町屋(和楽器バンド)×ツミキ×かいりきベアが語る、8年ぶりのボカロカバー集「ボカロ三昧2」の魅力 (2/3)

原曲への愛を感じる和楽器バンドのアレンジ

──では「フォニイ」と「ベノム」のカバーについて、町屋さんに今回のアレンジ面での工夫や制作秘話などをお聞きしたいと思います。まず「フォニイ」は人間が演奏しないことを前提に作られたような非常にテクニカルな楽曲です。

町屋 僕は爪でギターを弾くことが多くて、普段は伸ばしているんですけど、この曲はタッピングが多すぎるので、そのために今は短くしているんですよ。

ツミキ 「フォニイ」の弊害がそんなところに(笑)。

左からかいりきベア、ツミキ、町屋(和楽器バンド)。

左からかいりきベア、ツミキ、町屋(和楽器バンド)。

町屋 近年はギターのスタイルもかなり進化してきていて。タッピングを多用してピアノのようなフレーズを弾くことが主流になりつつあるので、ギターのスタイルをアップデートすることも必要だと考えて、この曲では無茶をしてみました。シンセループの部分やランダマイズをかけている部分をほかの楽器に弾かせるのは酷だと思ったので、そこは自分ががんばろうと。ランダマイズって、同じ音でもフォルマントの感じが変わるので、「フォニイ」も同じ音でも弦を変えてサウンドを変化させています。原曲を崩さず、いかに消化してアウトプットするかに注力しました。

ツミキ 和楽器バンドさんのカバーを聴いて「すごく愛情を感じるアレンジだな」と思いました。もちろん、自分のエゴを出すことも素晴らしいと思うんですけど、今回の「フォニイ」のカバーは原曲のよさと、和楽器バンドさんならではのよさがどっちも生きてるなって。それってすごく難しいことですし、楽曲に対しての愛情がないとできないと思うので、とてもうれしかったですね。

かいりきベア 原曲の形をきちんと残しつつも、和楽器バンドさんの楽曲としてブラッシュアップされてますよね。新しくなった「フォニイ」を楽しめるというか。

町屋 そもそも、日本人は和楽器の音を聴く機会があまりないですから。

──でも「ボカロ三昧2」を聴いていると、和楽器の音がDNAに刻まれているような感覚にもなりますよね。

ツミキ 僕もこのカバーを聴いてそれを感じました。自分には和テイストなメロディを書くクセがあると思っているんですけど、和楽器バンドさんのカバーを聴いて、自分のそういう面を改めて気付かされたというか。このカバーを聴いて「ああ、この音って自分のメロディとすごく合っているな」みたいな発見がありました。

──なるほど。

ツミキ 同時に「やられた!」とも思いました。もともと「人には真似できないような楽曲で、人にしか表現できないようなものを伝えられたらいいな」と思っていたので、「演奏された……!!」という感覚で(笑)。それに、今のトレンドの音楽として、自分の名前を取り上げてくださったこともすごく光栄でした。

かいりきベア それは僕もめちゃくちゃ光栄でした。

カバーすることで得た経験値でアップデート

──アルバム全編を通して、さまざまな楽器や音が鳴っているパートでも、それぞれの音が重ならないよううまくアレンジされているのも印象的でした。このあたりはいかがでしょう?

町屋 そのへんはやっぱり、リズムトラックをタイトに作ることと、ギターの本数を減らすことですね。僕らの場合、メンバーの数だけでパートが8つもあって、さらにシンセを足したりするので、引き算をどれだけやるかという設計図が重要なんです。「フォニイ」だと、僕のギターはピアノの左手のパートを弾きつつ、本来箏が弾くはずのAメロの折り返しなどに箏の音域から外れる音があるので、そこもギターにスイッチしたりしています。そんなふうにほかの楽器ではできない要素を埋めていくようにタッピングしているので、ギターのパートは技術的にも大変でした。でも「フォニイ」のように挑戦的な楽曲が生まれることで、音楽シーン自体が進化していくと思いますし、今回のように和楽器を軸にボカロ曲を再構築する我々のテクニックもどんどんアップデートされていく。そういう意味でも、すごくいい刺激になりました。自分たちが今後オリジナル曲を作るときにもいい影響を与えてくれる気がします。

──カバーすることで刺激を受けているんですね。ちなみにツミキさんは「フォニイ」をどのように作っていったんでしょう?

ツミキ 「SAKKAC CRAFT」(2021年発売のアルバム)を作ったあとに自分の中で気持ちの変化があって、「さらに人のためになる音楽を書きたい」と考えるようになったんです。そして「自分の美学は崩さずに、それをオーバーグラウンドで通用するものにしよう」と試行錯誤する中で、一番挑戦的な楽曲に仕上がったのが「フォニイ」でした。この曲のBメロは最初「パパッパラパッパララッパッパ」というフレーズがなくて、ヒップホップ寄りでここまでキャッチーではなかったんですよ。それを自分ではちょっと目をつむりたくなるくらいオーバーグラウンドなものに全振りして変化させていきました。

ツミキ

ツミキ

和楽器の特性をどう生かすか

──かいりきベアさんの「ベノム」カバーのアレンジについても教えてください。

町屋 「ベノム」は収録曲の中で唯一、当初の設計図から外れた曲でした。レコーディング期間の最後のほうに録ったんですけど、それまでに四つ打ちの楽曲が続きすぎたこともあって、ドラムの山葵が「もう四つ打ちを叩きたくない!」と言い始めて(笑)。じゃあ少しフィールを変えようと、イントロのフレーズを耳に飛び込んで来る印象はそのままにファンクのフィールに変えました。なので、それに合わせて全部を作り直していったんですよ。

──それは大変な作業ですね。

町屋 あと原曲にめちゃくちゃギターが入っているので、「そのままコピーしても仕方ない」と思って極力ギターのフレーズを和楽器に割り振って、ギターは別のパートを弾きました。なので原曲で印象的なイントロのギターも和楽器で再現しています。この部分はエフェクターがかかっている歪みをどう再現するか考えたとき、和楽器のもともとの音程の不安定さ、ピッチの悪さを生かそうと思い付いたんです。箏と尺八でピッチがズレて揺らいでいる状態を作り出しました。

ツミキ それをコーラスみたいにしていったんですか?

町屋 そうなんです。そうやって和楽器の特性をどう生かすかを考えていきました。個人的には、近年ピッチが合わないことのよさを感じていて、平均律がすべてではないと考えています。音楽が進化していく中で、ポップスやダンスミュージックにアフリカンポリリズムが取り入れられていったように、平均律の中に、ピッチが不安定なものが入ってもアリになってきている。そう考えると、和楽器なんてまさにピッチが不安定な楽器なので、揺らぎを表現するには非常に有効的なんじゃないかって。

町屋(和楽器バンド)

町屋(和楽器バンド)

かいりきベア うわあ、すごく面白いですね。

ツミキ 僕はもう何を話しているのかわからなくなってきました(笑)。

町屋 (笑)。ただ、僕はもともと歌詞に合わせてギターのフレーズを考える人間なんですけど、「ベノム」の歌詞はかなり攻撃的で社会に対する不満がすごいじゃないですか。

かいりきベア そうですね。

町屋 なので、そういうところはバシバシとギターを弾かせていただきました。

ツミキ 僕はベアさんの作品は最先端の技術を駆使した音像になっていると思っていて。今回それを和楽器という本当に昔からある楽器でアレンジし直しているのが面白かったです。