Vaundyがロンドンで行ったスペシャルライブの模様が、「Vaundy LIVE in London」として9月7日にWOWOWプライムで放送、WOWOWオンデマンドで配信される。ロンドン郊外の歴史あるホールを舞台に、このとき限りの特別な編成で繰り広げられたパフォーマンスは、改めてVaundyというアーティストのすごみを見せつけるものになっている。
ロンドンはVaundyにとって思い入れの強い街。昨年初めて訪れて以降何度も通っているというこの地で、彼はどんなインスピレーションを得ているのだろうか。今回のインタビューではライブのことはもちろん、イギリスという国、ロンドンという街に対する彼の思いを語り尽くしてもらった。
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取材・文 / 小川智宏撮影 / 日吉"JP"純平
“ライブ”の中でクリエイティブなことをどう表現するか
──WOWOWで放送される「LIVE in London」、拝見しました。ロンドン・グリニッジの旧王立海軍学校にある有名なホールを舞台にしたライブでしたが、実際にそこでライブをしてみていかがでしたか?
すごく広いところでしたね。音がそこら中にブワーッと広がっていく感じで。日本の音楽の志向は逆ですからね。反響を消して、鳴っている音の鮮明さを大事にするみたいなところがあるから。でも、もともと音楽っていうのは“環境と音”によって作られるものだから環境ってすごく大事で。イギリスの音楽がいかに環境音を大事にしてきたかがちょっと見えた気がしました。ただ、本当は観客を入れてやるのが一番いいんですよ。だから映像では伝えきれてない部分も多いと思うし、いつかお客さんを入れた状態でやれたら面白いなと思います。映像として残ることが面白いという点もあると思うから、そこまで重要視はしてないですけど。今回は「珍しい体験したなあ」と。
──場所も音響も素晴らしかったんですが、そもそもVaundyのパフォーマンス自体がそれまでとは違う感じもしたんです。アリーナツアー「replica ZERO」以降、ご自身ではその変化をどう感じていますか?
パフォーマンスはここ最近、ずっと変わり続けてますからね。アリーナツアーのときと「LIVE in London」のときでも違うし、「LIVE in London」のときと今でも全然違う。この間の幕張でのワンマン(「HEADSHOT」)からやり方をガラッと変えたんで。歌い方も音の鳴らし方も変えた。スピーカーやイヤモニの微調整みたいな技術的なことがほとんどなんですけど、そこを変えたことで「音楽としてちゃんとカッコいいもの、歌の力」というのがよりちゃんと伝わるようになったのかなと思います。
──幕張公演は僕も拝見したんですけど、歌のニュアンスや表情、声の調子がすごく繊細に伝わってくるようになった気がします。
こちら側でコントロールしやすくなったんです。今までは自分に縛りをかけて歌っていたんですよ。周りの音をガーッと流して自分を圧迫することで、それよりもすごい力を出すということを4年間やってきたので……言わばロック・リー(マンガ「NARUTO -ナルト-」のキャラクター)状態ですよね(笑)。4年間重りを付けて修行して、ついにそれを外したという。だから自由度が高くなったし、歌の力もだいぶ上がった気がする。まあ、これからは縛りをむしろ増やさないといけないと思っているんですけど。あとはライブで何を作るかが重要かなと。今はシンプルに“ライブ”をやっているけど、その中でクリエイティブなことをどうやって表現できるか、今後はもうちょっと考えないといけないなと思っています。幕張メッセのライブでは、新しいクリエイティブの形として、公演中に「GORILLA芝居」のミュージックビデオを作るということをやったんですけど、ああいうふうにひねったものをライブに入れていけたら面白いなと。
──なるほど。ロンドンでライブをやってみて、印象に残ったことや楽曲はありますか?
俺、「宮」が自分の曲で一番好きなんですよ。だからもう2曲目でピークを迎えていたかもしれない(笑)。「宮」は自分の音楽として完成形に近いんですよね。美しさと儚さと、ポップスとしての魅力……そのポップスとしての魅力を出すのが一番難しいんです。「大衆受けするマニアックなもの」というのが僕のテーマだったりするんで。「宮」って一聴するとトリッキーな曲だと思うんです。でも「僕がミドルバラードをやるならこういう感じかな」というのが詰まっているし、テーマもミクロとマクロの“母なる力”みたいなところがあって好き。あと歌うときに気持ちいいようにできているんです。
世界中を旅する人の気持ちが初めてわかった
──このロンドンでのライブでもそうですし、アリーナツアー以降のライブを拝見していて感じるんですけど、ギターで入っているTAIKINGさんの存在がすごく大きいように思うんです。その点はいかがですか?
TAIKINGが入ってくれたことで、バンドの立体感というか、クオリティは確実に上がったと思います。BOBO(Dr)、Merlyn Kelly(B) / 吉田一郎(B)、hanna(G)でやっていたときは、それこそバンドにも縛りがあったんですよ。シーケンスもあまり使いたくなかったけど、やっぱり表現しきれないというか。そこを補いつつ自由度とバンドとしての立体感を出していくには、単純に人を増やすのも大事かも、と思ってTAIKINGに来てもらったんです。TAIKINGはすごく優しいし、いろんなことにチャレンジしてくれるし、すごく助かっています。
──今回のライブも、彼のギターがすごく効いていますよね。
でもシーケンスを邪魔しすぎないんですよね。彼もクリエイターなので、やっぱり曲を作っている人って、プレイヤーに徹しているミュージシャンとは違うんです。音作りもフレーズ作りも、全部が曲中心なんですよ。「この曲に俺がアレンジを入れるとしたら」という作曲家的な目線で見れる。“作曲家としてギターで参加している”というイメージがTAIKINGにはあるんです。ライブで、みんなで曲を作り変えていくみたいな、そういう感覚。だけど曲の核にあるものは逃がしてないんで、いい感じに共存できてるのかなと思います。あと、俺もライブで動きまくっているんだけど、TAIKINGが、俺がいないところでも盛り上げてくれるからすごく助かる(笑)。
──今回WOWOWで放送される映像では、ギターの手元がクローズアップされていたり、そういう部分も観れて楽しかったです。
俺のライブにはスクリーンがないから、そういう映像は普段観れないですもんね。だからこそ、映像をこういう形で出すというのは、正しいやり方なのかも。
──しかもただ映しているだけじゃなくて、会場の雰囲気込みで見せるという。
「Vaundyがこういうところでやったらどうなるんだろう」という実験も兼ねているので。どんな場所でもライブを楽しめるということの検証だったのかな、という気がします。
──とはいえ、単純にいつものメンバーとイギリスに乗り込んでライブをやるということの新鮮さはあったんじゃないですか?
そうですね。気持ちも違うし、ライブの難しさも違うし、発見のほうが多かったと思います。ああいう特殊な場所でのライブって、試行錯誤しないと絶対に乗り切れないんで。たまにはそういうことをする必要もあるかなとは思う。ほかでは体験できないことを、俺がクルーへのエンタメとして渡せたらなと。「おい、できねえよ、バウ!」と言われつつも、やってみたらできる、みたいな。人間ってそういう進化の仕方があるから、僕はそういうのを提供できる人間になりたい。「ポケモン」で言うと僕は7匹ちゃんと均等に育てるタイプなので、バンドもスタッフもみんなで一緒に育っていきたいなと(笑)。しかも今回は舞台がイギリスだから、余計に気合いが入りますよね。俺、イギリス大好きなんですよ。
──番組内のインタビューでもそうおっしゃっていましたが、なぜイギリスに惹かれるんですか?
光とか温度とかの環境が過ごしやすいし、違う空気の中で生活している感じが心地よくて。誰かと会ったりするわけではなく、ただふわーっと生きているのが好きなんです。なかなかそういう場所に出会えなかったから、気持ちよく生活できる場所をイギリスで見つけられたのはすごくうれしかった。そこにみんなで行ってライブをやったりするのが、今後も楽しみです。海外に行くかどうかって結局癖みたいなものなので、またみんなで行くと思いますよ。日本人って海外に行かないほうだし、僕も仕事じゃなかったら行かなかったと思う。今までは、思い立ってすぐに行けるような経済力がなかったというのもありますけど。でも、こうやって海外でもライブをさせてもらえるようになったので、であれば積極的に行ったほうがいいよね、という。それで行ってみたら、やっぱり全然違う。日本人がどうとかじゃないんだけど、違う空気を吸うのはすごく大事だなと思いました。世界中を旅する人の気持ちが初めてわかった。
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イギリス=日本のクリエイティブのほぼ“祖”