスタジオで演奏しているみたいな落ち着いた雰囲気で、それはそれで楽しかったです。いつもの感じとは違いましたけど、こういう状況だからこそ、静かな場所やその場の雰囲気を楽しんでやっていきたいなと思います。
巽啓伍(never young beach / B) 僕も前の2人(安部、鈴木)と同じ意見で、ライブは基本的にお客さんとともに作り上げる作業だと思ってるので戸惑いはあるんですけど、その分いかに自分たちが楽しくやるか、内側に向けてって言うと変ですけど、その盛り上がりが大事だなと思いました。ただ「これがニュースタンダード」みたいに言われると、どうなのかなとは思いますけど。
──田島さんはいかがでしたか?
田島貴男 僕はだいぶ慣れてきましたね(笑)。2020年の8月に始めたのかな、お客さんがいながらの配信ライブは。今年はバンドではほとんどやってなくて、ずっと1人でライブをやってます。配信ライブの雰囲気は、音楽を始めたばかりの頃、お客さんが全然いなかった時期ってあるでしょ。あれがずーっと続いている感じに似ていますね。
安部 あー、すごいわかります(笑)。
田島 ハートが鍛えられるんだよね。「コール&レスポンスお願いしまーす!」と言っても誰も返してくれなかった時期に戻ったような感覚があって。ただ、お客さんがいないからってボルテージが下がった状態でやると、アーカイブのデータとして残っちゃう。だから“バーチャルお客さん”を想像しながらやってますね。こんな事態は今まで誰も経験したことなかったし、予想もしなかったことだからびっくりしてるけど、僕はどっちかというと失敗してもそれはそれでいいやと思ってやってる。
安部 あー。
田島 あと、僕はもともと機械や機材をいじるのが好きだったりするので、動画配信のシステムを調べながらやり方を覚えたりしてる。思ったより難しくなくて、自分らでできる感じなんだよ。コロナの収束が見えない状況だけど、「音楽はそれでも続いていくんだ」という思いでいろいろと試行錯誤している最中ですね。
好きにやるしかない
安部 僕は正直、ライブが始まる前まで「どうしたらいいんだろうな」と考えていたんですよ。田島さんや矢野(顕子)さんがどうやって熱量を維持して、どんなステージをやるんだろうと思っていたんですけど、さっき田島さんのライブを見ていたら、やっぱりすごいパワーだなって。僕らはそういうふうにはできてなかった。まだ若さが出てたんだな、恥ずかしがっちゃダメだ……とか、いろいろ反省しました。
田島 でもさ、ネバヤンもお客さんが10人ぐらいのときってあったじゃん。
安部 そのときは反骨心っていうか、まだ若かったりしてソリッドにやれてたんですけど、今は不思議な状態だから。お客さんは10人だけど、スタッフさんがたくさんいたり、テレビのカメラがあったり、きれいな場所だったり、いろいろちぐはぐな感じがして、「いつも通りやろう」と思っても何がいつも通りなのかわかんなくなってしまって。さっき阿南が言ったように練習スタジオでやってるような感覚もあって、それはそれでいいんだけど、それならもうちょっと僕らのスタジオの感じが出せるところでやるべきなのか……とか、考えてばっかでモヤモヤしてしまいました。
──そんなネバヤンの皆さんに田島さんからアドバイスはありますか?
田島 ないですよ(笑)。好きにやるしかない。
安部 まあ、そうですよね。
田島 それぞれのやり方があるから。どのバンドもミュージシャンも、みんな考えてると思うんですよ。それぞれに合ったやり方を模索して見つけていくしかないよね。僕はたまたま10年くらい前から「ひとりソウルショウ」(田島が1人だけでステージに立ち、ギターのみならずBOSS Loop Stationや足踏みのタンバリンなどを駆使してパフォーマンスするライブシリーズ)をやってたから、その蓄積があったんですよ。でもやっぱり1回1回のライブがかなり修羅場になるときもあって。
一同 (笑)。
田島 今日は音響システムが整っていたから快適な環境だったけど、生配信のライブやフェスだとそうじゃない状況もいっぱいある。僕が最初に配信ライブをやったのは4月だったんですけど、そのときはみんなが手探りで、「なんでこうなっちゃうの?」みたいなことが本番中に頻発する感じで。最近はみんな慣れてきて、やりやすくはなってきています。でも普段のライブだって、いろいろと予想だにしないことが起こるじゃないですか。「ギターが出なくなった」とか「マイクが故障した」とか。それも含めてライブだと思ってやるしかない。
「音楽って面白いな」と思ってくれたら
──視聴者へのメッセージや、ここに注目してほしいみたいなポイントはありますか?
安部 そういう質問をされるたびになんて言ったらいいかわからなくなるんですけど、どうでもいいっちゃどうでもいいんですよね。僕らはライブをすることしかできないし、メッセージだってお客さんにどう受け取られるかわからない。逆に何も言わずとも勝手に汲み取ってくれたり、受け取ってくれるものがあると思うので、僕から「ここをチェックして聴いてくれ」みたいなことは特になくて、みんなが思ったところでそれぞれ楽しんでもらえたらいいですね。「同じほうを向いてくれ」みたいな感じも嫌なので、みんなが楽なように聴いてほしいです。
田島 「ここに注目してくれ」みたいなことって、今日出演する全員がわかってない気がするんですよ(笑)。ステージの上でただ精一杯やってるだけでさ。でもお客さんが放送を観て、少しでも「音楽ってやっぱりいいものだな」と思ってくれたら僕らはうれしいかな。「世の中に音楽を楽しむ時間の余裕があっていいんだ」みたいなさ。
──今年は「FUJI & SUN」をはじめとする野外フェスの多くが中止または延期となりました。フェスに出演する機会の多い2組ですが、何か思うことはありますか?
阿南 今までフェスにはよく出ていましたけど、なくなるとやっぱり寂しいというか、野外でしかできないライブって絶対あると思うんですよ。それを自分たちも経験してきたので、絶対やりたいというか、できるようになってほしいっていう気持ちしかないです。
安部 そうだよな。これで急に「(フェスについて)いやあ、別に……」とはならない(笑)。みんななるべく早く日常が戻ってきたらいいなと思ってるだろうし、僕も来年は開催してほしいなと思います。
田島 いつ日本に入ってくるのかわかりませんけど、早くワクチン打ちたいな(笑)。人間が生きていくうえで個人的なトラブルっていろいろと起こるけど、今回は世界中の人々全員に同じトラブルが起こったわけでさ。これはこれでやっていくしかない。とにかく感染者が少なくなってほしいし、フェスもできるようになればいいなと思うけど、その日を待ちながらも「どうやって音楽やっていこうかな」っていう目の前の問題が日々迫ってきてる(笑)。今は目の前のことに精一杯で先のことはわからないけど、この時期に自分がどんなことをしたのか、あとから思い出して後悔しないようになるべくがんばりたいと思っているんだけどね。
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矢野顕子×上妻宏光(やのとあがつま)対談