分島花音×千葉"naotyu-"直樹|ベストアルバムに詰まった10年間の歩みと、伝えたいこと

サビのコードがめちゃくちゃ多い

──そのシングルの表題曲「RIGHT LIGHT RISE」も、ストリングスではなくトランペットを効果的に使っていらっしゃいますよね。

分島 これはアニメ「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」のエンディングテーマだったんですけど、作品のイメージ的にも、曲のテンポ的にもニュアンス的にもあんまり優雅な感じじゃないなと。そのことは千葉さんとも共有できていて、チェロは入っているんですけど、弦楽器よりももっと元気な感じを出せる金管楽器を入れようかという話になりました。

千葉"naotyu-"直樹

千葉 エンディングテーマなんだけど、行進とかパレードみたいな雰囲気が作れたらより楽しい曲になるかなと思って、イントロを考えてた記憶がありますね。あの間奏の“旗振り”パートはどういう経緯で生まれたんでしたっけ?

分島 確か楽曲の制作段階で、スタッフの人たちと「分島の単独ライブだけじゃなくて、フェスみたいな大きいイベントでもみんなを巻き込めるようなステージングができたら面白いんじゃないか」みたいな話をしていて。前から自分のライブではフラッグを振る習慣があったので、「じゃあ新曲にはフラッグを生かせるパートを設けましょう」という感じだった気がしますけど……どうだったかな。やっぱり記憶が曖昧で(笑)。

──千葉さんが特に好きな曲はありますか?

千葉 もちろん全部好きなんですけど、強いて挙げるなら「signal」(2014年2月発売の4thシングル)かなあ。

分島 「signal」はファンのみんなからの評価もすごく高い曲ですし、千葉さんがAメロのコードを褒めてくれたのもよく覚えてます。アレンジもチェロを前面に押し出しつつ、ギターもピアノもドラムもしっかり鳴っていて。あと、私はクラシック育ちなのでコード進行で曲を作っているわけではなくて、ピアノの和音やクラシックの奏法の和音で作っているんです。そうすると「サビのコードがめちゃくちゃ多い」と言われて、ギターで演奏するときに減らすという話になったんですけど、「減らしたらこのニュアンスが出なくなるので、今のままでいきたい」と食い下がった気がします。

千葉 確かに、ずっと四分音符で降りていったりしますもんね。

分島 「そういうのはあんまりバンドとかの編成ではしないよ」と言われて「そっか」って。

千葉 でも、それを気にしたら面白くないですよ。それがあるから分島さんの曲になっているし。しかも「signal」は歌もすごくいいんですよ。

分島 ありがとうございます(笑)。

アイデア出てこないと、自転車に乗るよね

──今回のベスト盤の収録曲の中で、分島さんにとってターニングポイントとなった曲があるとすれば、どの曲でしょう?

分島 やっぱり、さっきもちょっと話に出た「killy killy JOKER」は大きいですね。この曲は初めてアニメのオープニングテーマになったんです(アニメ「selector infected WIXOSS」)。それまでエンディングテーマは何曲か書かせていただいたんですけど、オープニングは作品の顔だし「絶対にいい曲にしたい」という気持ちで臨んだので思い入れもあります。実際、この曲がきっかけで私の音楽を知ってくれた人もたくさんいて、それ以降、客層もライブの動員数も確実に変わった記憶があるので、1つ大きな手応えを感じた曲でもあります。

千葉 当然、僕も生半可な気持ちでアレンジするわけにはいかんなと。特にイントロが大事だと思ったので、イントロを形にするだけで1週間くらいかかったんです。その間、毎日作っては「違う!」の繰り返しでずっと悶々としていて、それは今でも鮮明に記憶に残ってますね。悩みながら自転車に乗ってラーメン屋さんに行ったり。

分島 アイデアが出てこないと、自転車に乗るよね。私もよく自転車で隣駅まで行ってる。

千葉 そのラーメン屋さんに着いたら、ディレクターさんから催促の電話がかかってきたこともよく覚えています。ほとんどノイローゼだった(笑)。

分島 すみません(笑)。この曲は全体的にストリングスを入れて、なおかつ間奏を長めにとって、チェロとストリングスの掛け合いもあって。かなり弦をフィーチャーしたアレンジにしてもらいました。

千葉 がんばりました(笑)。

──それ以外に思い出深い曲は?

分島 「ツキナミ」(2015年2月発売の3rdアルバム「ツキナミ」収録)も、いまだにお客さんから「歌詞も曲も好きです」という声をたくさんいただく曲ですね。これはアニメの主題歌ではなくアルバムのタイトルトラックなんですけど、ライブでもすごく評判がいいので印象に残っています。わりとミュージシャンや音楽業界の関係者にも「好き」と言ってくださる方が多い曲でもありますね。

千葉 「ツキナミ」はいろんな声をもらいますよね。僕の周りにもそう言ってくれる友達が何人もいました。

分島 この曲はサビっぽいサビがないじゃない? Aメロからシームレスにサビにつながっていくというか、Aメロ→Bメロ→サビという王道的な流れの曲ではない。だからAメロ以降をBメロのニュアンスにするかサビのニュアンスにするか迷って、「どうする?」みたいなやりとりがありましたよね。

千葉 あったあった。落ちサビっぽくしたり逆に勢いをつけたり、いろいろ試した記憶があります。あと、ストリングスセクションは当然ありつつ、バンドのメンバーは結果的に特殊な布陣になったんですよね。歌はもちろん主役ではあるんですけど……。

分島 それぞれの楽器が意思を持って暴れてる感じがほしくて。

千葉 ピアノが菊池亮太くんで、ベースとドラムはヒトリエからイガラシ(B)くんとゆーまお(Dr)くんが来てくれて、ギターは九州で岸田(岸田教団&THE明星ロケッツ)チームが録ってくれたという。

分島 はやぴ~さんと岸田さんがね。はやぴ~さんのギターはかなり主張が激しかったので、バランスを取るのがけっこう難しかったんですけど(笑)。

千葉 「ツキナミ」はもう「全員で行っちゃえ!」みたいな曲になってますよね。僕は基本的には聴かせたい楽器をパートごとに入れ替えるのが好きなタイプではあるので、ちょっと異色かもしれない。

表現をしていない自分が想像できない

──今回のベスト盤にはTwitter上でのリクエスト投票によって収録された曲もありますが、この結果についてはどうご覧になられましたか?

分島 だいたい自分も入れたいなと思っていた、ライブでもよく歌う楽曲がたくさん票をもらっていたので、いい意味でそんなに驚きはなかったですね。

千葉 「無重力」(4thシングル「signal」カップリング曲)とか「さんすくみ」(3rdアルバム「ツキナミ」収録)が入ってるのはうれしいですよね。

分島 うれしい。特に「さんすくみ」はタイアップも何もない、アルバム中の1曲にすぎないんですけど、音源化する前からさんざんライブでやっていて、もはや定番曲っぽい扱いになっていたので。

──分島さんの曲としては珍しい、いわゆるエレクトロポップですよね。

分島 でも、ライブでは編成によってバンドアレンジにしたりジャズアレンジにしたりしてるんですよ。それもあってか、音源になったときにみんな驚いたみたい。

千葉 年末のライブのMCで分島さん面白いことを言っていましたよね。

分島 ああ、「そもそもこれ、Perfumeさんに歌ってほしくて書いた曲なんですよ」って。だからピコピコしてる(笑)。

左から分島花音、千葉"naotyu-"直樹。

──比較的新しい曲として、同じくアルバム曲の「Unbalance by Me」(2016年11月発売の4thアルバム「luminescence Q.E.D.」収録)も収録されています。この曲の歌詞って、とりわけ熱量が……。

分島 あります? 私はアニソンも歌うし、シンガーソングライターとしてオリジナル曲も作るし、絵を描くのも好きだし……多方面に興味があって全部やりたいという欲がある人間なんですよ。それを指して「二兎を追う者は一兎をも得ず」じゃないけど、あれこれ手を出さずに何か1つのことに専念すべきなんじゃないかと思う人もいるかもしれない。でも私に限っては、やりたいことを1つに絞っても結局ほかのやりたいことが気になって、せっかく1つに絞ったやりたいことにも集中できなくなって全滅しちゃうんです。

千葉 それは側で見ててわかる気がします。

分島 あれこれ手を出している私は一見するとアンバランスに見えるかもしれないけれど、どれも自分にとっては必要な要素で、どれも切り捨てたくないし、どれか1つでも切り捨てるとバランスが崩れて全部失ってしまう。だから私は二兎も三兎も追うし、二足でも三足でも草鞋を履くし、誰に何と言われようと興味のあるものに関しては全部やりたいんですよね。ファンのみんなにしても、アニソンきっかけで私のことを好きになってくれた人もいれば、シンガーソングライターとしての私を応援してくれている人もいる。私にとってはどちらのファンも大切だし、どちらも絶対に手放したくない。そういう思いを書いた曲です。

──貪欲ですよね。

分島 逆に言うとそれしかないというか、表現をしていない自分が本当に想像できなくて。それが人生のすべてになっちゃっているので、そのぶん人として何かが欠如してると思うんですけど(笑)。でも、それだけ表現に重きを置いて今まで生きてきたので、そこは突き詰めて、できる限りのことに挑戦したいなという気持ちが常にありますね。