大橋トリオのデビュー15周年を記念した公演「TRIO ERA 2」が11月3日に東京・東京国際フォーラム ホールAにて行われ、同公演の模様が12月にWOWOWで放送される。
大橋は2007年に現在の名義で活動をスタートさせ、今年でデビュー15周年に突入。そんな節目に行われる「TRIO ERA 2」では、これまで発表してきた楽曲がさまざまな編成で演奏されるほか、彼が楽曲プロデュースなどを手がける石田ゆり子の音楽プロジェクト・lilyがゲスト出演する。同公演の開催を受けて、音楽ナタリーは大橋と石田の対談をセッティング。大橋がlilyをプロデュースすることとなった経緯や、2人の「TRIO ERA 2」への意気込みなどを語り合ってもらった。
取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 入江達也
どえらい曲を提案してしまった
──大橋トリオさん、デビュー15周年おめでとうございます。石田ゆり子さんの音楽活動プロジェクト・lilyが、11月3日に東京国際フォーラム ホールAで開催される大橋トリオデビュー15周年記念アニバーサリー公演「TRIO ERA 2」にゲスト出演されるということで、まずはお二人の出会いからお聞かせください。
大橋トリオ 僕のツアーに石田ゆり子さんが来てくださったのが、2020年でしたね。
lily 大橋トリオさんの存在を知ったのは、10年以上前に知り合いが薦めてくれたのがきっかけで。それ以来ずっとファンです。いろんなジャンルの曲を続々と生み出す才能をお持ちで、しかも歌も歌われて。素晴らしいですよね。本人を前にして、恥ずかしいですけど。
大橋 ありがとうございます。そうか、“続々と”っていう感じに見えるんですね。実際はどの曲も死にそうな思いで生み出してるんです。締め切りギリギリ、最後の最後にやっとの思いで仕上げて。
lily さらっとこなすイメージがあります。
大橋 もうちょっと苦労してる感じを出したほうがいいんですかね(笑)。
lily そんなことないんじゃないですか?(笑) 大橋トリオさんのコンサートに行ったのはそのときが初めてだったんですけど、それを機に私のスタッフから音楽をやってみないかという案が出まして。常々憧れはあったものの、ずっと「音楽をやりたい」なんて口に出しちゃいけないと思っていたんです。でも大橋トリオさんが作曲とプロデュースをしてくださるかもしれないと聞いて、こんなチャンスを逃してはいけないと思い、ぜひやらせてくださいと言いました。
大橋 光栄極まりない話です。これまでがんばってきてよかったと思いました。
──lilyは2021年12月3日に大橋さんプロデュースのもと、大橋トリオ「MAGIC」(2013年発表のアルバム「MAGIC」に収録)のカバーでデビューを飾りました。
lily 大橋トリオさんの曲を1曲カバーさせてくださいと申し出て、大橋さんが薦めてくださったのが「MAGIC」だったんです。
大橋 ゆり子さんの声なら「MAGIC」が合うのではないかと思ったのと、あとはクリスマスの時期だったので歌詞の内容的にちょうどいいなと思って。
lily 「素敵な曲なのでぜひやらせてください」と言ったんですけど、実際に歌ってみるとものすごく難しい曲なんですね。レコーディングをして、「歌を歌うのってこんなに大変なことだったんだ」と改めて思い知りました。
大橋 転調が重なる曲なので、音域がすごく広いんです。自分で自分の曲を分析しているうちに、なんて難しいメロディなんだということに気付いてしまい、「どえらい曲を提案してしまったな」と思いました(笑)。いろいろ調整して、原曲とはだいぶ違う流れに作り変えたんですけれども。
lily ぜひ、皆さん一度「MAGIC」を歌ってみてほしいです。すごく素敵な曲だけど、音の取り方が本当に難しいので(笑)。そのあと「うたかた」「東京の空」とレコーディングしましたけど、「MAGIC」が最初で本当によかったなと(笑)。
純粋な少女のような歌声
大橋 lilyのプロデュースを手がけるにあたって、「ゆり子さんが歌うんだったらこういう声だろうな」というイメージを持っていたんですけど、それとはまったく異なるアプローチの素敵な歌声で。最初は柔らかい、今おしゃべりしてるときの声がそのまま歌声になったようなものを想像していたんですけど、少女のような声だったのがものすごく意外でした。
lily きっと大人っぽい感じを想像していたんですよね。
大橋 ありのままの石田ゆり子さんが大人っぽい方かどうかは僕にはわからないですけど、そういうイメージがあったんですよね。でも歌声に関してはとにかく柔らかい、純粋な少女のよう。しかも好奇心旺盛なんだけど、控えめ。これまで聴いたことのない声でした。
lily ボイスチェックで1曲レコーディングしたとき、大橋さんがボソッと「よくも悪くも思ってた声と違う」とおっしゃったのを覚えてます(笑)。
大橋 「よくも悪くも」なんて言いましたっけ?
lily 全然嫌な感じじゃないんですけど、自分は自分の歌声がどう人に聞こえるかなんてまったくわからないので、「ああ、そうなんですね」と言うしかなくて(笑)。そういう新しい経験ばかりでした。
大橋 演技している自分の声や表情を画面で見て、うわっと思うことあります?
lily 思っていたのと違うってことですか?
大橋 そうですそうです。僕はよくあるんですよ。ミュージックビデオに映っている自分が、思っていたものと全然違って「これが俺か」と思うんです。まあ、慣れてないというのが大きいんでしょうけど。
lily 私も最初の頃はありましたよ。でももう35年ぐらいこの仕事をやっているので、お芝居しているときの自分の声や顔に「ん?」と思うことはないかな。
──10月26日にはlily初となるミニアルバム「リトルソング」がリリースされます。オリジナル楽曲はすべて石田さんが歌詞を手がけていますが、作曲とプロデュースを担当された大橋さんから見て、石田さんの歌詞の印象はいかがですか?
大橋 思った通り素敵な詞でした。僕が曲を書いて、詞は全部お任せするというのは初めての経験なんですけど、「ゆり子さんならきっと大丈夫だから素敵な言葉をつづればいいですよ」と言って。
lily ふふふ。いやいや。
大橋 最初は「どうやって書けばいいかわかんない」とおっしゃってましたけど、最終的には会得されたようで、思った通り素敵な言葉が上がってきました。
lily 今は配信メインの世の中ですし、CDという形をどのくらいの人が望んでくれるかまったく想像がつかなかったんですけど、記念として特別なものを作ろうということになりました。ノートみたいな形のパッケージで、歌詞カードを含めた小さな本が中に入ってるんです。手にされた方に喜んでいただけるようがんばりました。これを機に今後もlilyとしての活動が続くといいなと思っています。
大橋トリオにはウソがない
──大橋さんは俳優としての石田ゆり子さんにはどういった印象をお持ちですか?
大橋 姿を見せるだけで周囲に花が一気に咲き誇るような、そんな華やかな雰囲気をお持ちで。存在感だけでそこまで持っていける人ってそんなにいないんじゃないかなと思います。作品で言うと映画「マチネの終わりに」で英語とフランス語をかなりちゃんとしゃべられていたのが印象的です。
lily けっこうな量のセリフをしゃべる役だったので、すごく練習しました。フランス語って真面目に習うとびっくりするぐらい複雑で難しいんですよね。
大橋 音楽は自分に必要なものをとにかく鍛えればいいだけですけど、役者さんはそのときにしか使われないことを一生懸命覚えて特訓しなきゃいけない。役者さん全般に言えることですけど、本当に尊敬します。それと石田さんはふわっとされている方というイメージがあったので、実際にお話ししてみて「こんなにすごく芯が強くて、ストイックな人だったんだ」という驚きはありましたね。
lily ふんわりしたイメージってよく言われるんですけど、それを聞くたびに、どういうことだろうって思います(笑)。私は大橋トリオさんの音楽をずっと聴いていて、すごく繊細で寡黙な方というイメージがあったんですけど、実際その通りでした。
大橋 そうですか。僕は必要ないときにはあまりしゃべるつもりがないんですよね。
lily 私が素晴らしいなと思ったのは、黙ることを恐れないところです。芸能界って沈黙を怖がる人が多いんですよ、自分も含めて。例えば、みんなでミーティングしているとき、誰かしら気を遣って「ねえ? そうですよね」としゃべる感じになるんですけど、大橋さんとのミーティングは黙ってる時間がすごく長い(笑)。「どうしますか?」って誰かが聞いても、30秒ぐらい沈黙があってから「そうですね」ってしゃべり出すみたいな。そういうところが、嘘がなくていいですよね。「本当に思ったことしか言わないんだな、この方は」と思って。
大橋 ありがとうございます。考えてる時間がすごく長いのかもしれないですね。
lily 「きっと頭の中で何か鳴ってるんだろうな」と思ってました。
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lilyをどう登場させるのか