分島花音が2月13日にベストアルバム「DECADE」をリリースした。
昨年デビュー10周年を迎えた分島のベストアルバムには、本人選曲によるこれまでの代表曲に加えて今作のために録り下ろされた新曲「fragment ornament」を収録。彼女の10年間の歩みが凝縮された1枚となっている。この特集では、これまで「ファールプレーにくらり」「signal」「ツキナミ」など分島の楽曲のアレンジを数多く手がけてきた千葉"naotyu-"直樹を招き、分島との対談を実施。貴重な制作の裏話が次々と飛び出し、アーティスト分島花音の魅力が浮き彫りになるような濃密な対談となった。
取材・文 / 須藤輝 撮影 / 草場雄介
「ファールプレーにくらり」なら千葉さんだよね
──分島さんと千葉さんが初めてご一緒したのは「ファールプレーにくらり」(2012年11月発売の3rdシングル「ファールプレーにくらり / サクラメイキュウ」)ですか?
分島花音 初めてお会いしたのはそのシングルの制作のときだったんですけど……。
千葉"naotyu-"直樹 実は僕、kanon×kanonの1stシングル「カレンデュラ レクイエム」(2010年11月発売)でもアレンジで関わらせてもらってるんですけど、直接はお会いしてなかったんですよね。
分島 そう。で、それを踏まえて「『ファールプレーにくらり』なら千葉さんだよね」ってスタッフと話した記憶がありますね。千葉さんは私が作ったデモをすごく尊重してくださるというか、大切に扱ってくださってる感じがあって。だから安心できるし、「ファールプレーにくらり」はミュージカル調のオケだったので、そういうニュアンスをうまく生かしてくれるのは千葉さんしかいないと思いました。
千葉 ありがたいです。ただ、「ファールプレーにくらり」のデモを受け取ったときは正直「とんでもない曲がきたなあ」と。当時僕はストリングスアレンジの経験もほとんどなかったから、けっこうドキドキしながらやってましたね。あと、最後の最後に分島さんから「イントロにオーケストラのチューニングの音を付け足したい」という提案があって、そういう音素材を探した覚えがあります。
分島 そっか。でも、指揮棒の音はスタジオで録ったんですよね。
千葉 録りました。そのチューニングから、指揮者が指揮棒で譜面台を「コンコンコン」って叩く音を合図に曲がスタートするという小ネタを仕込んだんですよね。
──「ファールプレーにくらり」と同じシングルに収録された「サクラメイキュウ」のアレンジも千葉さんが担当されていますよね。
千葉 これ、どっちを先にやったんでしたっけ?
分島 確か「サクラメイキュウ」は、「ファールプレーにくらり」の1年くらい前に書いてるんですよ。この曲は「Fate/EXTRA CCC」というゲームの主題歌なんですけど、ゲームの発売に合わせてリリースしようとしたら、結果的に「ファールプレーにくらり」と重なって。だから、もしかしたら「サクラメイキュウ」が先かも。
千葉 僕もそんな気がしてきました。いずれにせよ、今となっては2曲ともけっこう異色なオケですよね。どっちも生ドラムじゃないし。
分島 「サクラメイキュウ」のほうがより打ち込み寄りというか。ゲームの楽曲なのでデジタルっぽい印象を持たせたいなと思って。
千葉 今だったらああいうドラムンベースにはしないでしょうね、申し訳なくて。当時は分島さんとの付き合いも浅かったし、僕も若かったんで(笑)。
分島 ふふ(笑)。
高校で同じクラスになったら友達にはならないタイプ
──それ以降はどういうやり取りをなさっていたんですか?
千葉 実は、もちろん最初に顔合わせはするんですけど、制作が始まっちゃうと直接やりとりすることはあんまりないんですよ。
分島 もうデモをお渡しして、千葉さんのアレンジを聴いて、「はい、最高」みたいな。ただ、たまに私が変にこだわったりするときは何度も要望を出すこともありますね。覚えてるのだと「killy killy JOKER」(2014年4月発売の5thシングル)のDメロで、「ここはチャイコフスキーの『白鳥の湖』みたいに」とか、わけのわからないことを言ってました。クラシックだけどおどろおどろしい感じを出したくて。
千葉 ありましたね。でも、それもマネージャーさんやディレクターさんを間に挟むことが多いです。今こうやって対談させてもらってますけど、お互いにしゃべるのは得意じゃないんで(笑)。
分島 千葉さんって、私の中では優等生タイプなんですよ。一方で私は不良タイプというか、あんまりいい子じゃなかったので、例えば高校で同じクラスだったら友達にはならなそう(笑)。
千葉 ははは(笑)。
分島 でも、千葉さんは私が曲の中で表現したいことを汲み取るスキルが半端なくて。私のデモってホントに骨組みしかなくて、めちゃくちゃ想像力が豊かな人じゃないと完成形が見えないようなものなんですけど、その骨に肉付けして、素敵な色まで付けてくれる。しかも、そこにはもともと私がイメージしてなかった色も追加されていて、毎回新しい発見があるというか。自分の予想の範囲を超えて曲の可能性を広げてくださるんですよ。
千葉 いや、分島さんの曲は、ご自身の曲であれほかのアーティストさんへの提供曲であれ、デモの段階から芯が通ってるんですよ。アニメの主題歌であればきちんと作品のことも考えてるし、だから方向性とかやりたいことがちゃんと伝わってくるんでしょうね。
──ちなみに、分島さんにとって予想外の色が付いた曲は?
千葉 風の噂で聞いたんですけど、「Mayday!」は分島さんの思っていたアレンジとは違ったとか?
分島 ああー。「Mayday!」は「RIGHT LIGHT RISE」(2015年4月発売の7thシングル)のカップリングで、今回のベスト盤には収録されていないんですけど、あれはね、難しいよ。
千葉 曲がシンプルだから、解釈次第でいかようにもできるんですよね。最終的に、だいぶヘビーな感じになりましたけど。
分島 うん。私はもうちょっとダンサブルなものをイメージしてたんですけど「これはこれでいいな!」と。そうやって当初の予定とは違っても、結果的にプラスになることが多々あります。
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