7月に放送がスタートしたテレビアニメ「BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-」にオープニングテーマ「STARS」を提供し、ロックリスナーのみならずアニメファンにもその名を広めたw.o.d.。8月に行われたワンマンツアー「バック・トゥー・ザ・フューチャーV」にはこれまで以上に幅広い層の観客が集まり、着実にファンが増え続けていることを感じさせた。音楽ナタリーでは9月6日に「STARS」のシングルCDがリリースされたことを記念し、w.o.d.の3人にインタビュー。「BLEACH」のテーマ曲を担当した心境や「STARS」の制作背景だけでなく、これからw.o.d.の作品に触れる新規ファンにオススメしたい楽曲、シングルと同日にリリースされる1stフルアルバム「webbing off duckling」のアナログ盤についても語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / 後藤壮太郎
「BLEACH」観てたらサイトウの声が聴こえてきた
──新曲「STARS」はテレビアニメ「BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-」のオープニングテーマに使用されていますが、反響はどうですか?
サイトウタクヤ(Vo, G) 今まで俺らの音楽を聴いたことがなかった層に届いてる感じはありますね。しかもすごいスピードで。
中島元良(Dr) そうだね。
サイトウ アニメファンの人たちって、愛がすごいじゃないですか。放送が始まってすぐ、「STARS」を英語でカバーしてくれる人がいたり。
Ken Mackay(B) YouTubeにポルトガル語のカバーもあったよね。
元良 振付を考えて踊ってくれたり。
Ken あとは親の知り合いから「すごいね」って連絡が来ました。
サイトウ 俺も小学校のときの友達から、LINEで「『BLEACH』観てたらサイトウの声が聴こえてきた」って連絡がきたよ(笑)。そんな経験は初めてなので驚いてます。
──この曲はすでにライブで演奏してるんですよね?
サイトウ やってますね。サビで頭打ちのビートになったり、わかりやすさもある曲なので、オーディエンスの反応もすごくよくて。
元良 この曲を披露すると、お客さんが「主題歌おめでとう!」と祝福してくれるんですよ(笑)。
──「STARS」はどんなイメージで制作した楽曲なんですか?
サイトウ もちろん「BLEACH」の主題歌のために作ったんですけど、制作方法は今までと変えていなくて。まず俺がデモを作って、3人でスタジオに入ってアレンジして……という流れで、これまでとまったく同じ。オープニングの全尺にあたる89秒という長さを意識しなくちゃいけなかったので、メトロノームはしっかり使いましたけど、それ以外はいつも通りでした。
──普段はクリック(※楽曲のテンポを音で示すガイド)を使わないんですか?
サイトウ アコギの音色を録るために俺だけ別の部屋で演奏するときとか、クリックを使ったほうがグルーヴがよくなるときとか、何回か使ったことはありますね。
Ken 「My Generation」のレコーディングでも使ったね。
サイトウ あの曲は打ち込みの音が入っているからね。「STARS」みたいなガレージロック的な曲でクリックを使ったのは初めてかな。
元良 確かに。
──背伸びしている感じとか、無理して着飾っている感じがまったくなくて、完全にw.o.d.の曲ですよね。
サイトウ そこもちょっと意識していたんですよね。初めてのアニメタイアップだからこそ、ちゃんとw.o.d.らしい曲にしたいなと。
Ken 「BLEACH」の世界観もw.o.d.にピッタリだし。
サイトウ 「BLEACH」は小学生のときからアニメを観ていたし、どういうストーリーで、どういうふうに絵が動くかイメージできて。あと、原作者の久保(帯人)先生が音楽好きで、w.o.d.のことも知ってくださっていたみたいで、いろんな意味で共鳴できたのかなと。
──なるほど。サウンドやアレンジに関しては?
サイトウ そこも自由にやらせてもらいました。俺たちは「いつも新しいことをやりたい」という気持ちがあって、「STARS」にもいろいろ詰め込んでいるんですよ。例えばBメロのギターのアルペジオをそのままサビに持ってきたり。最後のサビ前にDメロを入れるのも初めてですね。ベースも、ここまでメロディが動くフレーズってあんまりなかったよね?
Ken そうだね。サイトウが作ったデモ音源の時点でベースラインがかなり動いてました。
サイトウ こいつ(Ken)が弾くと、さらにロックっぽくなるんですよ。リズムもパートごとにいろいろ変化させています。普段はシンプルなアレンジが好きなんですけど、「STARS」はかなりにぎやかな曲になったかなと。
元良 ただ、難しいことだけで構成されている曲に魅力を感じないので、あまりやりすぎたくはなくて。「STARS」もその点を意識しましたね。
ロックって悩みながら踊るものやと思う
──「許せなくていい 治せなくていい / 消せない記憶もずっと 護りぬきたい」という部分をはじめ、全体的に歌詞も尖っていて。どんなことを意識して作詞したんでしょうか?
サイトウ いろいろなアーティストのタイアップ曲を聴いてみたんですけど、俺がグッときたのは、アーティスト自身が作品をしっかり消化し切っている曲だったんですよ。作品にそこまで寄り添っていなくても、アーティスト自身の思いが込められていれば、しっかり相乗効果が出るんだなと。なので「STARS」の歌詞に関しても、あえて「BLEACH」のストーリーに寄り添いすぎず、自分の経験や思想を反映しました。
──思想というと?
サイトウ 俺のバイブルはサン=テグジュペリの小説「星の王子さま」なんですよ。最高のシーンや発言がいっぱいあるんですけど、根底にあるのは「本当に大事なものは目には見えない」「心の目で見る」ということだと思っていて。「BLEACH」のストーリーや世界観も、目に見えない存在がすごく大きな役割を果たしていると思うんです。
──「BLEACH」に出てくる“死神”も、普通の人にとっては目に見えない存在として描かれていますよね。
サイトウ そうそう。そこも「大事なものは目には見えない」という部分で共通しているんじゃないかと。あと、俺が書いた歌詞も、影響を受けてきた音楽の歌詞も、決して楽観的ではなくて、苦しんでるんですよ。そういう曲に共感してきたし、救われてきたというか。「BLEACH」の登場人物も戦いに勝っても、どこか寂しそうな感じが漂っているのがいいし、「STARS」も同じような雰囲気の歌詞にしたかったんです。ロックって悩みながら踊るものやと思うし、そこはすごく意識しました。
──確かに底抜けにポジティブな曲ではないですよね。闇の向こうから光が見えてくる、というか……。
サイトウ タイトルは「STARS」なんですけど、曇り空のイメージなんですよ。自分にとってホンマに大事なものって、子供の頃はわかっていたはずなのに、だんだんとわからなくなってしまう。たぶんそれって一生解決できないし、ずっと探していくものなんだろうなと。それを“雲で隠れてる夜空”に重ねて描きたかったんです。
──「届きそうで届かない」「見えそうで見えない」というイメージを表現していることも、w.o.d.と「BLEACH」の共通点かもしれないですね。Kenさん、元良さんも「BLEACH」は以前からチェックしていたのでしょうか?
Ken 実はしっかり触れたことはなくって、主題歌を担当することになってからアニメを観ました。めっちゃ面白かった。
元良 俺は原作のマンガを全部チェックしていました。「週刊少年ジャンプ」で連載していた頃、リアルタイムで毎週読んでいて。ずっと好きだった作品に関わらせてもらえるって、すごいことだなと。
Ken 作品のテーマも「俺らが表現したいことに似ているな」と思いましたね。
──w.o.d.、ダークファンタジーが似合いますよね。
サイトウ そうだと思います。以前から「アニメとタイアップするとしたら、どんな作品が合うんやろ?」みたいなことを考えていたので、最初のタイアップが「BLEACH」でホンマによかったです。
「感情」でやり切ったw.o.d.、新たな一歩を刻んだ「My Generation」
──CDシングルには中野雅之さん(BOOM BOOM SATELLITES、THE SPELLBOUND)をプロデューサーに迎えた楽曲「My Generation」も収録されていますが、この曲は皆さんにとってどんな位置付けの曲ですか?
サイトウ 「My Generation」はアルバム「感情」(2022年9月発表)を出したあとの第一歩になった曲で、力強く踏み出せてすごく自信になりましたね。「感情」はアナログテープの一発録りで制作したアルバムなんですけど、完成したあと音楽的にもプレイスタイル的にもやり切った感覚があったので、「My Generation」は新たにエレクトロなサウンドを取り入れてみたんです。最初は「どうなるんだろう?」という心配があったけど、新しい挑戦への楽しみもあったし、中野さんのおかげですごくいい曲になって。いろんな人から「めっちゃカッコいいよね」と言ってもらえたので、すごくうれしかったよね。
Ken うん。サイトウが「中野さんと制作してみたい」と言い出したのがきっかけなんですけど、ナイス采配でした。
サイトウ よかった。以前中野さんと対談させてもらったときも話したんですけど(参照:w.o.d.×中野雅之 対談特集)、アルバム「感情」を作ってるときから次の作品のことを考えていて、Primal ScreamやThe Chemical Brothersのサウンドがヒントになったんですよ。「ロックとダンスミュージックの融合を、このタイミングでやれたら面白いかも」と思いついたんです。そこで海外のプロデューサーと組むことも考えたんですけど、「日本にはBOOM BOOM SATELLITESを作った中野さんがおるぞ」と。中野さんも以前から俺らのことを評価してくれていたし、一緒にやれて本当によかったです。
元良 新しい必殺技を手に入れた感じがありますね。
──ライブでもガッツリで踊れそうですね。
Ken 「My Generation」はめちゃめちゃ盛り上がりますね。
サイトウ 打ち込みの音も使っているので、ずっと一定のテンポなんですよ。最初は「ちょっと落ち着いた感じになるかもな」と思っていたんだけど、何度かライブで演奏していくうち、それが気持ちよくなってきて。
元良 そうそう。いいよね。
Ken また機会があれば、中野さんと一緒に曲を作りたいですね。
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成長したけど、やってることは変わってない