ウォルピスカーター×Orangestar|歌い手人生の始まりを作った恩人との邂逅

忠告を無視してキーを上げる

──ボーカルのレコーディングに関してはどのように?

ウォルピス レコーディングはほとんど任せてもらいました。一度録ったものを送って、そこからいくつか要望をいただいてリテイクして、という進め方です。

──ウォルピスカーターさんの楽曲はどれも高音のものが多いですが、「オーバーシーズ・ハイウェイ」のトップ音もかなり高いですよね。

ウォルピス 実はOrangestarさんに作ってもらったデモの段階ではキーが2つか3つ低かったんですよ。そこをちょっと無理言って上げてもらいました。

Orangestar 今回はボカロ曲じゃないから自分自身でも歌えるような曲を、という感覚で作っていて。もちろんウォルピスさんのオクターブ下ではありますが、自分でもギリギリ歌えるくらいのキーで投げたら「2、3個上げていいですか?」と返事が来たんです。ボーカルを聴かせてもらった感じではちょっと高いかなと思ったんですが、裏声と地声の境界で歌えるこのキーが一番よさそうだったので「ではこれでいきましょう」と。

ウォルピス 生意気なことにOrangestarさんからの忠告を無視してしまいました(笑)。やっぱり自分が一番パワフルに歌えるキーでやるのが一番いいかなと思って。ライブのことを考えればキーを上げるべきではなかったんですが、この曲はまずテレビでオンエアされるものだし、ライブのことは一切考えずにキーを上げる決断をしました。でもこのときまだアニメ尺しかなくて、フル尺になったらもっと高いトップ音が出てきて焦りました(笑)。

Orangestar 今回、フル尺を作るのがかなり大変だったんです。私の中では59秒のアニメ尺が完成したときにひと区切りついてしまって、その後フル尺を作らなきゃいけなかったのに、その先のアイデアが全然思い付かなくて。納期2日前になってウォルピスさんのスタッフさんに、「59秒がフル尺ということではダメですか?」というとんでもないLINEをした記憶があります(笑)。

ウォルピス 僕もスタッフもビックリしましたよ(笑)。

Orangestar それくらい本当に思い付かなくて。1週間ほど納期を延ばしてもらっている中で、Dメロのところが最終的に降りてきました。ウォルピスさんからしたら、すごい高音が入っているパートが来てビックリしたと思うけど。

ウォルピス Dメロのトップ音は、僕がギリギリ出せる最高音だったんですよ。それがなんだか奇跡的に思えて、最初に曲のキーを上げておいてよかったなと逆に思いました。

Orangestar よくあの高音が出せますよね。さすがだと思いました。

怖くてエンディングが観られない

──3月から「デジモン」のエンディングテーマとしてテレビで「オーバーシーズ・ハイウェイ」がオンエアされて、どんな反響がありましたか?

Orangestar 私の家にはテレビがないので、まだ実際にオンエアされている瞬間を目にしていないんですが、皆さんがSNSを通じてけっこう反応してくれて。こんなにたくさんの人がこの曲を毎週聴いてくれているんだと思うとうれしかったですね。

ウォルピス 僕、いつもだったらリアタイでアニメのオンエアを観ているんですけど、今回は怖くてまだ観れていないんですよ。SNSで曲名の検索もしていない。

Orangestar 「怖い」ってどういうことですか?

ウォルピス 身も蓋もないことを言いますが、我ながら「声が高いのってどうなんだろう」と思っちゃって(笑)。「デジモン」という大きな作品を観る人の中には、当然僕のことを知らない人もいるだろうし、そういう人がエンディング曲を聴きながら「なんか声高いやつが歌ってんな。誰だろう?」と思ったときに「歌:ウォルピスカーター」と表示されるわけじゃないですか。そういう中で声がすごく高くて得体の知れない僕に不信感を持つ人もいるんじゃないかと……。

Orangestar ははは(笑)。

ウォルピス それぐらい「デジモン」というのは僕の中で大きなタイトルなんです。きっとこれから先もエンディングを観るのには勇気がいるでしょうね(笑)。

──どんな反応があったか、今度Orangestarさんがこっそり教えてあげてください。

Orangestar いいですね。

ウォルピス やめてください。言わないでください(笑)。

過ごした時間が風化していない

──お二人がタッグを組んでオリジナル曲を作るのは2016年発表の「時ノ雨、最終戦争」以来、約5年ぶりです。この5年でお二人自身にも音楽シーンにもいろんな変化がありましたが、今回のコラボでお互いの成長や変化をどのように感じましたか?

Orangestar 「もう5年も経ったのか」という感じですね。私としては、あまり変化を感じずに一緒に仕事ができたかもしれない。

ウォルピス 僕も同じで、そんなに時間が経った感覚はないです(笑)。Orangestarさんとは1回ごはんを食べに行ったことがあるんですけど、かなり背が高い方なので、そのイメージがずっと残っていて……今でも僕の中でのOrangestarさんの印象は「背が高い人」で止まっています(笑)。僕の中でOrangestarさんと過ごした時間が風化していないんですよね。なので共作は5年ぶりではあるんですが、感覚的には「時ノ雨、最終戦争」を書いてもらってからすぐにまたご一緒できた感じ。

Orangestar 私の中でのウォルピスさんは「面白いお兄さん」なんです。5年ぶりに仕事を一緒にしても、そこは相変わらずでした(笑)。

──ウォルピスカーターさんはいろいろなボカロPやクリエイターの方と曲作りをしていますが、その中でもOrangestarさんはどんなところが特別だと感じますか?

ウォルピス すべてが特別ですね。僕の歌い手としての人生は「アスノヨゾラ哨戒班」から始まったといっても過言ではないですし、「時ノ雨、最終戦争」を書き下ろしてくれたことも当時かなりうれしかったんです。そこからさらに1つステージが上がって、今こうやってオリジナル曲を一緒に作れているのはものすごく光栄なことで。始まりの一歩を踏ませてくれた人なので、僕が思うOrangestarさんへの思いはどうしても特別なものになってしまいます。

Orangestar ありがとうございます。私にとってもウォルピスさんはちょっと特別なんです。私は2017年から約2年間活動を休止して、復帰してからは曲を誰かに書き下ろすことはほとんど断ってきたんですが、ウォルピスさんとはやりたいなと思ったんです。私自身、ウォルピスさんの歌が好きなんですよね。声が好きだし、私の曲を原曲キーで歌う男性ボーカリストもなかなかいないし(笑)。私のタイミングが悪くて、なかなか2回目のコラボが実現できなかったけど、今回ひさしぶりに「オーバーシーズ・ハイウェイ」を一緒に作れてすごくうれしかったです。

ウォルピス ひさびさのコラボをアニソンで実現できたのは運がよかったなあ。僕、運だけはいいんですよ。

Orangestar 運だけではないと思いますよ(笑)。

ウォルピス いやいや、僕は実力よりも運でこの人生をつかんできた男ですから(笑)。結局どれだけ歌がうまくても、聴いてくれる人がどこで曲と出会ってくれるか、どのタイミングで受け入れてくれるかはほとんど運だと思っています。

Orangestarの高い曲が歌いたい

──お二人がこの先またコラボするとしたら、どんな曲が作りたいか、どんな歌が歌いたいかなどイメージはありますか?

ウォルピス 僕はOrangestarさんの作る、キーの高い曲が歌いたいです!(笑)

Orangestar 今回も十分高かったですよね?

ウォルピス はい。Orangestarさんの曲の中でも一番高かったと思います(笑)。曲中に僕のトップ音が入ってはいるんですが、曲全体の高さで言うと“中の上”くらいな感覚があるので、もっと平均的にキーの高い曲が欲しいです!

Orangestar こういう高音への熱い思いとかも変わらないですよね(笑)。

ウォルピス Orangestarさんは僕にどんな曲を歌ってほしいですか?

Orangestar 「DAYBREAK FRONTLINE」(2016年12月に発表されたOrangestarのボカロ曲)を投稿したとき、「この曲、きっとウォルピスさんに合うだろうなあ」と思っていたら、アルバム(2018年12月発売の「これからもウォルピス社の提供でお送りします」)に入れていただいて。それを聴いて「やっぱりウォルピスさんにこういう曲を歌ってもらうのはいいな」と思ったんです。

ウォルピス 「DAYBREAK FRONTLINE」も高かったですねえ。僕、たぶんマゾっ気があるんですよ。キーの高い曲を苦しみながら録ってるときが人生で一番満たされてる気がする(笑)。

Orangestar ははは(笑)。曲を作ってるときに「ウォルピスさんに歌ってほしいな」と、ふと思う瞬間があるんですよ。ウォルピスさんの歌で聴いてみたくなるというか。

ウォルピス ちょっとキーが高めな曲を投稿してくれればすぐ飛び付きますよ(笑)。

Orangestar わかりました。歌ってほしい曲が出てきたらボカロで作って投稿してみます。

ライブ情報

ウォルピスカーターワンマンLIVE 2021
  • 東京編「真・株主総会」(振替公演) 2021年8月27日(金)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
  • 大阪編「ハイトーン刑務所 ~LIVEでキーを下げただけなのに~」(振替公演) 2021年10月24日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside