そろそろ誰かが言いださないといけないな
──「All You Need Is Love」は世界初の宇宙中継番組(1967年6月25日)のために作られた曲でしたね。
世界に対してイギリス代表のビートルズが何を発信するかというときに、あの曲をジョン・レノンが持ってきたのは素晴らしいことだし、現代においても誰かがやらなければダメだと思うんです。僕自身は「Give Peace a Chance」ってラップの原点だと思っていて。日本の若者たちが憲法改正反対のデモを行っているときにラップ調で訴えかけるというのは、まさに「Give Peace a Chance」の遺伝子を受け継ぎながらやってるような気がする。とにかく自由を奪われることは嫌だって感覚的に感じながら行動を起こすことはすごく大事なことだと思うんです。それが今、十代二十代の人たちの間に気運として巻き起こってきているのはとても頼もしいことですね。そこにWONDER-FULLも同調したいし、どんどん使ってほしいなと思います。
──若い人たちに届けたいというのは大きいですか。
すべての人に届けたいですけれども、頭の柔らかい人たちじゃないと次の時代を変えられないと思っているので、その人たちが最初に飛び付いてくれたらうれしいですね。やっぱり若者が興味を持たないと世の中は変わっていきませんから。ビートルズが来日したとき、どれだけ国として大人たちが反対したか。不良になるから絶対聴いたらダメだって。
──当時は校則で禁止した学校もあったようですね。
それって自由を奪われているということじゃないですか? きっと戦時中みたいな感覚がよみがえったと思うんです。でも、それを乗り越えて音楽の素晴らしさが広まり、自由に音楽をやっていいんだということになったわけでね。誰でも自分の言いたいことを歌っていい。ビートルズ登場以前の日本はそうじゃなかったですから。彼らが来日して50年経ちましたけれども、タームとしてそろそろ誰かがそういうことを言い出さないといけないなと思っていたんです。世界情勢も含めて。憲法9条を改正するなんてあり得ないじゃないですか。
自由なんだから言いたいこと言っていいでしょう?
──WONDER-FULLのサウンドにもビートルズからの影響がうかがえますが、これについては?
サウンドを考えたときに、やっぱりビートルズ的なアプローチは人々の耳に届いたときに心地よく伝わりやすいだろうと思ったんです。だから楽曲のアレンジもあえて近いものにしています。アルバム2曲目のタイトル「抱きしめあいたい」からしてそうでしょう?(笑) 反戦の歌なんですけれども。僕は社会をよくするためにパロディって絶対必要だと思うんです。なのに日本はその手法を使わなくなってひさしいので、そういうパロディ精神も大事にしたサウンドにしています。
──メッセージも伝わりやすいですね。
アルバムという形にしたのも、エネルギー値が高い大きな固まりとしてゴロッと出すほうが受け止める人も軽視できないと思ったからです。1曲だけできましたっていうことじゃなくて、リード曲みたいなものが6曲もあったら「へえ!」って思ってもらえるんじゃないかなと。
──アートワークやミュージックビデオは「れもんらいふ」の千原徹也さんが手がけています。ロゴのうさぎも意味深ですね。
今、一番勢いのあるアートディレクターにお願いしました。こちらの意志をうまく汲んでくれたなと思います。うさぎは直感的に決めたものですが、攻撃的でないし、日本から世界へ平和のメッセージを出すという生き物としてはすごくぴったりだなと思って。ほかにもいろいろ想像できるじゃないですか? 因幡の白うさぎとか。
──「古事記」に登場する皮を剥がれたうさぎですね。痛みを伴うことを辞さないということですか。
僕は昔からうさぎの赤い目は接写して四角に切り取ると「日の丸」だなと思っているんです。つまり日本の意志の象徴であると。我々は真っ白い布に血が滲むような思いで世界を平和にするため努力する旗として日の丸を捉えたいんです。
──「愛でしかない」の英語バージョンと韓国語バージョン、「抱きしめあいたい」の英語バージョンを収録したのも、そういうことですか。
世界に伝わりやすくしたいというところです。我々としてはただ「平和」を訴えたいだけなのに、世の中が勝手に危険視するという変なムードがあるじゃないですか。音楽、演劇、コメディ、そのあたりがポリティカルな表現をするとダメだみたいな勝手な自主規制を敷いて近づいてこない。いやいや、自由なんだから言いたいこと言っていいでしょう? 表現者がそうしないのに一般の人たちがTwitterで言う時代ですよ、今は。有象無象めちゃくちゃですけど。だからこそいろんな表現でクリエイティブな作業をしてきた人たちが自分の意見をしっかり言っていくことはすごく大事だと思うし、音楽でそれをやれていない時代が数年続いていることに対して疑問を感じたゆえにWONDER-FULLが歌で表現していくんです。
──1960年代後半の関西フォークシーンを思い出しました。岡林信康さんや高田渡さんの歌が自主規制の末、いわゆる放送禁止扱いになってしまったり。
高田渡さんの「自衛隊に入ろう」なんて皮肉を込めて逆説的に歌ってましたよね。我々のアルバムの5曲目「悲しい匂い」も完全に逆説的な曲です。ストレートに逆説的な反戦歌なのでわかりやすいと思いますよ。真逆のことを言ってるから。後半、突撃ラッパが何回鳴るんだってくらい鳴り響くんですけれども(笑)、このアレンジを思い付いたときは自分でもヤバいと思いながらも、面白い、これはとんでもない曲になるぞと。でも冗談でもなんでもなく一歩間違うと本当に日本はヤバいことになりますからね。かつての「行け!」って突進して行くような状態ですよ。集団心理が悪い方向に働くと、善悪の判断なんてつかなくなりますから。そうならないようにみんなで止められるように、多少なりとも役に立てたらいいなと思っています。
──最後にバンド名についてお聞かせください。
WONDER-FULLは、読んで字のごとく不思議がいっぱいという意味です。常識なんてものは時代によって変わるわけで、そのときそのときの常識を信じていた人間は、それ以外の行動や出来事を不思議がるわけです。でも、そこに本当の大切なことがあると僕は思うんです。自然なんて不思議であふれているじゃないですか? なぜあんな小さな種からきれいな花が咲くのか。我々人間も地球の一部であり、不思議の一部なんだからそのことをちゃんと感じながら生きていこうよと。要は「この世に不思議なことなんてない、真実はこれだけなんだ」になるのが一番怖いということです。
- WONDER-FULL「愛でしかない」
- 2017年8月15日発売 / タワーレコード
- 収録曲
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- 愛でしかない
- 抱きしめあいたい
- 時間論
- 水のワルツ
- 悲しい匂い
- 風靡
- It' s all love(「愛でしかない」 English ver.)
- 사랑밖에없어(「愛でしかない」 Korean ver.)
- I'll hold you, too(「抱きしめあいたい」 English ver.)
- WONDER-FULL(ワンダフル)
- 一切の素性を明かしていない5人組のロックバンド。「愛と平和」をテーマに掲げ、東京都内を中心に活動している。終戦の日である8月15日に全国流通の1stフルアルバム「愛でしかない」をリリースした。