ナタリー PowerPush - 渡辺俊美

3アイテムを一挙リリース 粋な不良が現在の心境を語る

渡辺俊美が2月にTHE ZOOT16のベストアルバム「Z16」と、ジャズコンピレーション「BRUSHING WORKS INTER PLAY -My Favorite Swings- selected by TOSHIMI WATANABE selected by TOSHIMI WATANABE」を立て続けにリリース。さらに3月14日にはTOKYO No.1 SOUL SETの約3年ぶりとなるオリジナルアルバム「Grinding Sound」を発表する。

ナタリーではこの3タイトルのリリースを記念して、渡辺へのインタビューを実施した。今回のインタビューでは、それぞれの作品についてはもちろん、福島第一原子力発電所の20km圏内にある双葉郡富岡町を故郷に持つ彼の現在の心境についても語ってもらった。渡辺の自らを笑い飛ばすような言葉の間で揺れる思いを感じ取ってほしい。

取材・文 / 小野田雄 撮影 / 中西求

クラブカルチャーで生まれ変わった

──今回、俊美さん関連の作品として、TOKYO No.1 SOUL SET、THE ZOOT16、そしてジャズのコンピレーションアルバムがほぼ同時期にリリースされます。この3作のリリースにあたって、改めて俊美さんが行ってきたことを俯瞰したとき、混ぜたり混ざったり、つまりミックス感覚から生まれるものが作品化されてきたんだと思うんです。そして、そうした感覚には1980年代のクラブ「ツバキハウス」をはじめとする俊美さんの夜遊びの歴史が大きく関わっているんじゃないか、と思ったんですが。

なるほど。クラブと、それから原宿の影響は大きいですよね。同い年の(川辺)ヒロシくん、2つ下のBIKKEを含めた僕らが夜遊びするようになった当時、マガジンハウスが出していた雑誌「anan」と「POPEYE」が原宿のクラブカルチャーを取り上げたんです。そこで僕らは、街に生まれたひとつの文化に気付かされたんです。溜まり場というか社交場……それは音楽を通じて生まれると同時に、ファッションにもつながっていく。そんなクラブカルチャーのど真ん中で僕らは育ったというか、生まれ変わったんですね。

──「生まれ変わった」とは具体的にどういうことですか?

インタビュー写真

田舎の福島では人一倍音楽に詳しかったし、楽器もできた。そして、当時やってた剣道も県で一番になって大学には特待生で入ったんです。そんなふうに地元で天狗になって東京に出てきたら、「いやいや、スゴいやつ、山ほどいるわ」「うわ、東京すげえなー。これは中途半端な気持ちでいたら殺されちゃうぞ」って思わされて(笑)。そして、そこで感じた「こうなりたいな」「ああなりたいな」っていう思いが、クラブとか原宿とかに凝縮されたのかもしれない。そういう思いが言葉になくても、態度やファッション、趣味に反映されたんだと思うんです。だから今回、「Z16」の収録曲をノンストップミックスでつなげたのも、「僕はDJ世代なんだ。クラブカルチャーで生まれたんだ。“バンドやろうぜ!”じゃないぜ」っていうことを証明したかったっていうか。「BRUSHING WORKS INTER PLAY -My Favorite Swings-」ではジャズオタクの部分を出したかったということもあります。

──「しかし、単なる音楽オタクになりたくなかったのが俊美さんだと思うんです。俊美さんは、NIGOさんの「A BATHING APE」やBIG-O(SHAKKAZOMBIE)さんの「PHENOMENON」の先駆けとなる原宿のストリートブランド「セルロイド」「エマニュエル」「DOARAT」を立ち上げて、音楽とファッションのミックスもいち早く実践してきましたよね。

やっぱり、行動しないと生きてる感じがしないじゃないですか? 集めてるだけとか、知識だけとか、そういう人は学歴社会のなかで今までたくさんいたと思うんですね。僕はそういうものに対して、反発心や反骨精神があったので、大学を辞めたときから「勉強ができなくたって、勝負できるところはあるんじゃないか」と思ってやってきたんです。そういう意味では、無駄なこともたくさんありました。洋服屋を含めて、自分の経歴を振り返ったとき、「僕、ミュージシャンで本当に良かったのかな。もしかしたら、学校の先生とか、普通のサラリーマンのほうが合ってたんじゃないかな」とも思うんですけど、自分の中で音楽はすごく努力したことだし、最終的には「あ、もったいない。これはやり続けないと!」って思っちゃうんです。だから、お店やブランドは人に譲ってしまいましたけど、音楽は続けているっていう。

おしゃれな曲はなるべく禁止に

──ここからは、TOKYO No.1 SOUL SETのアルバム「Grinding Sound」についてお伺いします。この作品の制作は当初どのような形でスタートしたんですか?

SOUL SETに関して言うと、ここ数年はちょっとフラストレーションが溜まっていたかもしれない。というのも、2009年にリリースした「今夜はブギー・バック」のカバーから昨年のカバーアルバム「全て光」まで、レコーディングの方法論や作業は全て一緒で、ものを作るというよりは壊すことが続いていたんですよね。

──カバーというのは、原曲の解体や再解釈の作業ですもんね。

そう。だからこそ、逆に一から作品を作るという意味で、今回の「Grinding Sound」のレコーディングは楽しみでしたね。

──レコーディングエンジニアのILLICIT TSUBOIさんは、本作にどのような影響を及ぼしましたか?

インタビュー写真

彼はずっと僕らの近いところにいた人だし、かつてリミックスをお願いしたこともあったんですけど、アルバムで仕事をするのは初めてだったんです。ただ今回、3人の頭の中にアルバムの最終的なイメージが浮かばなかったので「イメージがないんだったら、想像を超えたものを作る人にトラックダウンを任せよう」と、TSUBOIくんにお願いしたんですよ。それで彼がトラックダウンで“壊した”音を聴いて、僕らもこのアルバムにおける良し悪しの判断がつきましたね。その意味で彼が果たした役割は大きかったと思います。しかしホント、あの人はどうかしていますよね(笑)。いい意味であんなに壊れた人は久々ですね。「こういう大人が日本にいるんなら、まだ大丈夫だな」って勇気が出ますよ。

──レゲエのようなビートとハードコアパンク感が融合したリード曲「Runaway」は、とてもユニークな楽曲ですね。このミックス感覚はクラブカルチャーを体験した人ならではというか。

そうですね。ロックなものがやりたいなとは思っていたんですけど、なかなか答えが出なかったんですよ。でも、そこに長年のDJプレイで培われたヒロシくんのアイデアが加わったことで、「Runaway」は誰にも想像できなかったものになりました。このビートを最初に作ったのは僕なんですけど、ヒロシくんがそれを増幅させたことによって、ここまでハードコア的な感じになって。だから、今回のアルバムに関して、3人の推し曲はそれぞれあると思うんですけど、僕の中で「2012年のSOUL SETは『Runaway』だな! この曲はほかの人たちにはできない」って思ったんですよ。今の3人は「こういうことをやったら、人からこう見られる」っていうような、人目を気にする意識は全くなく、面白いと思うことを素直にやってる。「Runaway」はそういう今のSOUL SETを象徴する1曲だと思いますし、こういう曲ができたことで、アルバム制作の力がみなぎったというか(笑)。

──はははは(笑)。

「Runaway」のようなハードコアな曲ができたことで、「おしゃれな曲はなるべく禁止にしよう」って雰囲気になりましたね。いや、はっきり言えば、おしゃれなほうに行くのは簡単なんですよ。でも、必要だったのは熱く男臭いSOUL SET節だったんです。そこまでたどり着くのは楽ではなかったんですけど、たどり着いてから完成までは早かったですね。

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渡辺俊美(わたなべとしみ)

1966年12月6日生まれ、福島県出身のアーティスト。1990年に結成したTOKYO No.1 SOUL SETのシンガー、ギターとしてデビュー。「ロマンティック伝説」「黄昏'95~太陽の季節」などのシングルを発表した後、1995年にアルバム「TRIPLE BARREL」でメジャーデビューを果たす。その後も「Jr.」「99/9」といったアルバムをリリースするが、2000年以降TOKYO No.1 SOUL SETとしての活動は休止となり、ソロユニットTHE ZOOT16を始動させる。2002年のシングル「Na-O-Su-Yo / Dirty Huggy」以降、2006年まで毎年作品を継続的に発表し続けた。また2010年には、ともに福島県出身の松田晋二(THE BACK HORN)、山口隆(サンボマスター)、箭内道彦(風とロック)と猪苗代湖ズを結成。2011年の東日本大震災発生後も精力的にチャリティ活動など展開し、シングル「I love you & I need you ふくしま」を発表した。そして、2012年2月にTHE ZOOT16のベストアルバム「Z16」、ジャズコンピレーション「BRUSHING WORKS INTER PLAY -My Favorite Swings- selected by TOSHIMI WATANABE」をリリース。同年3月14日にTOKYO No.1 SOUL SETの約3年ぶりとなるオリジナルアルバム「Grinding Sound」を発表する。