グランジ直系バンドw.o.d.が中野雅之と邂逅、ポップな新基軸で「My Generation」を示す

w.o.d.が4月5日にリリースした新曲「My Generation」は、プロデューサーに中野雅之(THE SPELLBOUND、BOOM BOOM SATELLITES)を迎えて制作された楽曲。w.o.d.本来のネオグランジ直系のバンドグルーヴと鋭利なエレクトロサウンドが共存する、極めて刺激的なロックダンスチューンに仕上がっている。この新曲のリリースを記念し、音楽ナタリーではw.o.d.のサイトウタクヤ(Vo, G)、Ken Mackay(B)、中島元良(Dr)と中野にインタビュー。「My Generation」の制作を軸に、両者のロック観、バンド観などについて語り合ってもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / 中野賢太

こんなにもプリミティブなバンドは、今や希少

──新曲「My Generation」、素晴らしいです。w.o.d.の新たな代表曲になるのはもちろん、この先のロックシーンを象徴するアンセムになる楽曲だなと。

サイトウタクヤ(Vo, G) そうなればいいなと思いながら作りました。去年メンバーと「中野さんと一緒に制作できたら最高やな」って話していたんですけど、それが本当に実現して。めちゃくちゃカッコいい曲になってうれしいですね。

中野雅之(THE SPELLBOUND、BOOM BOOM SATELLITES) よかった。

──中野さんにプロデュースを依頼したのは、どうしてなんですか?

サイトウ 去年の9月に出した4枚目のアルバム「感情」は、全部アナログテープでレコーディングしたんですよ。プロデューサーは入れず、自分たちだけで曲作りを進めて、これまでと同じく一発録りで。その時点で3ピースバンドとしてやれることは、けっこうやり切った感じがあったんですよね。

Ken Mackay(B) うん。

サイトウ そこから一歩先に進むためにはどうしたらいいか考えていて。自分たちで時間をかけてやるのも1つの方法やと思うんですけど、今回はプロデューサーと一緒にやってみようと。あとは最近、メンバー3人ともPrimal Screamがめっちゃ好きになったんですけど、そういう音にしてみたくて。

Ken 「LIVE IN JAPAN」(Primal Screamのライブアルバム)を自分たちのライブの前に聴いて、テンションを上げているんですよ(笑)。

中島元良(Dr) 最近、絶対聴いてるよな(笑)。

サイトウ オリジナルアルバムだと「Screamadelica」も好きですけど、「XTRMNTR」がすごくいいんですよね。

──エレクトロの要素を取り入れた超アグレッシブなロックアルバムですよね。

サイトウ あのアルバムみたいなサウンドは、自分たちだけでは作り方がまったくわからなくて。どうしてもプリミティブなロックになりがちというか、w.o.d.らしい生モノ感は出せるんだけど、それ以上にはならなかったんです。で、そういうサウンドのことやライブのことをわかっている人にプロデューサーとして入ってもらいたかった。できるならPrimal Screamの「Screamadelica」「XTRMNTR」をリアルタイムで聴いていた方にやってもらえたら最高だと思って、中野さんにお願いしました。

サイトウタクヤ(Vo, G)

サイトウタクヤ(Vo, G)

──なるほど。BOOM BOOM SATELLITESに対してはどんな印象があるんですか?

サイトウ 規模がデカい会場で、バッチリ照明が効いている中でカッコいいライブをやっているバンド……というイメージだったんですけど、あるとき2006年の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」出演時のライブ映像を観て、印象がガラッと変わったんです。真っ昼間だったんですけど、ロックバンド然としていて、エレクトロな要素もいっぱい入っていて、めちゃくちゃカッコよかったんですよ。観た瞬間「次はこれだ!」と思ったし、そのときに「絶対、中野さんにお願いしたい」と。それでTHE SPELLBOUNDのライブを観させてもらって、初めてお会いして。小林さん(小林祐介 / THE NOVEMBERS、THE SPELLBOUND)が僕たちのことを「いい子たちですよ」と紹介してくれました(笑)。

中野 w.o.d.の噂は以前から聞いていたんですよ。僕の周りでもいろんな評判が耳に入ってくるバンドだったし、音源もチェックしていて。プロデュースすることが決まったタイミングで初めてライブを観させてもらいました。僕のような立場だと、事細かに音楽性を分析してしまうし、“あるもの”と“ないもの”を精査してしまうクセがあるんですけど、そういう人間でも純粋に爆音を楽しめたんですよね。こんなにもプリミティブなバンドは今や希少だなと思うし、「My Generation」でw.o.d.のストロングポイントを維持したまま、さらにいい曲として落とし込むのはやりがいがありました。

中野雅之(THE SPELLBOUND、BOOM BOOM SATELLITES)

中野雅之(THE SPELLBOUND、BOOM BOOM SATELLITES)

なぜか硬い雰囲気だった食事会。その理由とは?

──「My Generation」はまずw.o.d.の3人でデモ音源を制作したんですか?

サイトウ はい。中野さんの音楽性に寄せて作るのは違うと思っていたから、自分たちらしいデモ音源を作りたくて。いつも通り、普段使っているスタジオで録りました。

元良 このデモ音源の時点で「めちゃくちゃカッコいい」と思いましたね。

Ken うん、すごくよかった。

サイトウ 歌詞もこの時点である程度固まっていましたね。

中野 そうだね。「Kick it out」という歌詞も入ってたし。

──BOOM BOOM SATELLITESの代表曲のタイトルですね。

中野 そこにはあえて触れないで、どこまで放置できるか?というゲームを勝手にやってました(笑)。しびれを切らしてタクヤくんが「“Kick it out”って入れちゃいました」と言ってくれましたけど。

サイトウ 「いいのかな?」と思いながら、恐る恐る入れさせてもらいました(笑)。

中野 (笑)。デモ音源はリハスタで録ってる音質も含めて、今のバンドの雰囲気が収められていてカッコよかったです。僕みたいな人間にはもう作れないサウンドだし、w.o.d.のよさも色濃く出てるなと。そういう魅力はオーバープロダクションによって失われてしまう可能性があるので、手を加えるときは気を付けました。バンドとプロデューサーの関わり方はいろいろあるんですけど、今回の場合はメンバー自身の意思によって新しい一歩を踏み出そうとしていたし、自分の言うことをすべて聞いてもらおうとはまったく思ってなくて。みんなが進みたい方向性だとか、まだ感じていない可能性に触れる最初のきっかけを提示したかったんですよね。そうすることで彼らの新しい道筋や、これからの時間の重ね方、作品の積み重ね方につながればいいなと。

左からサイトウタクヤ(Vo, G)、中野雅之(THE SPELLBOUND、BOOM BOOM SATELLITES)。

左からサイトウタクヤ(Vo, G)、中野雅之(THE SPELLBOUND、BOOM BOOM SATELLITES)。

──なるほど。中野さんがアレンジした音源を聴いたとき、w.o.d.の皆さんはどう感じました?

サイトウ 「こんなになるんや!」ってテンションが上がりました。2バージョン送ってもらったんですけど、どっちもめっちゃカッコよくて。

中野 1つはもともとのデモを拡大解釈したバージョンで、もう1つは自分からの提案というか、「タクヤくんのボーカルのテイストだったら、こんな雰囲気にもなるよ」というアレンジにしました。メニューを2つ用意して、あとはコミュニケーションを重ねながら決めてもらったほうがよかったので。

サイトウ それで1つ目、もともとのデモを拡大解釈したアレンジをもとに、制作を進めた感じですね。攻めのモードもありつつ、みんなにちゃんと届くような曲にしたいというのもありました。

──なるほど。レコーディングの前には、全員で食事したそうですね。

元良 そうなんですよ(笑)。

中野 レコーディングの前に、リハーサルスタジオに顔を出したんですよ。出音を確認したかったんですけど、その流れでみんなで焼き肉屋に行って。

サイトウ 実は……その前日にちょっと飲みすぎてしまって。だいぶ遅刻したんですよ。

Ken スタジオは5時間分抑えていたんだけど、サイトウさんが来たのは4時間過ぎた頃で(笑)。中野さんが到着する10分前でした。

Ken Mackay(B)

Ken Mackay(B)

中野 リハの最後の1時間だけお邪魔する予定だったんですけど、行ってみたら、雰囲気が硬かったんですよ。どうしたのかなと思ってたら、焼き肉屋で「サイトウさんが遅刻しました」と告白されて(笑)。

w.o.d. (笑)。

中野 でも3人の役割というか、「この人は気遣いの人なんだな」ということとかも見えてきて。それはそれでよかったですけどね。

元良 そのとき、中野さんにもめちゃくちゃいい話をしてもらって。

中野 そうだっけ?

元良 はい。セカンド・サマー・オブ・ラブ(1980年代後半にイギリスで発生した、ダンスミュージックのムーブメント)の時期のイギリスの話とか。ビッグビート(電子音楽のジャンル)やPrimal Screamのボビー・ギレスピーの話もいろいろしてくれました。

中島元良(Dr)

中島元良(Dr)

サイトウ さっきPrimal Screamの話をしましたけど、マッドチェスター(1980年代後半から1990年前後にかけて、イギリスのマンチェスターを中心に起こった音楽ムーブメント)も大好きで。自分はJetとかKula Shakerから入って、The Stone Rosesとかを知ったんですけど、ロックがダンスミュージックに接近していた時期にすごく興味があったんですよ。中野さんから当時のことを聞けたのもよかったですね。

中野 僕がイギリスに行ったのはそういうムーブメントの終わりの時期なんだけどね。音楽雑誌とか噂話でだけ触れていたことを、実際に自分の目で確かめられたのは貴重だったのかなと。w.o.d.のようにふた回りくらい世代の離れたバンドマンと、そういう話をできるのもいいですよね。有益なことは共有したいし、これから3人が作っていくものに生かされるのであれば、昔話もします(笑)。