渡辺淳之介(WACK)+松隈ケンタ(SCRAMBLES)|アイドル界に旋風巻き起こす仕掛け人たちの流儀

「オーケストラ」事件の裏側

──でもメンバーに対する愛がある一方で、渡辺さんが彼女たちに過酷な試練を与えたり、めちゃくちゃなことをさせる場面も少なくないですよね。あれはどういう意図なんでしょう?

渡辺 うーん、落ち着いちゃうのがもったいないって気持ちがあるのかな。やっぱりドキドキしないと面白くないじゃないですか。って言うのは「ウォーキング・デッド」観てて思ったんですよ。最初に事件が起きて「えー!」ってなって、最後にもまた大どんでん返しがあって「ええー!」みたいになるじゃないですか。あとこないだ「龍が如く」やっててわかったんですけど、15分ぐらいで1つのミッションが終わるんですよ。それくらい早いペースで動きがないと今のお客さんは飽きちゃうんじゃないかなって。

──刺激を与え続けたい?

渡辺 そういう感覚はありますね。毎週のように新しい話題がないと物足りなくなる。劇薬みたいなものなんで難しいんですけどね。

──だからメンバーをトレードしたり、楽曲を奪い合ったりもするんでしょうか? 4月の「WACK EXHiBiTiON」でBiSHの「オーケストラ」がGANG PARADEの持ち歌になるというやりとりには、本気で動揺していたファンも少なくなかったと思いますが。

左から渡辺淳之介、松隈ケンタ。

渡辺 僕はメンバーのトレードは名采配だったなと思ってるんですけど。まあ楽曲を取り合う企画はちょっと間違えたかなって(笑)。

──そうなんですか?

渡辺 楽曲がそんなに大事なものだと思ってなかった(笑)。だからびっくりしましたよね。企画自体はエイベックスにも事前に話してたし、誰からも反対意見はなかったんです。でも実際「オーケストラ」を取られた瞬間にちょっとみんな青ざめてて「あれ、これもしかしてヤバい?」みたいな。

──そこは想定外だったと。

渡辺 あのときは僕もエイベックスも「BiSHが負けるはずない」って思ってたんですよ。ファンの数は圧倒的に多いわけだし。でもハシヤスメ(・アツコ)が最後の投票前のスピーチでふざけたんですよね。それでそのポイントの差で負けたんです。真面目に「『オーケストラ』を取られたくない!」って話していればどう考えても大丈夫だったのに。だから「お前ふざけんなよ。絶対これヤバいからな」って言いましたもん。

──ハシヤスメさんなりのサービス精神だったんですかね。

渡辺 でも僕はハシヤスメにはそういう場面で“素”が出せるようになってほしくて、そう思って合宿に呼んだんです。本人があのあと反省して「私がいけなかったです」ってちゃんと言ってたんで「少しは成長したのかな」とは思いましたけどね。

──松隈さんはあの事件はどういうふうに見てたんですか?

松隈 僕は無ですね。

──無?

松隈 歌うグループが変わるんだったら「じゃあボーカルもう1回録り直しか」とか「その制作費はどうなるんだ?」とか、そういうことを考えてました(笑)。ファンの人が曲を大事に思ってくれるのは作曲家としては当然うれしいですけど、そのあたりの采配は渡辺くんに任せているので。ただ、あのときはメンバーが自分たちの楽曲を歌えることを当たり前だって思ってしまってたのかなって思うし、プロとして考えたときにそれはよくないなっていう気持ちはあります。

渡辺 うん、あの企画を通してみんな自分たちの曲に対する思い入れを確認したと思いますね。

「WACK総選挙」の狙い

──2017年末には「WACK総選挙」という企画もありました。メンバー全25名対象のファン投票企画でしたが、あれはやってみてどうでしたか?

渡辺 まあそんなに面白くなかったですよね(笑)。

──と言うのは?

渡辺 最初から別に話題になんなくていいって感覚はあって、投票券もシングルじゃなく今回アルバムに付けたんで、お客さんもそんなに買えないだろうし、めっちゃ煽って枚数買わせるつもりもなくて。でも実際どうなるのかを見てみたかったんで、そういう意味ではいいテストケースになりました。

──誰が人気があるのかを知りたかったということですか?

渡辺 僕が気になってたのはBiSHがどう勝つかじゃなくて、BiSとGANG PARADEがどう動くかだったんです。そしたらGANG PARADEがけっこう上位を占めてたっていう。逆にあれ見ててどう思いました?

──1位が900票というのが生々しいなと思いました。

渡辺 そこは究極のインディーズ感って言うか、俺たちそんなもんなんだよっていうのをメンバーにもわかってほしいなと思ってて。AKBとは違うんだぞ、調子に乗るなよってところですね。僕も数字を見てけっこう少ないなとは思いましたけど、まあでもそんなもんだなっていう感覚もあるので。

「BiSHは横浜アリーナで解散します」

──最後にWACKの今後について伺いたいんですが、新たな企画もいろいろ予定されてるんでしょうか?

渡辺 そうなんですよ。水面下で動いてることはけっこうあるんで、合宿オーディション以降いろいろ発表できるんじゃないかなと思ってます。

──3月4日にはBiSの両国国技館公演、5月22日にはBiSHの横浜アリーナ公演と、大会場でのワンマンライブも控えています。特に旧BiSが解散ライブをした横浜アリーナには思い入れが強いかと思うんですが。

左から渡辺淳之介、松隈ケンタ。

渡辺 そうですね、本当は「BiSHは横浜アリーナで解散します」って言いたかったんですけど。

──えっ?

渡辺 いや、言ってみたいじゃないですか(笑)。それでそのあと「解散するって言ったのウソ!」って言いたくて。でもみんなに「バカなことやめてくれ」って止められました。

松隈 そりゃあ止められるやろうね(笑)。

渡辺 「なんでそんなことしなきゃいけないんだ」って言われて「そうですよね」って。

──そうでしょうね(笑)。

渡辺 いや、でも本当に解散するよりはいいかなと思って。って言うか、解散ライブだって言ったら横浜アリーナもきっと売り切れるだろうし、それで満員の横浜アリーナにバーンって出てきて「ごめん! ウソ!」って。そんなやついないじゃないですか。この規模で解散詐欺ってヤバくないですか?

松隈 普通に大変なことになるやろうね。

渡辺 なので今回はやらないですけど、いつかやりたいなって思ってます。まあメンバーに大きいステージで「ごめん! ウソ!」って言わせてみたいだけなんですけど(笑)。

V.A.「WACK & SCRAMBLES WORKS」
2017年12月6日発売 / avex trax
V.A.「WACK & SCRAMBLES WORKS」CD+DVD盤

CD+DVD盤
4860円 / AVCD-93764/B

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V.A.「WACK & SCRAMBLES WORKS」CD盤

CD盤
3240円 / AVCD-93765

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CD収録曲
  1. スパーク(オリジナル:BiSH) / beat mints boyz a.k.a. 松隈ケンタ×JxSxK
  2. オーケストラ(オリジナル:BiSH) / カミヤサキ、ゴ・ジーラ、ももらんど(BiS)&ヤママチミキ、ココ・パーティン・ココ、アヤ・エイトプリンス(GANG PARADE)
  3. gives(オリジナル:BiS) / アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、リンリン(BiSH)&キャン・マイカ、ユイ・ガ・ドクソン、テラシマユウカ(GANG PARADE)
  4. Nerve(オリジナル:BiS) / BiS、BiSH、GANG PARADE、EMPiRE
  5. Plastic 2 Mercy(オリジナル:GANG PARADE) / キカ・フロント・フロンタール、パン・ルナリーフィ(BiS)&アイナ・ジ・エンド、ハシヤスメ・アツコ、アユニ・D(BiSH)
  6. EMPiRE is COMiNG / EMPiRE
  7. WACK is FXXK / SAiNT SEX
  8. フライングヒューマノイド(オリジナル:中川翔子) / プー・ルイ、ペリ・ウブ(BiS)&モモコグミカンパニー、リンリン(BiSH)&ユメノユア、ヤママチミキ(GANG PARADE)
  9. ラバソー ~lover soul~(オリジナル:柴咲コウ) / セントチヒロ・チッチ(BiSH)&アヤ・エイトプリンス(GANG PARADE)
  10. 屋上の空 / Buzz72+ feat. アイナ・ジ・エンド(BiSH)
DVD収録内容
  • スパーク / beat mints boyz a.k.a. 松隈ケンタ×JxSxK(Music Video)
  • WACK is FXXK / SAiNT SEX(Music Video)
渡辺淳之介(ワタナベジュンノスケ)
BiS、BiSH、GANG PARADE、EMPiREらが所属する事務所・WACKの代表取締役として各グループのプロデュースを担当。前例のないプロモーション施策を次々と実施し、2014年にはBiSの神奈川・横浜アリーナ公演を成功させた。現在はWACK所属アーティストのほかに、NIGOと共にBILLIE IDLEのプロデュースも手がけている。2017年7月に千葉・幕張メッセイベントホールにてBiSHの単独公演を成功に収め、8月にはWACKとエイベックス・エンタテインメント株式会社によるプロジェクト「Project aW」で新グループ・EMPiREを始動させた。
松隈ケンタ(マツクマケンタ)
福岡県出身の音楽プロデューサー、音楽制作プロダクションSCRAMBLES代表。ロックバンドBuzz72+を率いて上京し、2005年にavex traxよりメジャーデビュー。編曲家CHOKKAKUのプロデュースにより4枚のCDを発表する。バンド休止後に作詞家、作曲家としてアーティストへの楽曲提供をスタートさせ、BiS、BiSH、GANG PARADE、EMPiREらの楽曲を手がけている。さらにロックバンドGHOST ORACLE DRIVEのボーカルを担当しているほか、ギターブランド、楽器店、音楽スクール、スタジオを運営している。