「そんなに簡単に死にたいって言っちゃうんだ」
──「未成年のフィクション」というテーマを定めて最初に作られた曲が「わたしのアール」ということですが、この曲では自殺しようとしている女の子のことが描かれています。いきなりヘビーな内容に振り切りましたね。
やっぱりフィクションだからこそできた部分ではありますよね。これは自分の話としては書けないですし、僕は別にそんなに死にたくないですから(笑)。今の若い子を見てると「そんなに簡単に死にたいって言っちゃうんだ」と思うことがあるんですよ。でも自分のことを思い返してみると、別に当時本気で死にたいと思ったことはないんですけど、そういう気分になるのもわかるなあという気持ちはあって。さっきも言いましたけど僕は孤独を感じていましたから。
──和田さん自身が感じていた「孤独」と、若者のカジュアルに「死にたい」と言う感覚その両方をストーリーテリングの妙で聴かせる魅力がこの楽曲にはあります。物語性というのは今作で意識された部分なのでしょうか?
「わたしのアール」はフィクションを作ろうと明確に思った曲なので特にそうですけど、自分を捨てて曲を作りつつも「これは自分が言いたいことだ」と気付いた曲に関しては、ストーリーの展開の面白さより「この話を通して何を言うのか」という部分を重要視していった感じはあります。だからストーリー展開で凝ったのは「それは、いいことだよ」とか最初の頃に作った曲に多いかもしれませんね。
──「わたしのアール」の女の子は自分で死ぬ理由を求めて“不幸探し”をしてる感じがあって、それは裏を返せば“自我の肥大化”につながると思うんです。そこは本作の「キライ・キライ・ジガヒダイ」「ぼんじんパレード」のテーマ性とも共通するなと思って。
今言われて初めて気付きましたけど、確かにそういう部分はあると思います。でも「わたしのアール」に関しては自我の肥大化を意識して作ったわけではなくて、同じ人間が作ったからそうなっちゃったんですかね(笑)。
心を閉ざしてもいい
──それと本作の収録曲は「未成年そのものを書いた曲」と「未成年に対するメッセージ性が強い曲」」という2つの傾向に分かれると感じたんですが、そこは意識的な部分でしょうか?
そうですね。特に「おどれ!VRダンス!」や「ぼんじんパレード」は未成年に向けたメッセージが入ってると思います。「おどれ!VRダンス!」に関しては「心を閉ざすことは決して悪いことではない」ってことを言いたかったんですよ。例えば一般的に「将来の夢を持て」とか「人の目を見て話せ」とか「人と仲良くしないといけない」って言われますけど、別に無理にそうする必要はないと僕は思っていて。そういう特定の道徳は、ある価値観に沿って作られたものなので、一律にそれが正しいと思うような呪いにかかることはなくて、それができなかったら心を閉ざしてもいいんです。
──もう1曲の「ぼんじんパレード」で伝えたかったメッセージはなんでしょうか?
「ぼんじんパレード」のメッセージはちょっと別のベクトルで「人とは仲良くしようね」という曲になっています。ただこの曲に関してはあまり中高生向けだとは思ってなくて、逆に未成年にはこれが伝わらないと言うか、わかってほしくないという気持ちもありますね。
──確かに「ぼんじんパレード」では、自分が凡人であることを受け入れる心持ちが表現されていて、未来ある若者に向けた感じではないですね(笑)。でも世の中の人のほとんどが凡人なわけで、それは裏を返すとみんな特別な人でもあるということですよね。
まさにそうなんですけど、逆に「1人ひとりが特別だからこそ、君がどれだけ特別でも凡人でしかないんだよ」っていう悲しみでもあると思っています。
──セルフライナーノーツで和田さんはご自身のことを「間違いなく僕は凡人です」と評価していました。それを受け入れたうえでアーティスト活動を続けることについて、どう感じているのでしょうか?
僕は天才と凡人の間にそれほど能力の差はないと思っているんです。やりたいことをやって能力を発揮できる、もしくはやりたいことが完全に時代に合ってる人が天才だと思うんです。僕の場合は「モノクロアンダーグラウンド」で自分のやりたいことをやったけど、世間の評価としては期待した以上の反響を得られなくて。それで自分は凡人なんだろうなと思ったんです。でも不思議な話で、自分を捨てて曲を作った途端に「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」が注目を集めて。そのときに「天才じゃなくてもいいんだ」ということに気付いたんです。
──なるほど。
「天才じゃなくても戦える」と思ったとき、これは別にディスるような意図はないんですけど、周りを見るとみんな天才になりたがってるように思えたんですよ。自分もかつてそうだったとはいえ、そのことに違和感を覚えて。“天才枠”ではない人たちが戦える、どこか違うステージがあるんじゃないかと考えているんです。この感覚はずっと言語化できてなかったんですけど、去年ドレズコーズが「平凡」というアルバムを出したときにどこか腑に落ちる感覚があって。「平凡」が世の中にリリースされたお陰で、僕はこの気持ちを言語化できるようになったんだと思います。
──「ぼんじんパレード」は、ご自身の気持ちを言語化する試みの1つだったんですね。
それをいかに未成年のフィクションに乗せるか、という作り方になってます。だから「わたしのアール」の頃と比べて作り方が全然違うんですよ。
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曲の主人公が許される
- 和田たけあき(くらげP)「わたしの未成年観測」
- 2018年3月14日発売 / Subcul-rise Record
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初回限定盤
[CD+コミック]
3500円 / SCGA-00069~70 -
通常盤
[CD]
2300円 / SCGA-00071
- 収録曲
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- わたしのアール
- チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!
- アマゴイ未成年
- チェチェ・チェック・ワンツー!
- ぼんじんパレード
- わすれんぼう
- おどれ!VRダンス!
- キライ・キライ・ジガヒダイ!
- トラッシュ・アンド・トラッシュ!
- ひとごろしのバケモノ
- それは、いいことだよ
- わたしの未成年観測
ボーナストラック
- サヨナラチェーンソー
- 和田たけあき(くらげP)
(ワダタケアキカッコクラゲピー) - 初音ミクを使用したVocaloid楽曲「くらげ」を2010年4月にニコニコ動画に投稿して以降、「くらげP」「electripper」「和田たけあき(くらげP)」といった名義でオリジナル曲を発表し続ける。またギタリストとして古川本舗やこゑだなど、さまざまなアーティストのライブやレコーディングに参加。2016年2月に公開した楽曲「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」はYouTubeで2018年3月までに710万再生を突破している。2018年3月にはVocaloid曲で構成されたオリジナルアルバム「わたしの未成年観測」をリリースする。