分島花音×千葉"naotyu-"直樹|ベストアルバムに詰まった10年間の歩みと、伝えたいこと

誰かのために、私は曲を作ろう

──この10年間で、シンガーソングライターとしての表現にはどのような変化がありましたか?

分島 めちゃくちゃあるんですけど、まず、私は人に向けて音楽を作ることをまったくやってこなかった人間なんですよ。デビュー前はライブもしてないし、曲を聴いてもらう相手もいないので、細々とデモテープだけを作っているような状況で。だから作る曲も内向きなものが多かったし、デビューしたあとも最初はプロデューサーがいて、その方にいただいた曲に歌詞を付ける感じだったので、自分を出すというよりは物語を作るような感覚でいたんです。

千葉 なるほどね。

分島花音

分島 でもやっぱり歌を届ける相手が未知数すぎて、どういう言葉を紡いだらいいのか探り探りになっていて。それが、セルフプロデュースするようになって、ようやく自分の音楽というものと向き合うことができたんです。そこからちょっとずつ自分の内面を音楽に反映させていけるようになったんですけど、その段階ではまだ「自分が表現したいから歌う」という感覚だったんですね。でも、さらに私の曲を聴いてくれる人たちが増えると、もっとたくさん聴いてほしいし、その人たちに届けたい言葉を歌詞にしたいと思うようになり、徐々に「誰かのために、私は曲を作ろう」という気持ちが強くなっていって。アニソンにしても、以前は作品の世界観を忠実に再現することに注力していたんですけど、今はその作品の向こうにいるお客さんにも喜んでもらえる曲を作ることをよく考えますね。

千葉 どんどん視点が外向きに、あるいは俯瞰的になっていってるのはデモ音源からも感じますね。

分島 曲調はどうですか? 「分島っぽいな」と思います? それともバリエーションが散らかってる感じがします?

千葉 いや、散らかってるんじゃなくて、もともと幅広く作れる人であるのは間違いなくて。それでもやっぱりメロとコードを見たとき明らかに「分島さんだな」と毎回思うので、やっぱり1本芯が通ってるんですよ。それは歌詞にしても同じです。実際、僕も今回のベスト盤で相当ひさびさに「ファールプレーにくらり」以前の曲をじっくり聴いたんですけど、もう「プリンセスチャールストン」(2010年7月発売の2ndアルバム「少女仕掛けのリブレット ~LOLITAWORK LIBRETTO~」収録)ですでに個性を確立してますよね。

分島 ホントに?

千葉 ちょびっとだけ声がかわいらしかったけど。

分島 それはね、まだ若いから(笑)。

みんなへ言っておきたいことがある

──ベスト盤には録り下ろしの新曲「fragment ornament」も収録されています。その歌詞は、現時点での分島さんの決意表明のようですね。

分島 そうですね。10年やってきて、私はファンのみんなに「自分の好きなアーティストは分島花音です」と誇りを持って言ってもらえるようなアーティストになれているのかなと考えたときに、まだまだ未熟な部分があるなと感じて。私は基本的に、自分の意志とか目標を人にわかるように掲げるタイプではないんですよね。よく言えば「不言実行」というやつなんですけど、それでも黙ったままだと私を応援してくれている人たちを不安にさせてしまうんじゃないかなと。ライブのMCでは以前「私はもっと大きなステージにみんなを連れて行きたいし、みんなが誇れるミュージシャンになりたいし、もっと面白い曲とか飽きない曲をたくさん作っていきたい」と伝えたんですね。今度はそれを曲にしたいという思いから書いた楽曲です。

千葉 僕もわりと言いたいこと、言うべきことを心の内にしまいこんじゃうタイプなんですけど、でも言わなきゃわからないこともあるよなと、この曲を聴いて思いましたね。

分島 私は「luminescence Q.E.D.」(4thアルバム「luminescence Q.E.D.」収録)という曲の歌詞で「去るものを追わず佇んで」と書いているんですけど、やっぱり去られるのは悲しい。だから「fragment ornament」を書いた。昔から私は人をつなぎ止めることが苦手というか、「行ってほしくない」「戻ってきてほしい」と伝えるのが下手で、それで後悔したこともたくさんあったんですね。本当に私は言葉が足りなくて。なので、そういう戒めも込めて、ちゃんと伝えなきゃいけないなと。

──この曲のアレンジは堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)さんですが、堀江さんとご一緒するのは今回が初めて?

分島 私名義の曲をアレンジしてもらうのは初めてですね。提供楽曲であれば、例えば私が作詞して三月のパンタシアのみあちゃんが歌ってくれた「ピンクレモネード」(参照:アニメ「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」特集 分島花音×千葉"naotyu-"直樹×みあ(三月のパンタシア)座談会)みたいな形で何回かお仕事はさせてもらっていて。で、今回のベスト盤に入れる新曲は熱量のあるものにしたいと思って、前々からご一緒したかった堀江さんにお願いしました。

──堀江さんらしい、ラウドなギターロックになりましたね。

分島 そう。堀江さん特有のギターの音色だったり、堀江さんのカラーを出してほしいというのはお伝えしました。それでいて、ストリングスとピアノもがっつり入って、それぞれがちゃんと調和してるんですよね。

──千葉さんから見て堀江さんのアレンジはいかがですか?

分島 なんか気まずい。浮気してるみたいじゃん(笑)。

千葉 ははは(笑)。いや、失礼な言い方かもしれないけど、さすが堀江くんだなと。特に、あの長いアウトロ。

分島 あの長さで入れるかどうか、迷ったんですよ。

千葉 2分くらいありますよね。そこにギターソロをあれだけ乗せるという発想は自分にはなかったし、なおかつリスナーを退屈させない。うん、「堀江くんらしいな」と思いながら聴いていました。こんな素敵な曲にしてくれちゃって、少なからず嫉妬してる部分もありますけど(笑)。

みんなに感謝の気持ちを伝える歌

──この「fragment ornament」で大団円かと思いきや、ボーナストラック「ありがとうのうた(Live)」が最後に入っています。

分島 はい。これは、2018年の7月に横浜ランドマークホールでやった10周年記念ライブのために書き下ろした曲です。曲名の通り、みんなに感謝の気持ちを伝えたくて書いた曲なんですけど、お客さんも一緒に歌ってくれて、それをそのまま収めました。

千葉 流れ的にアンコールみたいですし、すごくいい雰囲気ですよね。

分島 うん。やっぱりライブくらいじゃないですか。自分の声を直接届けて、ファンのみんなと言葉を交わせる場って。そこは大事にしたいと思っていて、MCもいつも事前にかなり練ってるんですよ。普段そんなにたくさんしゃべるほうじゃないので、しゃべるときはしっかりしゃべろうと思って。そもそも10年やってこられたこと自体がすごいことだし、それはもちろん曲を聴いてくれる人たちや、千葉さんをはじめ私のことを支えてくれる人たちがいなかったら成し得なかったことなので、そこはどれだけ感謝してもし足りないですよね。しかも、そうやってたくさんの人の力を借りて、今までの歴史を収めたベストアルバムが出せたというのもすごく恵まれていることなので、まずはこのアルバムをより多くの人に届けたいし、ベストを出したからにはライブもちゃんとやりたいです。

ライブ情報

分島花音 10th ANNIVERSARY ONE-MAN LIVE「DECADE」
  • 2019年5月25日(土) 大阪府 Shangri-La
  • 2019年6月2日(日) 東京都 TSUTAYA O-WEST